精米歩合競争をやめニーズに合った価格設定を
もうひとつ、藤井さんは面白い取り組みをしている。県内の3人の若手杜氏を集めて広島醗酵共同研究会を立ち上げた。
広島には、日本で最初の精米機をつくった「サタケ」という世界トップクラスの精米メーカーがある。そのサタケが2018年、新たな精米法を開発。それは「真吟」(しんぎん)と名づけられている。
酒に使う米は玄米の状態から中心部を残すように削る。周辺はたんぱく質や脂質を含み、雑味の原因になるからだ。吟醸酒は60%、大吟醸酒は50%まで削ることが決められている。そのため精米歩合(削った割合)が、酒の質を評価する指標になった。その影響で、精米歩合が低いほど酒の価格が上がるという精米歩合競争がこの数十年、40%、30%と加熱していった。
サタケの真吟精米機は、削り方の向きを変えることで、精米歩合を下げなくても、たんぱく質の部分を除去できるというもの。今までひたすら「丸く」削っていた米を、米の形状に合わせて厚みを削ぐ。そうすることで、たとえば、これまで精米歩合40%でないと得られなかった味が60%で得られるようになったという。
画期的な精米機だと思う。だが、本当に60%の米で40%の米と遜色のない酒が造れるのか、藤井さんは今年、実験するのだ。
広島醗酵共同研究会のメンバーである3つの蔵は、中国山地の麓に近い旭鳳酒造、広島市内の三輪酒造、そして瀬戸内の藤井酒造と、同じ県内でも気候風土が異なる。その特性を活かして、今年、サタケの真吟精米を使って、特別純米と純米大吟醸、2本ずつ造る。サタケ精米機の実力を、地元広島の若い蔵元が評価する。
広島醗酵共同研究会のみなさん。藤井酒造は、竹原の町並み保存地区内にあり、江戸時代からの藏や屋敷が残る。
「うまくいけば、精米歩合競争も終わるかもしれません」
となれば、真吟精米はまさに日本酒界に技術革新をもたらすだろう。
「これまで日本酒は精米歩合で値段がつくような、つまり原価を基準にして価格設定されてきました。日用品ならそれでいいのですが、酒は嗜好品です。ニーズに合わせて値が決まっていいはずです。いいものは高い。当たり前のことが日本酒では実現していない。いろいろ昔ながらの事情はあるものの、流通も変えて行く必要があると思います」
伝統と革新のバランスをどうとっていくか。
元来、日本酒はそこにある原料を使い、そこに棲む菌たち(酵母)の働きで醸される。ぬかみその味が一軒ずつ微妙に違うように、土地によって微妙に異なる味が生まれるのは当然だ。長い歴史と伝統を引き継ぎながら、ここだけの日本酒を考える藤井酒造の6代目である。
藤井酒造は酒蔵の一角が、試飲や手打ちそばが食べられる「酒蔵交流館」になっている。
●藤井酒造 広島県竹原市本町3-4-14 https://www.fujiishuzou.com
取材・文/佐藤恵菜