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中途採用で入社した社員の苦悩から読み解く一流企業の問題点

2023.01.30

■連載/あるあるビジネス処方箋

今回は、会社員の人事評価や処遇について昨年取材し、随分と考え込んだ事例を紹介したい。読者諸氏にも、いずれ降りかかることがあるかもれないケースだ。

ある男性は29歳の時、超一流企業に中途入社した。だが、スランプに苦しみ、孤立する。ついには上司から退職を迫られ、失意の日々で辞めたくなるという。

漠然とした理由や目的での採用、マネジメントにも問題が?

男性は放送局の報道局ディレクターで、上司である部長や副部長から退職勧奨を受けていた。会議室に呼ばれ、「退職を考えたほうがいい」「残っても、活躍の場はない」と、1時間程言われる。話し合いは2か月で5回を超えた。

男性はこの2年前に800倍の中途採用試験に受かり、入社した。だが、思い描いたように仕事ができない。部長や副部長、先輩社員と企画や番組作りをめぐり、意見がぶつかった回数は部内(ディレクター70人程)で最も多い。激しい口論にも何度もなった。

男性が「上司から退職を迫られている」と同世代の社員に言えば、「あなたの姿勢にも問題がある」と突き放される。部内のほぼ全員が、新卒で入社している。2000年前後まで数十年間、新卒採用のみだった。「純血主義」とも言われていた。

中途採用者は、現在も全体のうちで数パーセント以下。ディレクターは東大や京大など旧帝大卒が7割以上を占め、私立では早稲田や慶應、上智、ICU、明治、立教、同志社クラスよりも下の入学難易度の大学卒業者はほとんどいない。定着率は高く、35歳までに同期生で辞めるのは2人程。

私が「この事例についてどう思いますか?」と取材を試みたのが、人事コンサルタントとして活躍する久保博子さんだ。2010年から人事コンサルティング会社・トランストラクチャの人事総務部長も務める。

久保さんは、「男性と放送局双方の入社時のすり合わせが不十分だったのではないか、と思います」と答え、こう続けた。

どのような部署で何をするのか、そのレベルなど期待値はどのくらいか。中途採用の場合、入社前にこれらを徹底して話し合い、共有することが大切。“組織の活性化”と漠然とした理由や目的で採用すると、今回のような問題が生じる場合があります。

優秀な新卒採用者が多数を占め、定着率が高い企業は人材の質が同質で、血が濃い風土になる傾向があるのです。こういう組織では、特にまだ経験が浅い20代の中途採用者の活躍は上司や組織長に高いレベルのマネジメント力がないと、活躍するのは難しい場合がありえます。

部長や副部長が、男性が活躍できる環境をどのように整えようとしたのか。そもそも放送局として、この男性のようにある意味で異質と言える人材を受け入れる風土を本当に作ろうとしていたのか。仮にそれらが不十分でありながら、2年目の社員を退職勧奨しているならば大きな問題があります。

新たな人を採用し、生え抜きの社員と競争させるだけで、競争環境マネジメントをしなければ、潰し合いや足の引っ張り合いになる可能性もあるでしょう。潰し合いや足の引っ張り合いの中でも上手くいく人はいるのでしょうが、そうではない人もいるのです」

20~30代の中途採用で特にこの類の問題が起きやすい職種は、「企画職系」だという。

「日本企業の伝統であるメンバーシップ型の最たるものと言えます。企画職で採用時のすり合わせが曖昧な状態で入社すると、本人は何を企画すればいいのかと考えるところから取り組まざるを得ない。さらにはどのように成果、実績を残せばいいのか。どういうように立ち振る舞えばよいのか、といったところから遡り、考えるケースが多い。結果として、周囲に必要以上に同調することになっていきがちなのです。これでは、組織の活性化にはなりえない。

業界や企業規模にもよりますが、ビジネスモデルがしっかりしていて収益が確保されるビジネス構造になっている会社では、これまでと同じビジネスのあり方ならば社員の質に関係なく、部署の業績はある程度維持できる傾向があります。個人ががんばろうと、業績は大きく変わらない一面があります」

これは筆者の考えであるが、各業界上位3番以内の企業は日本経済をリードするリーディングカンパニーであり、多様な価値や人材を受け入れ、活気あふれる組織を作る責任がある。今回のケースだけで論じることは無理があるかもしれないが、中途採用を観察していると、人を採用し、生え抜きの社員と競争だけをさせているケースがあることは事実だ。結果として潰し合いや足の引っ張り合いをするのは人間の性とも言えるのかもしれない。それで組織として一定の成長をしてきたことも事実なのだろうが、リーディングカンパニーとしての責任はどうなのか。少子化で、優秀な人材を獲得するのが一段と難しくなる時代において、このような感覚でいいのだろうか。私には、疑問が尽きなかった。

読者諸氏は、今回の事例から何を感じただろう。

文/吉田典史

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