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【ヒット商品開発秘話】累計出荷数が700万錠を突破した花王「バブ MONSTER BUBBLE」

2023.03.31

■連載/ヒット商品開発秘話

 入浴剤はこれまで、効果で選ぶのが普通だった。しかし現在、新たな提案から売上を伸ばしている入浴剤がある。花王が2022年10月に発売した『バブ MONSTER BUBBLE』のことである。

『バブ MONSTER BUBBLE』は、ベーシックタイプの『バブ』よりも大きなタブレットで、湧き立つような炭酸のジェット発泡が特徴。お風呂時間の過ごし方に合わせて選べるよう「かろやかDAYS」「NIGHTモード」「スッキリFREE」の3タイプを用意。累計出荷数量は2023年2月末時点で700万錠(箱売り、バラ売りを合算した1錠換算)を突破した。

入浴剤をお風呂を楽しむアイテムに

 企画されたのは2021年。開発の背景には、コロナ禍で入浴への意識が高まってきたことがあった。

 同社によれば、週1回以上入浴する人は72%と新型コロナウイルス感染拡大前と比べて約2割アップ。湯に10分以上浸かる人もこの15年で1割以上増加し、湯船に入る時間が全体的に伸びてきていることがわかった。若年層で長風呂の傾向が見られることも判明している(以上、2018年から21年にかけて実施した同社調査より)。

 パーソナルヘルス事業部の宮橋結実さんは次のように話す。

「若年層の方々にインタビューすると、湯船に浸かりながらスマホで音楽を聴いたり動画を視聴したりする人や読書をする人が結構見られます。『バブ』はこれまで、主に疲労回復を訴求してきましたが、疲労回復にお風呂の時間そのものを楽しむことを加えた新しい提案ができる可能性が見えてきました」

 新たな提案は「かろやかDAYS」「NIGHTモード」「スッキリFREE」と気分を表す言葉を使ったことにも表れている。宮橋さんによると、これにはちゃんとした意味があった。

「お風呂のことはいったん切り離し、ベストコンディションやどういう状態がいい調子かを調査で問いかけました。回答を分析したところ、〈アクティブでいられる〉〈穏やかな状態〉〈心身がリセットされていること〉といったキーワードがピックアップできました。目指したいコンディションやどういう状態でありたいかを商品名に反映することにし、これらのキーワードから発想しました」

 なりたい状態に合わせて入浴剤を選びお風呂の時間を楽しむという提案に、『バブ』の特長である炭酸ガスによる強い泡はどう生かせると判断したのだろうか? 宮橋さんは、「ターゲットとした若年層は、泡が湧いて出てくることを面白がっているところがありました」と話し、こう続ける。

「使ってもらうと『浴後も体が温まる』といった従来から聞かれた反応もありましたが、『泡がたくさん出てきたことがすごかった』といったように泡にフォーカスしたコメントが多くいただけました。使っている最中にどう感じるかがポイントになると考えられました」

 泡はお風呂時間を楽しむ要素になり得ると確信。ベーシックタイプの40gより大きなものをつくることにした。

商品コンセプトごとに異なる泡の出方

『バブ MONSTER BUBBLE』は1錠70g。『バブ メディキュア』と並び『バブ』の中で最大の大きさになる。

 一般的に大きい錠剤を高速で大量生産するのは難しい。その理由をパーソナルヘルスケア研究所の田辺雄一さんはこのように明かす。

「錠剤が大きくなればなるほど、強い圧力をかけないと原材料は固まりません。新しい処方で70gという大きな錠剤を製造するために、個々の成分や使用する原料の選定にこだわりました」

「かろやかDAYS」はかろやかな気分になれるようシトラスグリーンの香りを採用し、湯色も重たい印象にならないようクリアイエローにした。「NIGHTモード」はじっくり、ゆっくり湯に浸かれるよう湯色を白濁したナイトブルーとし、肌感触をリラックスできるようにしたのが特徴。香りはラベンダーウッドを採用している。そして「スッキリFREE」は、汗をかきそうなイメージを持ってもらいやすいように湯色をディープレッドと濃くし、香りもスパイシーシトラスと特徴のあるスパイシーなものとした。

「かろやかDAYS」の湯色

「NIGHTモード」の湯色

「スッキリFREE」の湯色

 効果、香り、湯色のほかにも『バブ MONSTER BUBBLE』は炭酸ガスの泡の出方がそれぞれ異なる。それぞれの泡の出方は次のようなものだ。

かろやかDAYS:ベーシックタイプの『バブ』に近い感じで溶解し、泡が発生
NIGHTモード:長く楽しめるようゆっくり、じっくり溶解しながら発生
スッキリFREE:短時間で錠剤が溶解し、泡が勢いよく発生

粉末と油剤を配合して圧縮成形

 3つの中で開発に最も時間を要したのが「NIGHTモード」であった。その理由は、技術的に克服しないとならない壁があったからだった。

 壁とは、粉末原料の中に液体を配合して成形すること。リラックス感が得られる肌感触を出すため、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(以下、油剤)を使うことにしたが、安定的に配合し圧縮成形する技術を確立しなければならなかった。残り2つも粉末原料に液体の香料を配合するが既存技術で圧縮成形することが可能。「NIGHTモード」に関しては製造に特別な技術が必要とされた。

「NIGHTモード」の開発を担当したパーソナルヘルスケア研究所の倉持薫さんは次のように話す。

「『バブ』は粉末を圧縮して製造していますが、粉末に液体を混ぜて圧縮するのは容易ではありません。油剤ということもあり配合するのが難しく、製造技術を開発しないと実現できませんでした」

 倉持さんによれば、必要とされた技術はある程度のレベルまではできていたが、「NIGHTモード」の製造に当たり完成させることになった。工場の生産設備で実現可能なのかどうかを急ピッチで検証。油剤は固めにくいことから思った通りに行かなかった面があったという。

花王
パーソナルヘルスケア研究所 田辺雄一さん(左)
パーソナルヘルス事業部 宮橋結実さん(中)
パーソナルヘルスケア研究所 倉持薫さん(右)

メタバースで渋谷スクランブル交差点に巨大な湯船を設置

 現時点の売れ行きは対計画比で112%。従来の『バブ』にあった疲労回復といったイメージの脱却が功を奏した。

 従来からのイメージ脱却は販促に如実に表れた。「お風呂を楽しむ」「お風呂をもっと面白く」といった世界観を打ち出すことにした。テレビとウェブ上で流したCMだけではなく、発売に関するプレスリリースでもその世界観を前面に押し出したほど。いかにも入浴を楽しみノリノリな様子の女性を配したメインビジュアルを先頭に持ってきたほどである。

商品に関するプレスリリース(2022年9月26日付、2023年1月13日付発信)の先頭に持ってきたメインビジュアル

 極め付けがメタバース。発売後の10月26日から31日にかけ、メタバース空間「バーチャル渋谷」 で実施された「バーチャル渋谷 ハロウィンフェス」に参画。ハロウィン仕様の渋谷スクランブル交差点に巨大なバスタブを設置して渋谷の街を一望しながら炭酸のジェット発泡や色とりどりに湯面が変わる幻想的なバーチャル入浴タイムを過ごせたり、SHIBUYA109前に置いたバスタブでジェット発泡が吹き出して人が打ち上げられたりといった新感覚の入浴価値を提案した。

「バーチャル渋谷 ハロウィンフェス」にて、ハロウィン仕様の渋谷スクランブル交差点に設置した巨大なバスタブ

「バーチャル渋谷 ハロウィンフェス」にて、SHIBUYA109前に置いたバスタブから吹き出したジェット発泡

 販促でのメタバース活用は、花王の日用品ではほぼ初めてに等しい。メタバースに着目した理由を、宮橋さんは次のように話す。

「今までの『バブ』のイメージ脱却が消費者コミュニケーションの大きなテーマだったのですが、この商品は香りや湯色はそれぞれの世界観に合うようつくったものなので五感で感じ取ってもらいたいと思っていました。これらは使ってもらわないとなかなか実感いただけませんが、お風呂ではない場所で香りや湯色、ジェット発泡を疑似体験してもらう手段としてメタバースに着目しました」

一番の売れ筋は「NIGHTモード」

 店頭では6錠入り1パックと1錠ごとのバラ売りという2つの売り方をしている。最初はお試しの意味もあってかバラ売りの動きがよかったが、徐々に6錠入り1パックの売れ行きが伸びるようになった。

 3つの中で一番売れているのは「NIGHTモード」で、全体の半分近くを占めている。この理由を宮橋さんは次のように分析する。

「睡眠への関心が高く関連商品がよく売れていることから、『NIGHTモード』というネーミングやパッケージに『おやすみ前に疲れをほぐす』とあるのを見て睡眠を連想したのかもしれません。最近の潮流に乗れたといえます」

取材からわかった『バブ MONSTER BUBBLE』のヒット要因3

1.コンセプトが受け入れられた

 疲労回復だけではなく、お風呂時間を楽しむアイテムとして訴求できるものを開発。お風呂の時間を楽しむ傾向にある若年層に支持された。

2.五感で実感する処方設計

 発泡を強化し温浴効果を高めただけではなく、3タイプともコンセプトに合う処方を設計。今までの『バブ』との違いが五感で実感できる要素が多く、若年層に興味を持ってもらいやすかった。

3.今までの『バブ』と違うことを明確に打ち出した

『バブ』は1983年に誕生したロングセラー商品なだけに、イメージが固まっている感がある。販促でメタバースを活用するなどしてコンセプトがそもそも異なることを明確に打ち出し、商品の性格やターゲットを正しく伝えることができた。

「かろやかDAYS」「NIGHTモード」「スッキリFREE」は、調査から抽出できたベストコンディションや調子がいい時の状態を表すキーワードを元に発想されたものだが、キーワードはこれら3つの元になったもの以外も抽出できている。新たなアイテムもキーワードを元に考えられるという。

「なりたい状態は日によって変わるので、たくさんアイデアが湧いてきます。その1つとして、2023年4月に『ゆるんとジャグジー気分』を発売します。暑いときの長風呂を心地よく楽しんでいただけるアイテムです」と宮橋さん。お風呂時間がより楽しくなる新アイテムをこれからも期待したいところである。

2023年4月発売の「ゆるんとジャグジー気分」

製品情報
https://www.kao.co.jp/bub/lineup/monster-bubble/

文/大沢裕司

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