日本酒というとあなたはどんな酒を思い浮かべるだろうか? キーンと冴えた吟醸酒、フルーティな香りがする酒、アルコールの香りの強い酒、好みによって違うだろう。
一部の銘柄が話題になる一方、日本酒の販売量は前年割れが続いている。そんな中、日本酒の新たなうまさを求めて模索する蔵元が増えている。酒どころ広島県の藤井酒造(竹原)と、今田酒造(安芸津)、2つの蔵元を訪ねた。
創業160年、伝統ある蔵元の「伝統」って何?
瀬戸内海に面した広島県竹原。江戸時代まで塩の生産と流通の地、日本酒造りで栄えた。今も残る蔵元のひとつ藤井酒造は1863年創業、今年で161年目を迎える。「龍勢」「夜の帝王」などの銘柄が人気だ。
6代目、藤井義大(のりひろ)さんは、日本酒業界の現在の状況を「伝統と革新のバランスが取れていない蔵が多い」とみる。そして「日本酒を盛り上げるためには、地域性を復活させることが最低条件だと思います」と話す。
藤井酒造6代目の藤井義大(のりひろ)さん。1983年、神奈川県生まれ広島県育ち。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校フィナンス学科卒業後、東京のマーケティング会社に勤務。2014年、広島に戻り、家業を継ぐ。
当社もそうですが、と前置きしながら藤井さんはこう話す。
「よく日本酒の会社や味について、“創業何年の伝統ある蔵元です”と説明されますが、ではその蔵において“何が伝統なのか”について答えられる蔵は少ないと思います。“○○○○年に創業”というのは歴史ですよね。では、それだけ長く続けてきた会社のアイデンティティーは何か、日本酒における伝統とは何か?」
家業を継ぐまで藤井さん自身、日本酒業界についてそれほど精通していたわけではなかった。約10年前に入社してから、「伝統、伝統というわりには、その中身が明確でないな」と気づいた。伝統はあるけどアイデンティティーがないってどういうこと? 大きな疑問が生まれた。
そして今、義大さんが手がけるのが、蔵オリジナルといえる蔵付き酵母の発掘と実用化だ。蔵付き酵母とは、その酒造所に棲んでいる酵母のこと。ビール業界では野生酵母と呼ばれることもある。