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「地域性の復活なくして日本酒の復活はない!」広島県竹原の藤井酒造6代目が挑む日本酒の新しい伝統と革新

2023.02.01

蔵付き酵母を使って醸造する実証実験がスタート

日本酒は米、水、麹、酵母を原料に造られる。酒米を蒸し、蒸し米を麹で糖化し、その糖を酵母が分解してアルコールを生成し、酒になる。麹も酵母も菌だ。昔は蔵に棲みついている無数の菌の中のどれかが酵母として利用されていた。顕微鏡や培養技術の乏しい時代であるから、どの菌がどのように繁殖しているかはよくわからない。それを杜氏をはじめとした酒造りのプロたちが使いこなしてきた。といっても、とにかく相手は目に見えない菌。醸造工程で酒が腐敗することは珍しくなかった。

明治期に入り、日本酒の近代化をめざして日本醸造協会が発足し、そこでは有用な酵母の研究開発がさかんに進められた。安定性の高い、つまり酒が腐敗しにくい、使い勝手のいい「協会酵母」が開発され、今では各県の酒造協会から頒布されている。広島県で育種された菌には現在「広島26号」「広島吟醸酵母」など4種がある。もっとも、蔵元は造りたい酒に合わせて協会酵母に限らず好きな酵母が使える。

良質な協会酵母が果たした働きは大きい。ただ、その恩恵の一方で、蔵付き酵母を活かした酒造りは廃れていった。手間がかかりすぎるし、醗酵上のリスクが高すぎる。それでも藤井さんは蔵付き酵母の酒造りに乗り出した。

「地域性を表せるいちばんの原料は酵母だと思うからです。蔵付き酵母を使い、昔ながらの造り方で、人工物は添加せず、この蔵でできるものを極めていく。それを軸にしていくことで蔵の伝統を保つことにもなるし、地域性のある味わいも出すこともできます」

藤井さんは昨年から「龍勢Lab.」(りゅうせいらぼ)と名づけて、蔵付き酵母で造った酒の検証を開始。酒蔵で酵母を採取したところ、200種類以上の酵母が見つかった。

藤井酒造で発掘された蔵付き酵母たち。

それが本当に蔵独自の菌かどうか、また、お酒に有用な酵母かどうかは、県の研究機関でスクリーニングした。まず、協会酵母の遺伝子を汲まないものをより分けて、アルコール耐性、繁殖能力が高いものを抜粋。そこから官能評価、飲んでおいしくなるかどうか。

「これらのスクリーニングを経て8種類の酵母に絞り込みました。今期は、このうち2種類の酵母を使い、仕込みのレシピを変えた4パターンの酒を造ります」

古い建物だからこそ棲みついている酵母がある。技術があるからこそ新しい酵母を使った造りに挑戦できる。藤井さんの言う「伝統と革新のバランス」に挑戦している。

酵母によって風味にどんな違いが出るのか。協会酵母とどんな違いが出るのか。龍勢Lab.で実験してみないことにはわからない。3月に仕込み、はじめの蔵出しは5月になる予定だ。

ここにしかない酒が人を呼び込む

龍勢Lab.の取り組みは実験過程をnote で公開している。日本酒界ではあまり見られなかった情報公開である。

「ファンの方といっしょに官能評価をしていくつもりで経過を共有しています。僕は無難な酒を造りたいとは思っていません。プロトタイプで率直な意見をもらいながら、ウチだけの酒を造りたい」

2021年、龍勢Lab.は、「広島6号」という広島でいちばん古く、現在は使われていない酵母を使い、さまざまなレシピで醸造した。「時代が変わった今、これで造るとどんな味ができるのか」、温故知新の試みだった。

消費者は出来上がった商品だけではなく、それが生まれた背景を知りたい。さらには“メイキング”に参加したいという欲求もある。藤井さんのnote「龍勢Lab.」は、日本酒界にそうした流れを引き込むきっかけになるかもしれない。

今期の「龍勢Lab.」の結果がどうであれ、藤井さんは今後、蔵付き酵母を使った酒造りにシフトしていくつもりだと話す。

「すでに当社は江戸時代からの造り方で7割、造っています。今年はこれを9割に引き上げ、来年には10割までもっていく予定です。酵母もゆくゆくは蔵付き酵母だけで造るというのが、次のフェーズです」

藤井酒造だけでなく日本酒界も俯瞰している。

今の日本酒をざっくり分けると、昔ながらの酒を昔ながらの体制で造っている蔵、ひと昔前に流行った酒を造る蔵、最新の味わいを造る蔵と、味わいでのレイヤーはできているけれども、地域による差別化ができていません。だから、日本酒を飲みにわざわざ広島に来るか、竹原まで来るかというと来ないですよね

酒造工程は異なるが、ワインの場合、ブルゴーニュワインが好きな人がワイナリー巡りをするならブルゴーニュに行くしかない。ウイスキーなら、たとえばアイラウイスキーが好きな人はアイラ島に行くしかない。

ひるがえって日本酒。広島で造られた酒と東北で造られた酒に、明白な味の違いがあるのか? といえば、一般のユーザーにはほとんどわからない。となると、たとえば東京在住者なら、自分好みの酒を関東圏でも見つけられるだろうから、広島まで出かけて行く理由がない。これだと日本酒ツーリズムは成り立たない。

日本酒の蔵には、それぞれの地域の気候や風土に適応した蔵付き酵母が生息している。

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