■連載/阿部純子のトレンド探検隊
循環型有機酪農を目指した有機酪農牧場「別海ウェルネスファーム」を開設
高齢化や後継者不足による酪農家数の減少、環境負荷軽減、食料の安定的供給確保といった、社会課題を解決する取組みとして、化学メーカーのカネカは有機酪農牧場「別海ウェルネスファーム」(北海道別海町)に2020年に開設。2021年から運営を開始し、北海道の酪農家と共に酪農から生活者までをつなぐ、乳製品のプラットフォーム化を目指している。
カネカは2018年より乳製品事業を展開しているが、有機酪農の普及が海外に比べて進んでいないことから、乳製品事業を通じて自社運営牧場での生乳増量と酪農家とのパートナー契約により有機酪農の拡大を目指す。有機生乳生産は2026年に3000t/年、2028年には5000t/年を目標に取り組んでいる。
別海ウェルネスファームでは、ベルギーの有機酪農をモデルにした「人にやさしい・牛にやさしい・環境にやさしい循環型有機酪農」を目指し、持続可能な酪農のための実験施設としても機能している。
自社で牧草、有機飼料を栽培、牛の排泄物は堆肥化して飼料栽培に活用している。さらに、重労働である搾乳作業の負担を軽減して酪農現場を省力化し、有機酪農を始めやすい環境にするため、自動搾乳機を導入。自動搾乳機から牛の状態の情報がわかり牛の健康管理にも役立っている。
現在、3名で牛の飼育、牛舎の管理、生乳の出荷から、123haの圃場で飼料の栽培も行っている。また、隣接地に設置したソーラーから牧場に電源を供給してゼロエネファーム化を目指している。
放牧による飼育に加えて、牛舎内を自由に動き回れるフリーストールを採用。5~11月の放牧期は、放牧地と牛舎内を牛が自由に出入りできる環境にしている。この方法もベルギーの牧場を参考にしている。北海道でも約6割がつなぎ飼いで行われており、フリーストールと放牧を組み合わせた飼育は全国でも希少な酪農形態となっている。
「別海ウェルネスファームは2022年に有機JAS認証を取得しました。カネカは化学メーカーですので工場やプラント建設は経験がありますが、牧場建設は初めてで非常に苦労しました。一番苦労したのが有機飼料の栽培。有機栽培では農薬、除草剤は使えないので、1年目はコーン畑に雑草が生い茂る状態でしたが、北海道大学や有機酪農を実践する多くの酪農家の方々からアドバイスや指導をしていただき、除草時期、除草するトラクターの設定の仕方など除草に関するノウハウを学びました」(カネカ 乳製品事業開発Strategic Unit ユニットリーダー 吉岡敏志氏)