■連載/ヒット商品開発秘話
目もとのハリがなくなってくると、年齢より年上に見えるなど若々しい印象から遠ざかる。念入りにスキンケアをしたいところだが、男性の場合、年齢が上がれば上がるほど面倒に感じおざなりになっていないだろうか?
そんな男性にも簡単に目もとのケアができるのが、マンダムの『ルシード 目もと集中ケアパック』である。
2022年2月に発売された『ルシード 目もと集中ケアパック』は目もと用のパックで、貼るとコエンザイムQ10と5種類の保湿成分を含んだゲルが肌に密着。寝ている間中、角層まで浸透し続ける。週1、2回貼るだけでよく、朝起きたらはがすだけと手軽だ。
ミドル男性向け化粧品ブランドの『ルシード』の商品なので、ターゲットはシワや肌のハリが気になってくる40代以降のミドル男性。男性向けスキンケア商品でパックはなじみが薄いものの、発売開始からこれまでに7万個以上が出荷されている。
ずば抜けた簡便さが支持される
ミドル男性は顔のどのあたりに悩みを持っているのか? 同社が調査したところ、トップだった頬の次に来たのが目もとであった。目もとは皮膚が薄いので変化が起こりやすい。肌のハリが衰えたりシワができやすくなったりといった悩みが目立つところである。
男性が自分の顔で目もとにも意識が向かうようになった1つの要因に、新型コロナウイルスがある。マスク生活で目もとを見る機会が増える中、リモートワークへの移行が進みオンライン上でのミーティングなども増加。パソコン上で自分の顔を長時間見るようになることで、目もとが気になるようになった。
関心が高いこと、悩みの中身がはっきりしていることから、同社は発売の1年半ほど前に、ミドル男性に使ってもらえる目もとケア商品を複数案企画する。その中から技術的に可能かどうか、といった観点から3本に絞り、生活者へのリサーチを実施した。
開発は、コンセプト立案の段階から悩まされた。開発を担当したブランドマーケティング一部の濱亮輔氏は、このように話す。
「プラスαの商品を手に取ってもらうことのハードルが高く、どうすればいいか悩みました。簡単にできる、使うのは週1、2回程度、『ルシード』ブランドの知名度、価格の4点から、このハードルを乗り越えられるコンセプトを選択しました」
3つの企画案は目もとに貼ってパックするタイプ、クリームを塗りマッサージするタイプ、電動ローラーを使いマッサージするタイプ。この中で生活者の反応が一番良かったのが、圧倒的にパックだった。
パックが圧倒的な支持を集めたのは、週1、2回、寝る前に貼り朝起きたらはがすだけという、とくに「簡便性」がずば抜けて高かったからであった。男性にはなじみが薄い上に珍しいが、ミドル男性は湿布のイメージから効果を実感してもらいやすいことから、実現することにした。
絶妙なゲルの厚さで効果とはがれ落ちない粘着力を両立
処方は保湿に重点を置くことにした。キーになるのはエイジングケア成分としての知名度が高く、『ルシード』ブランド全般で使用しているコエンザイムQ10。これに加え、5つの保湿成分を採用した。保湿効果を実感してもらえるようにすることもさることながら、皮膚の薄い目もとに貼ることから刺激を抑えることを心がけた。
コエンザイムQ10以外に5つの保湿成分を使っているが、なぜ5つも使ったのか? その理由を濱氏はこのように話す。
「保湿成分にもいろいろあり、組み合わせることで1つの成分では対処できないアプローチができます。今回の場合は5種類の組み合わせが高い保湿効果を発揮する上で最適でした」
処方や使用感は濱氏でも30回は検証。これまで自身が開発を担当した商品の中でも多い方だそうで、やや苦戦した格好だ。
30回の検証の中では40代以上の男性社員も協力している。当初は使用感について「寝ているときにはがれるのが不快」といった反応があがったこともあり、得られた声を元にブラッシュアップを重ねていった。効果そのものは「目もとにハリが出てきた」といったポジティブな反応が多く、処方に自信を持つことができた。
「はがしたときに潤っていることを実感してもらいたかったので、ゲルの厚さにはこだわりました」と濱氏。寝ている間にはがれ落ちないようにする粘着力と両立させるには、ゲルの厚さがカギを握っていた。朝起きたときに乾ききっていてはがれることがあったり、逆に保湿成分などを十分な量を含有できる厚さにしたら粘着力が落ちてはがれやすくなったりしたこともあった。
検証した30回のうちの半分ほどは、ゲルの厚さを変えているほど。「まさか、ゲルの厚さをどうするかでこれほど悩むとは思ってもいませんでした」と濱氏は振り返る。
パックは目の下だけではなく目尻のあたりまでカバーすることにした。「大きすぎると圧迫感を感じるので、大きすぎずしっかりケアできる絶妙なサイズと形状に仕上げました」と濱氏。サイズ、形状ともに10パターンほどつくり検証した。
また、男性向けのパックが珍しいことから、パッケージデザインは悩みが深い人の目に留まり手に取ってもらいやすいことを意識した。
「この商品が何物かがパッと見ただけでわかるようにすることをとにかく意識しました」と濱氏。目もとにパックを貼った写真を使ってもわかるが、『目もと』の文字を強調し、何をするものなのかより強く印象づけることにした。
協議に協議を重ねたことから、検討したデザインは12案ほどにのぼった。濱氏がいままで開発を担当した商品で一番、多くのデザイン案を検討した。
嬉しい誤算から販売店を拡大
「目もとにピンポイントで使う商品がミドル男性に受け入れられるかどうかが不安でした」と話す濱氏だが、現時点の売れ行きは予想を超えているという。
ミドル男性の中でもケア意識の高い人をターゲットにしたことや、価格が5セット10枚入りで1650円と高めなことから立地や客層から需要がありそうな販売店に絞って導入を提案していった。ところが、嬉しい誤算が起き、2022年9月から取扱店舗数が倍近くに増えることになった。
嬉しい誤算とは、ダーゲットである40代に限らず50代、60代男性にまで幅広く利用されていること。しかも、買ってきてもらったものを使うというより、自ら購入し利用しているケースが目立った。
「思っていたより50代、60代男性に売れていることがわかり、これはチャンスと捉えました。美容感度が高いから目に留まったというよりも、悩みが深いので目に留まったようです」
このように話す濱氏。取扱店舗数が増えたことで、9月以降の売れ行きも好調なようだ。
最初から大きく動きが出るとは考えていなかったため、発売当初はとくに広告施策に力を入れることはなかった。ただ、店頭での気づきが大事だということは当初から考えていたため、販売店が増えた9月以降には販促ツールを整備。11月に入ってからは、YouTubeなどでの露出を増やし始めた。
取材からわかった『ルシード 目もと集中ケアパック』のヒット要因3
1.ターゲットの深い悩みにリーチできた
ターゲットとしたミドル男性の多くが悩んでいた目もとにピンポイントで対処。目もとのケアに特化した商品がほぼ見当たらないので、悩んでいる人ほど刺さるものがあった。
2.面倒を感じることなく簡単に使える
いくら深い悩みに刺さるものだったとしても、手間のかかるものは使ってもらいにくい。週に1、2回、寝る前に貼り朝起きたときにはがせばいいだけと、スペシャル感がありながらも面倒なく簡単に使えるものにした。
3.効果が実感できる処方
朝起きたときに潤いが実感できるよう、コエンザイムQ10に5種類の保湿成分を用いた処方を設計。寝ている間にはがれないゲルの厚さも、有効成分が肌に浸透し潤いをもたらすことに貢献した。
購入者の声としては「ハリが出た」といった効果を実感するものが目立つ。中には目もとの肌悩みの予防で使う人もいる。ミドル男性がメインターゲットだが、予防としても使えるので美容感度が高い若い世代がより注目してもいいだろう。
製品情報
https://www.lucido.jp/products/facecare/eye_pack/
文/大沢裕司