達成すべき数字が脳裏から離れず、部下の育成に気を配り、上司との人間関係も大切にしなければならない中間管理職。気苦労の多いが要のポジションだからこそ、やり甲斐もある。そんな中間管理職の深い話を紹介する不定期連載、『リーダーはつらいよ』。今回は中古バイクの買取りと販売のバイク王だ。
株式会社バイク王&カンパニー バイクライフプランニング事業部小売り担当マネージャー 箕輪都行さん(42)。現在、約70店舗ある中古バイクの販売店の運営に関するマニュアルの制作に携わる。輸入車で断トツの人気はハーレーダビットソン。箕輪の愛車もハーレーの高級車種、新車で購入すれば230万円はするというソフテルクラッシック。環状8号線沿いのハーレーダビットソン中古車専門店で話を聞いた。
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編み出した営業スキル
趣味の乗り物という色彩が強いバイク。だからこそオーナーは自分のバイクに愛着がある。買取りの際はオーナーと車両のエピソードに耳を傾けて理解し、「お客さまと同じ思いで、乗っていただける方につなげます。お任せください」と、太鼓判を押すように語り、お互いに笑顔で商談成立。これが箕輪の編み出したバイク買取りの営業スキルだ。
新卒第1期生として入社して、3年目に同じ千葉店の店長に昇格。もちろん、4名のスタッフには箕輪流の営業スキルを伝授したが、
「店長になると、店の売上げの数字に責任を感じました。とにかく目標の数字を達成しなければと」
彼が入社した20年ほど前は数店だった店舗も今ではおよそ70店に増え、従業員数も1000人を超えた。当たり前だが、成長する企業は数字に対してシビアだ。
「どうして数字が伸びないんだ」スタッフにそんな質問を投げかけても、「すみません…」としか返ってこない。
なぜなんだろう…。
「まず、おまえが楽しまないと、数字もついてこないよ」とは、彼がスタッフ時代に店長から言われた言葉だ。自分の中でその言葉を反芻しとき、売上げの数字に目が行き、結果ばかり評価したことで、スタッフの士気が下がっていることに気づいた。
スタッフへのほめ方の工夫
このままでは、最も大切なオーナーと車両のエピソードに、笑顔で耳を傾けられない。いい雰囲気の商談ができなければ数字は伸びない。
さて、どうすればスタッフが楽しく仕事に取り組むことができるのか。
「いったん数字のことは置いて、僕と仕事をして楽しいと、スタッフに感じてもらうにどうすればいいかを考えたんです。それにはまず、スタッフをしっかりとほめる」
――ほめ方もいろいろありますが、どのようにほめたのでしょうか。
「買い取った車両をトラックに積んでスタッフが店に戻ってきたときに、一緒に荷台から降ろす作業を手伝いながら、“いいバイクじゃないか、車両のオーナーとはどんな話をしたの?”と、スタッフが取り組んだ仕事のプロセスを詳しく聞くことを心掛けたんです」
――つまり、スタッフの具体的な仕事の成果を前に部下の顔見てほめる。そしてそのプロセスに耳を傾ける。
「これは心に刺さったみたいです。店長は自分の苦労をわかってくれていると感じたのか。スタッフの萎縮がほぐれて、僕とも笑顔で接することが増えた。数字も伸びましたよ」
数字アップはスタッフの成長が必要不可欠
3年ほど店長の職に携わり、次はシニアマネージャーに就いた。数店舗を管轄し売上げの数字を向上させることが職務だ。指導するのは各店舗の店長である。まず、店長がどのようにスタッフに接しているかを見て回った。
客の車両へのエピソードにじっくりと耳を傾ける。スタッフが具体的に手掛けた仕事を前にしてそのプロセスをほめる等。これまで培った箕輪のノウハウが、店長の指導の基本となった。例えば店長が売上げの数字に目が行きすぎていると感じたとき、彼と店長とのやり取りはこんな感じだ。
「目標の数字に、なぜ届かないのか、結果だけを問うとスタッフは面白くない。キミがスタッフだったときのことを考えてほしい。店長に数字ばかり問われたらどう思うか」
「仕事が楽しくないです…」
「自分が楽しくないと思うことをスタッフに強いるのはよくないな」
「でも、店長としてやっぱり数字を伸ばさないといけないので…」
「その気持ちはよくわかるよ。でも、業績を上げるためには、スタッフの成長が必要不可欠だ。それにはスタッフの仕事のプロセスをよく聞き、自分の体験談を踏まえて、じっくりと話し合わないと」
そんな店長とのやり取りが功を奏し、業績が上向いた例は数多いが、店長も人間である。中には自分なりのやり方に固執し、箕輪との関係がぎくしゃくして、転職した店長もいた。そのときの悔しさと、店舗のスタッフへの申し訳なさは、今も苦い思い出として彼の心中に残っている。
強みはコミュニケ―ン能力
現在の彼のポストはSVマネージャーといって、中古バイクの販売の業績を上げるための専門の部署で仕組み作りを行っている。
会社が買取り専門から販売も手掛けたのは、10年ほど前。今はほとんどの店舗で買取りも兼ね、販売を行っている。中古バイク販売のチェーン店のノウハウは改良の余地がかなりある。売れ筋の車両が一目で分かるようなデータ化、在庫の管理もデータ化して各店舗で共有したり。各店舗の売上げにつながるマニュアル作りが大きな仕事だ。
今の仕事に就いて2年目だがマニュアル化等、販売の仕組みが改善し、店舗の業績が向上すところにやりがいを感じると彼は言う。
一方で、管理職の育成にも携わっている。入社当時の8歳先輩の店長は事業本部長として、今も上司の立場にいる。「上司に恵まれたのが転職しなかった大きな理由」と箕輪は前編で語ったが、上司には教育研修に携わりたいと志願した。背景にはこれまでの仕事の中で意思の疎通がかなわずに、転職した部下もいた。そんな忸怩たる思いがあるのかもしれない。
「これから店舗数が増えていく中で、管理職は必要となっていきます。数字を見たりマニュアル作りをしたりするより、僕の強みはお客様やスタッフとのコミュニケーションの能力。そこで会社に貢献できればうれしいです」
根は生粋の営業マンと言いたげに、箕輪都行はそんなコメントで締めくくった。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama