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停滞気味のシェアサイクル事業が静岡市で成功を収めている理由

2023.03.16

静岡県静岡市でサービスを展開しているスマートシェアサイクル『PULCLE』。2020年6月から市内を走っているこの自転車は、今や「市民の足」となっている。

これは「スマートシェアサイクル事業が地元に定着した」という意味で、世界的に稀有な例である。

決して誇張した表現ではない。当初は環境活動家や国連機関からも絶賛されたスマートシェアサイクル事業は、2018年を境に下り坂へ差しかかった。

その理由は、日本ではまず考えられない現象に起因する。

世界各国へ進出したスマートシェアサイクル事業者は、次々に撤退或いは破綻した。が、それをよそにPULCLEは着実な成長を遂げ、静岡市での生活になくてはならない交通手段となったのだ。

静岡市民の足となった『PULCLE』

「現在、PULCLEの自転車は約500台あります。台数を増やす際は、必ず公表しています」

そう語るのは、静岡市交通政策課のシェアサイクル事業担当者である。

TOKAIケーブルネットワークが運営主体、静岡市が実践主体としてサービス展開しているPULCLEは、地元サッカークラブの清水エスパルスがブランド協力をしている。

従って、PULCLEの自転車は駐輪場に至るまでエスパルスオレンジに染め上げられている。

PULCLEの利用はシェアサイクルアプリ『HELLO CYCLING』から行う。15分70円、12時間で1,000円という利用料金だ。

決済はもちろん、アプリを介したキャッシュレス決済。なお、PULCLEの自転車は全台が電動アシスト付きで、少しの力で速く漕ぐことができる。

「サービス開始当初は、市民の皆様から放置自転車の増加を懸念する声もありました。が、今ではそのような声は殆どありません」

その言葉通り、PULCLEの自転車が道端に放置されている場面は見たことがないし、そもそもそのようなことはできない仕組みになっている。決められた駐輪場に戻さなければ、課金が止まらないようにできている。

そして上述のように、PULCLEはオペレーション台数を追加する際には必ず公表する。これは言い換えれば、運営者の都合で無尽蔵に自転車を増やすことはないという意味だ。

「そんなの当たり前じゃないか」と言ってはいけない。パンデミック発生の2年前まで我が世の春を謳歌していた海外スマートシェアサイクル事業者は、まさに思いつきの如くオペレーション台数を増やして大失敗したのだ。

2018年6月のシンガポール

2018年6月、筆者はシンガポールにいた。

この時、アメリカのトランプ前大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(当時の肩書き)による米朝首脳会談が行われていた。

従って、当時の警備体制は「物々しい」ではまだ足りないほどの厳重さだった。屈強な武装警官があちこちのチェックポイントに立ち、何かあれば手にしている自動小銃を構える勢いだ。

そんな警官を見据えるように、1台の自転車が佇んでいる。

その自転車は、ところどころが壊れている。ブレーキワイヤーが切れ、何とサドルもなくなっている。このような代物に、誰が乗るというのか。

しかしこの自転車の車体には「oBike」と書かれている。そう、これは当時存在したスマートシェアサイクルoBikeの車両なのだ。

そしてよく見れば、街のあちこちにシェアサイクルの自転車が放置されている。oBikeだけではない。ofoやMobikeといった、2017年まで経済メディアを賑わせていたスタートアップの車両も目立つ。

シンガポールでサービスを展開しているスマートシェアサイクルは、文字通り「乗り捨て」ができる仕組みだった。

自転車1台1台に小型ソーラーパネルとGPS装置が搭載されているため、アプリを見ればそれぞれの自転車がどこにあるのか一目で分かる。

もっとも、数万という数の自転車が僅か721.5 km²の国を埋め尽くしているため、気持ち悪くなるほど自転車アイコンが連なっている状態である。

要するに、スマートシェアサイクルの車両がそのまま放置自転車と化していた……というわけだ。

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