■連載/阿部純子のトレンド探検隊
<スーパーフード「ブロッコリー スーパースプラウトの秘密」についての記事はこちら>
SDGs推進、地球温暖化による異常気象の打開策としても期待される最新鋭の植物工場
発芽野菜のスプラウトや豆苗、高成分野菜の栽培・販売をしている「村上農園」が、健康志向の高まりを背景に出荷が急伸している「ブロッコリー スーパースプラウト」(以下スーパースプラウト)の生産能力拡大のため、最新鋭の生産施設「スーパースプラウトファクトリー」を2021年に山梨県北杜市に開設した。スーパースプラウトの生産施設としては、静岡県の大井川生産センターに続き2か所目となる。
スーパースプラウトはブロッコリーの新芽で、体の抗酸化力や解毒力をサポートする有用成分「スルフォラファン」が、一般的なブロッコリーの20倍以上と高濃度であることが大きな特長。米国ジョンズ・ホプキンス大学で開発された高成分野菜で、村上農園が日本で唯一ライセンス契約を締結し、栽培・販売を行っている。
スーパースプラウトファクトリーは完全人工光で栽培している国内最大規模の植物工場で、生産能力は1日あたりスーパースプラウト10万パック分。
スーパースプラウトの安定品質と有用成分スルフォラファンの高濃度を保つため、栽培環境を管理できる遮蔽型の施設で、温度変化の少ない半地下型構造の植物工場となっている。
植物の成長に適した温度は20℃ほどだが、半地下型にすることで栽培室は年間通じて15℃前後に保たれており、温度調整も少なくて済みエネルギーコストを下げ環境負荷への低減にも寄与している。
○栽培室
栽培室には円筒型のスーパースプラウト専用栽培装置264台を設置。発売当初は米国製の装置を輸入していたが、現在は日本仕様にカスタマイズしたものを使用している。
栽培装置は種が分散するようにゆっくりと回転し、隅々に行き渡らせるため水はミスト状で噴射。個々の装置がそれぞれにコンピューター制御されており、6本のLEDの光と水を与え、空気が循環するようにコントロール。回転の頻度も成長速度に合わせて管理されている。
装置に入っているスーパースプラウトには、茶色、黄色、緑色と色の違いが見られるが、これは成長過程によるもの。茶色は発芽1日目で種子が発芽した状態、発芽2日目は黄色い子葉が出てきて、発芽3日目は光を受けて葉が緑化し茎や根も成長。スーパースプラウトは発芽からたった3日で収穫できる。
○収穫・梱包室
広い栽培室ではスタッフの負担を減らすため搬送も自動化。収穫されたスーパースプラウトを入れたコンテナはAGV(自動搬送装置)に載せて、栽培室に隣接する収穫室へ移動する。
収穫されたスーパースプラウトは種の殻を落とすため水で洗浄。丁寧に水洗いされているので、村上農園のスーパースプラウトは洗わずにそのまま食べることができる。集められたスーパースプラウトはコンピュータスケールで計量し50gずつ自動でパッケージする。
パックされたスーパースプラウトを梱包室でロボットが箱詰め。箱詰めされた商品は冷蔵状態を維持して全国に出荷される。
○コントロールルーム
栽培状況をリアルタイムでモニタリングできる中央制御システムを備えたコントロールルームでは、全栽培装置の栽培プログラム、施設内の環境などを一元管理。
ブロッコリースプラウトは品種や栽培方法によってスルフォラファンの含有量に大きな差があり、高濃度の種子に加え、光、水、温度といった育成環境の徹底管理が必要になる。最新鋭の設備を備え、科学的なデータに基づいた栽培方法を確立しているスーパースプラウトファクトリーだからこそ、内容成分をコントロールして高濃度スルフォラファンを維持したスーパースプラウトが生産できる。
「天候や土壌に全く左右されないため、設備とシステムが整っていればどのような地域でも安定した高品質のスーパースプラウトを栽培できるのが植物工場の大きな利点です。発芽から3日で収穫できるスーパースプラウトは1年を通じて栽培が可能で、高齢化社会で農業の担い手が減少している中で、食の安定供給という点から未来の農業としても注目されています。
SDGsの観点からも、遮蔽型半地下構造で1年を通じて温度変化が少なく環境負荷を低減し、高成分野菜を安定価格でお届けできるため食糧不足の課題解決や、健康へも寄与しています。
また、農業は経験の蓄積が必要で後継者が育ちにくく、重労働でもあるため高齢になると諦めざるを得ない場合もありますが、スーパースプラウトファクトリーでは、経験や勘に頼らずデータに基づいた栽培管理を行うことで、農業未経験の社員や、定年退職後の従業員など、誰でも働きやすい職場を提供することができます」(村上農園 広報マーケティング室 次長 松井真実子氏)
【AJの読み】新しい農業の形として世界から注目される未来型植物工場
美術館のような外観、ホテルを思わせるラグジュアリーなロビースペースと、植物工場とは思えない佇まいで驚いたが、栽培室に入るとさらにその光景に目を見張った。宇宙船のような円筒型の栽培装置がずらりと並び、通路をAGVが自動走行する。栽培室を俯瞰するコントロールルームは宇宙船の司令室を彷彿とさせ、まるでSF映画の一場面のようだ。
村上農園はスーパースプラウトファクトリーを含む全国10か所の生産施設で、1年を通じ休むことなく野菜を生産している。科学的データや知見に基づく独自の生産システムを構築し、有用成分の検査体制を整え常に品質基準を満たした野菜を作る未来型の農業を実践している。
1996年に発生した病原性大腸菌「O-157」による食中毒事件で、当時主力商品だったかいわれ大根の風評被害により大きな打撃を受けた同社では、安全対策にも万全を期し、徹底した衛生管理基準を設けている。
全生産センターにおいて食品安全マネジメントの国際規格ISO22000認証を取得。また、生鮮食品メーカーとして国内で初めてすべてのスプラウトでトレーサビリティーの仕組みを導入した。出荷したすべての製品にロット番号が記載され、生産施設や時期、生産過程が追跡調査可能になっている。
国内生産だけでなく海外向けライセンスビジネスもスタートし、台湾のベンチャー企業「グリーンヴァインズ」社に村上農園のスプラウト商品を独占的に生産販売する権利を付与、2022年9月から台湾にて生産を開始した。
近年、毎年のように起こる地球温暖化に起因した異常気象や、国際情勢、為替変動等で、様々な食品が値上がりし生活者にも大きな影響を与えている。365日、高品質を担保した野菜を国内生産し安定的な価格で提供している村上農園の植物工場は、新しい農業の在り方として、国内のみならず海外でも注目されている。
文/阿部純子