チケット・飲食・グッズのすべてが値上がりか
東京ディズニーリゾートは2021年10月1日にチケット価格の見直しを行いました。時期に応じて価格が変動するダイナミックプライシング方式を導入し、7,900円~9,400円にするというもの。それまでは平日8,200円、休日8,700円という2段階制でした。
場合によっては、新価格が従来のものよりも下がるように見えますが、この方式はオリエンタルランドにとって極めて有効だったことがわかります。
2022年の入園者一人当たりの単価は15,683円。2020年の11,504円と比較して36.3%も増加しています。客単価のうちでチケット価格の押し上げ効果が強く、2020年の5,252円から7,590円まで44.5%も増加しました。
下のグラフは客単価の内訳。その推移を見ると飲食販売、商品販売の項目すべてが増加していることがわかります。
※決算補足資料より
2022年は2020年と比較して、飲食販売が31.5%、商品販売が28.1%それぞれ増加しています。顧客一人当たりの購買数が増えた可能性もありますが、3割も増加するとは考えづらく、食事やドリンク、グッズの値段を上げたのでしょう。東京ディズニーリゾートは2022年9月4日から一部メニューの値上げを公式発表していますが、その前から値上げは始まっていたものと考えられます。
その場所でしか体験できない価値を創出
一般的にテーマパークは値上げの影響を受けやすい業種です。生活必需品とはいえず、代わりになるものや競合サービスが数多く存在するためです。例えば、とある遊園地が値上げに踏み切った場合、消費者は「それならば家でゲームをしていよう」「新しくできた水族館の方が安いからそっちに足を運ぼう」などと考えてしまいます。値上げは客離れを引き起こす主要因となります。
東京ディズニーリゾートが強気な料金設定をできた理由は2つあります。1つは唯一無二の体験ができる場所というポジショニングができていること。もう1つは新エリアの開業を控えてファンの期待感を得ていることです。
コロナ前の東京ディズニーリゾートの年間入園者数はおよそ3,000万人。これは開園当時の3倍に相当します。通常、テーマパークは開園時や話題性の高い時期に人気が集中し、少しずつ集客力を失います。
かつて東京都練馬区に「としまえん」という遊園地がありました。としまえんはバブル最盛期に年間400万人を集めていましたが、閉園する前の2019年は100万人ほどと集客力を1/4に落としていました。USJのようにV字回復を果たした例外もありますが、多くのテーマパークや遊園地は似た道を辿ります。
今年で開業40周年を迎える東京ディズニーリゾートが集客力を落とさず、拡大し続けているのは、根強いファンを持ち、他の施設では体験できない特別な時間を味わえるという認知を得ている証拠と言えるでしょう。そしてそれは、顧客体験を一番に考える、オリエンタルランドの経営方針の賜物です。
新施設ファンタジースプリングスが満を持してのオープン
東京ディズニーリゾートが値上げをするタイミングも絶妙でした。3,200億円もの投資を行い、2023年4-6月を目処にオープンする新施設『ファンタジースプリングス』のお披露目を控えているからです。
※決算説明資料より
この施設は大人気作『アナと雪の女王』のフローズンキングダムや、ピーターパンのネバーランドなどで構成されており、大規模な拡張工事を伴うもの。2014年に正式発表されてから、9年もの歳月をかけてのオープンとなります。
入園者からすれば、新たなアトラクションがオープンするのであれば、多少の値上げは仕方がないと考えるでしょう。少しくらい高くても、いち早く体験したいと思うかもしれません。
新施設オープンで客数が跳ね上がるのは必至。入園者数の急増、客単価のアップ、ホテルの稼働が高まることで、2023年度のオリエンタルランドの業績が更に上向くことは間違いありません。
オリエンタルランドは、エンターテイメント企業のお手本となる会社です。
取材・文/不破 聡