話がわかりにくい問題の対処法6つ
上記で挙げられた6つの問題それぞれについて、どのような対処法があるだろうか。それぞれ解説してもらった。
シカ悪1.話が冗長なケースの対処法
「まずは、相手が何を求めているかをしっかり聴くことです。コミュニケーション上手は全体が10だとすると『聴く』が7、『話す』が3の割合です。
次に、相手が聴きたい内容について、自分の考えや情報を整理します。整理をする際には例えば、『製品の特徴は、3つあります。1つ目はコスト、2つ目はセキュリティ、3つ目は充実したサポートです。1つ目のコストですが、時間短縮と予算削減の2つのコストがあります』というように内容を大項目、中項目、小項目とカテゴリー分けをします。
さらに『3つあります』のように、話す項目がいくつあるかを先に伝えると、より理解しやすくなります。目安として、会議で質問を受けた場合には、小項目一つに対して30秒程度でまとめて伝えられるようにすると、簡潔な印象になります」
■2.いきなり詳細から話し始めるケースの対処法
「まず、これから話す内容が『説明』なのか、『報告』なのか、『相談』なのかなどの目的を伝えます。それによって相手も話の主旨を理解しやすくなります。次に、誰に対してもわかりやすいのが『全体から詳細へ』という話の流れです。
そこで、この流れで説明をする『SDS法』という構成法をご紹介します。『S:Summary全体D:Detail詳細 S:Summary全体』の順で話を構成する方法です。例えば次のような流れになります」
S:「神奈川支店の要請で緊急対応の報告です」
D:「先ほど、神奈川支店の山田さんから緊急で明後日までにA商品を30ケース必要と連絡があり、すぐに東京にある在庫を送りました」
S:「以上、緊急対応のご報告でした」
■3.結論が不明なケースの対処法
「学会や論文などは原因や経過から積み上げて証明していくのが基本の流れなので、この話し方は理系の方に多い傾向かもしれません。ご本人は丁寧に説明をしたほうが親切だと思っている場合もあります。
しかし忙しいビジネス現場では話の構成を逆にして、結論を先に伝えます。結論先行で組み立てて『つまり何か?』を先にわからせる構成でおすすめなのが『PREP法』です。PREP法は『Point、Reason、Example/Evidence 、Point』の頭文字をとったもので、『結論、理由、事例や根拠、結論』という流れで話を構成します。例えば次のような流れになります」
P:「G社にはロイヤルカスタマーといわれるファンが1万人います」
R:「なぜかというと、お客様の声を積極的に取り入れているからです」
E:「例えば、クレームを分析してすぐに改善に取り入れる専門部署があります」
P:「だからA社には大勢ファンがいるのです」
■4.話が脱線する・飛躍するケースの対処法
「自分の頭の中にある事柄と事柄の関係性を省略してしまうと、相手は話のつながりがわからずに頭に?マークが浮かんでしまいます。そこで活用したいのが『接続詞』などのつなぎの言葉です。つなぎの言葉の主な例として下記のようなものがあります」
「何故かというと」…理由(根拠を示す)
「そして・それで」…順接(前の話を受けて続ける)
「また・そして・さらに」…追加(前の話と類似したものを並べる、補足する)
「ところが・しかし」…逆説(前の話と反対のことを言う)
「つまり・要するに」…要約(結果に結び付ける)
他にもつなぎの言葉はさまざまにありますので、語彙を増やしておきましょう。
もう一つ大切なのが、自分の脱線や飛躍に気付くことです。つい話すのに夢中になると周囲が見えなくなってしまいます。自分の脱線や飛躍に気が付くためには、一方的に話すのではなく、相手の反応を確かめながら話すことです。怪訝そうな表情や、わかりにくそうな表情をされたら、話が脱線したり、飛躍してしまったりした合図かもしれません。
そのときには、話を止めて『どこかわかりにくいところ、ありましたか?』と尋ねて『話が脱線したので、元に戻します』『申し訳ございません。わかりにくいですよね、少々補足させてください。根拠としては…』というように、ご自身で話の交通整理をしながら進めて、聴いている人にわかってもらう配慮も大切です」
■5.専門用語を多用するケースの対処法
「理解度が低い相手には、専門用語を目安として中学生でも理解できるレベルの表現に置き換えて伝えるとわかりやすくなります。ただし、場合によっては専門用語や略語を使うほうが時間短縮になる場合があります。そういう場合には、必ず冒頭にその用語の説明を入れて共通理解を促します。
先程の例なら『顧客との関係をマネジメントすることをCustomer Relationship Management、略してCRMと言います。このCRMシステムを導入するときには成果を評価する指標を明確にしながら継続的に…』という説明を入れるとわかりやすくなります。環境が違うと普段使っている用語にも違いがありますので、特にお客様や取引先など社外の方には丁寧に言葉を選びましょう」
■6.具体的な言葉が少ないケースの対処法
「情報や数字、固有名詞などを正確に言語化できるように準備をしましょう。特に、5W1Hで、『いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのくらいorどのように』などを明確にして『あれできた?』という指示語ではなく『明日の会議資料はできた?』と誰が聴いても同じ理解になる言葉で伝えましょう。また、『What(何を)』や『How(方法)』だけでなく『Why(何故)』やるのかを忘れずに伝えると、ビジネスコミュニケーションがスムーズになります」
わかりにくかった不動産営業マンの改善事例
このようなわかりやすい話し方のコツをよく耳にするが、実際、実践してわかりやすくなった人もいる。阿隅氏がレクチャーした改善事例を見ておこう。
「投資用マンション販売の若手営業職の方の事例です。お客様になかなか話を聞いてもらえないという課題を持っていました。この方は、初対面のお客様に『実は今、ご紹介したい物件がありまして、駅近新築でして、賃貸もつきやすくて…』というように、いきなり詳細から話し始めるタイプの方でした。また話が長く、区切りがなくダラダラと話し続ける癖もありました。
お客様にしてみれば、いきなり営業トークが始まって何の話をされているのかよくわからず、興味も湧かない話に時間を取られるのも面倒なので、『結構です』とすぐに断るのは当然と言えば当然でしょう。
そこで、改善策としてPREP法を用いて、結論先行でお客様のメリットを伝えることを始めました。まず『インフレ対策の分散投資先としておすすめの物件があるんです』と、一言でお客様の興味を引くメリットを先に伝えることにしました。すると、中には興味を示してくれるお客様もいて、時間をとって説明を聴いてもらえることが増えました。また以前は冗長だった説明を短くしたところ、言いたいことが伝わりやすくなり、アポイント数も増えたということです」
わかりやすい話し方ができる人がさらにレベルを上げるには?
ビジネスパーソンの中には、すでに伝わりやすい話し方を身につけている人もいるだろう。さらに成長するための方法を教えてもらった。
「簡潔に話すために、『要約テクニック』を磨くことをおすすめします。ビジネスは時間勝負。特に多忙な上位職の人に提案や報告をするときには、まず要約をして概要を先に伝えるといいでしょう。そして相手がもっと詳しく聴きたい部分について詳しく説明をする流れにすると、時間をとってもらいやすくなります。
要約の仕方は、テレビニュースの伝え方が参考になります。ニュースは複雑な内容を30秒、1分などに短く要点をまとめて伝えています。短く要点を伝えるテレビニュースは、大きく3つのパートに分かれています」
1.リード
「『何がどうした』という部分です。ここではあくまで、何がどうしたがわかればOKです。目安としては15秒~30秒程度がおすすめです」
2.理由や背景
「なぜ取り上げたのか、なぜ聴く意味があるのかを伝えます」
3.状況・エピソードなど
「『こんなこともあります』という状況など、詳細について話していきます」
■ニュースの例(20秒 116文字)
1.「雪の影響で新潟県内の関越自動車道では、1000台以上の車が立ち往生しています」
2.「今のところ解消する見通しは立たず、陸上自衛隊に支援を要請することにしています」
3.「中には、5時間も立ち往生している車に乗っている男性もいて、食料や水もないということです」
「ビジネスシーンでも忙しい相手の場合には、このように話す内容を要約して概要を簡潔に伝えてください。わかりやすくて仕事ができる人は評価も上がります。わかりやすい話し方については、当方の書籍に詳しく掲載していますので参考にご覧ください」
「わかりにくい」と指摘される、話を聞いてくれないという悩みは、これらのテクニックを駆使することで改善が見込める。ぜひあきらめずにトライしてみよう。
【取材協力】
阿隅和美氏
WACHIKAコミュニケーションズ株式会社代表
元NHKキャスター。経営層スピーチ・ビジネスコミュニケーション研修を実施。著書に『仕事ができる人の話し方』(青春出版社)、『心をつかみ思わず聴きたくなる話のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
https://wachika.com
取材・文/石原亜香利