Q.部下の頃、困った上司はいましたか?
坂本:「弱っちゃうな」と感じた上司はいました。日々の仕事をこなすのですが、右から左に流しているだけで、それ以上のことをしない。ルーティーン・ワークはするけれど、面倒なことはしないタイプでした。
今にして思うと、そんな上司にももっとうまく対処しておけばよかったです。自分ひとりの判断でできる仕事は、どんどんと進めてもよかったのかもしれません。当時の私には、その器用さがなかったのです。会社という組織で生きていくときには、このセンスが必要でしょう。
その後、会社を離れ、武笠と一緒にザリガニワークスとして仕事をしていますが、取引先の担当者を見ていると、上司の動かし方が上手いなと感じます。私も会社員の頃、こんなようにしておくべきだったと思うことがあるのです。
Q.ザリガニワークスのオフィスは、原宿にありましたね。最近は、お二人はそこを離れ、それぞれの自宅で仕事をしていると伺いました。
坂本:この体制になったのが、2020年3月。新型コロナウイルスの感染拡大により、政府の緊急事態宣言が発令された頃です。3月からの数か月間、自宅で仕事をしつつ、週1回のペースで原宿の表参道そばのオフィスに出社していました。その数か月間で仕事の問題やトラブルがなかったから、自宅で仕事をしてもいいよね、と互いに思うようになったんです。
武笠との共同の事務所を離れ、寂しい気はしています。原宿のオフィスの頃は僕が雑談を含めていろんなことを隣に座る武笠にずっと話しかけていました(笑)。1週間で、トータルで24時間以上はくだらない雑談をしていたように思う。その時、武笠は黙々と作業していることが多いから反応したり、しなかったり。武笠を構いたい思いが強かったんでしょうね。今は、それができない。
Q.2人がリアルに向かい合う機会が減り、創造的な仕事に影響はありませんか?
坂本:それがどうなるのかなと気にはしていたのですが、今のところは問題はないと思います。雑談をフェイスブックのメッセンジャーでするようになったんです。
以前は業務連絡が中心だったのですが、最近は例えば「あの漫画、読んだ?」と投げかけて、武笠が答え、僕が応じるようなやりとりが増えました。オフィスにいる時に好き勝手に言っていた時と同じように、武笠の都合を考えずに送ることができるんですよ。
進んでいこうとする方向が同じだから、意見が違ったとしても喧嘩には全然なりません。むしろ、アイデアの弱いところが見つかったりして大切な場になります。例えば武笠は、送り手都合できっちりと考えるのが得意。例えば、売り場に商品が並ぶまでにその間に立つ人たちのことも想像し、その人たちに対するメリットも踏まえて僕のアイデアに助言ができますからね。
次回はイラストレーターで、作家の森伸之さんを予定。
取材・文/吉田典史