こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
PCの履歴 vs タイムカード
タイムカードを押した後もゴリゴリに働いていた女性。残業代を請求しました。
〜 結果 〜
裁判所はPCの履歴を見て「こりゃ、もっと働いているね」と認定。残業代804万円を命じました。
PCなどに爪あとを残しておくは大事です。以下、分かりやすく解説します(ブロッズ事件:東京地裁 H24.12.27)
登場人物
▼ 会社
・商業デザインの制作販売などを行う会社
▼ Xさん(女性)
・グラフィックデザインに関わっていた
・月給30万円(入社当時)
どんな事件か
クリエイターあるあるでゴッツ激務だったようです。Xさんは「頻繁に朝5時ころまで働いていました」と主張。
Xさんは入社から約3年後に休職しています。右手腱鞘炎などを発症したからです(その後、労災認定を受けています)
Xさんが訴訟を提起
Xさんの言い分は以下のとおり。
・残業代を払ってほしい(約1年10ヶ月分)
・ボーナスを不当にカットされたので払ってほしい
その他の主張もしていますが、上記2点に絞ってお届けます。
裁判所の判断
裁判所は「残業代804万円を払え」「ボーナスを不当にカットしてるわ。払え」と判断。以下、順に解説します。
本当に働いてたの?
バチバチに争われたのは【労働時間が何時間か】です。
▼ 会社の言い分
・Xさんが会社に残っている時間は他の社員と比べて長すぎる
・「深夜に眠っていた」との目撃情報もある
・日頃から社長は「残業をしないように」と指示していた
・残業を強いたことは1度もない
▼ 裁判所の判断
しかし裁判所は【PCの履歴】から労働時間を認定しました(朝5時までとは認定してくれず深夜0時くらいまでと認定されました)。裁判所の考え方は次のとおり。
タイムカードがある場合は打刻時間で労働時間を推定する
しかし、タイムカード以上に働いたとの合理的な証拠があればそちらを信用する
■ 本件
そして次のとおり【PCの履歴】から労働時間をはじきだしました。
・出勤日
タイムカードの記録はない(合計13日)
しかしPC上のにデータ保存の記録(タイムスタンプ)が残されている
この13日は出勤したと認定する
・出勤時刻
最初のデータ保存から2時間前には出勤していたと認定する
なぜなら保存されたデータの多くがグラフィックデザイン。
同時に進めていた仕事が多く、変更や修正も多い仕事だから
・退勤時刻
最終のデータ保存時刻やメール送信時刻を退勤時刻と認定する
▼ 工夫
今回はPCの履歴で認定してくれましたが、毎回うまくいくとは限りません。ほかの証拠ものこしておきましょう。たとえばメール送信しておく、家族に「今から帰る」とLINEしておくなど。【証拠は合わせ技】で強くなります。
訴訟になれば会社は「その間、仕事していたとは限らない」と反論してくるので【何をしていたか】毎日コツコツと記載しておくのも手です。
メモの証拠力は基本よわいんですが、裁判官が「これだけ毎日キチンと書いてるんだから」と信用してくれる可能性もあります。【裁判は天秤を傾けるゲーム】です。天秤に乗せる証拠をたくさんを集めておきましょう。
基礎戦闘力
基礎戦闘力がいくらか?についても争われています。
Q.
基礎戦闘力って、何ですか?
A.
残業代を計算するときの基礎賃金のことです。裁判所が認定した基礎賃金が高ければ高いほど残業代もアップします。ザックリいえば残業代=【基礎賃金×1.25】なので。
今回は基礎賃金が30万円と認定されました。Xさんの言い分が認められています(以下、判決文を再構成)
ーー 会社さんはどんな反論をしたんですか?
会社
「『基礎賃金はもっと低いです』と反論しました。だってこの30万円には50時間分の残業代が含まれているんですよ」
ーー 裁判官どうですか?
裁判所
「は?」
「残業代を含めるみたいな合意ないよね」
「合意があったとしても本給と残業代が明確に区分されてないからダメよ」
▼ 固定残業代
そうなんです。固定残業代がOKになるには、【基本給と残業代が明確に区分】されてる必要があるんです。
■ ダメなケース
× 月給25万円(固定残業代を含む)
■ OKなケース
○ 月給25万円(固定残業代 20,000円(10時間分)を含む)
○ 月給25万円(固定残業代 20,000円を含む)
固定残業代について知りたい方はコチラをご覧ください。分かりやすく解説しています
ボーナスの請求
「ボーナスが不当にカットされた」というXさんの言い分について、裁判所は「冬のボーナス+9万円、夏のボーナス+38万円を払え」と命じました。
▼ ボーナスの基本的な考え方
裁判所の考えは次のとおり。
会社が「ボーナスなし」といえば原則として請求できない
しかし!ボーナスなしが不合理な場合は請求できる
裁判官の言葉を正確に引用すると、
これまで゙の支給実績や他の労働者に対する支給の有無及び額等に照らし、当然に賞与の支給が見込まれるにもかかわらず、使用者が客観的かつ合 理的な理由なくこれを支給しないような場合には、当該不支給が不法行為となる場合もある
■ 本件
以上を前提に裁判所は次のとおり判断しました。「たしかに、査定期間中にXさんが担当する業務で4回のミスがあり会社が印刷代金を負担した。でもXさんがそのミスにどのように関与したのか不明。会社が負担した印刷代金にどう影響したかも不明。一方、査定期間中、ある会社の売上げ(約4944万円)に貢献していた。なので平均程度のボーナスが支給されるべきケースだ」と判断。