SIer企業の抱える課題
社会全体でIT化が急速に進む現代において、SIerは将来的な存続を揺るがす大きな課題をいくつも抱えています。SIer企業が抱える五つの課題について押さえましょう。
クラウドサービスの普及
SaaSやクラウドサービスの普及により、自社システム開発を依頼する企業は減少傾向にあります。SaaSやクラウドサービスを利用する方が、導入から運用までコストと手間を抑えられるというメリットがあるためです。
自然災害の多い日本においては、オンプレミス型よりクラウド型のシステムの方が、情報資産の保護に効果的と考える傾向が高まっているため、社内システムをクラウド型に変更する流れは今後も続くでしょう。
そのため、オンプレミス型やスクラッチ型のシステム開発を得意としてきたSIerにとっては、需要減少が避けられないと考えられているのです。
大口顧客への依存
大手SIerの顧客は、官公庁や自治体、大手企業といった大口顧客が大半を占めています。大口顧客からの案件は大規模なものが多いため、自ずと受注額も高額です。
そのような環境では、小口顧客の案件で収益を積み上げるより、大口顧客で一気に稼いだ方がよいという考え方になります。結果的に、大口顧客に依存した経営体制になってしまうのです。
収益源は分散させておいた方が、一つの案件が立ち消えになった際に共倒れのリスクを分散できるため、大口顧客に依存する体制は事業継続の観点からも危険性が高いといえます。
優秀な人材の流出
日本における慢性的なIT人材不足は、SIerの存続にも大きく影を落とします。若手エンジニアを必要としているのは、SIerに限らずWeb系企業やユーザー企業も同様であり、今後も争奪戦が激化することは容易に想像できるでしょう。
売り手市場のIT業界では、待遇が人材獲得の要となるため、外資系企業や新興企業、大手メーカーによる高水準の年収や待遇の提示が矢継ぎ早に行われています。そのような状況下では中小SIerの多くは買い負けしてしまうため、優秀な人材の確保がさらに困難となっていくのです。
高コスト体質
大手SIerをトップとするシステム開発工程では、下請けSIerやシステム開発会社に細分化した工程を依頼するウォーターフォール型開発が定着しています。
クライアントに都度確認しながら慎重に進めていくこの方法では、時間もコストも増大する点がデメリットです。大型案件を取り扱う大手SIerであれば、その規模はさらに大きくなります。
高コスト・長期間という開発方法は、スピード感が求められる近年における『スモールスタート』や『アジャイル開発』といった潮流に反するものです。いかに短期間でリリースまで辿り着くかが重要視される流れの中で、現状の体制をどうするかはSIerにとっての大きな課題といえます。
2025年問題
2025年以降、高度経済成長期における日本社会のIT化に貢献してきた、団塊世代のSIerエンジニアは75歳以上になります。
古い技術による複雑で老朽化したシステムの取り扱いに慣れていたエンジニアが去ることで、既存システムの維持・運用が困難になり、各所で機能不全が多発するリスクが想定されているのです。
DXの潮流に乗って古いシステムから早急に脱却しなければ、2025年以降、SIerが存続していくのは難しいと考えられます。
SIer企業の将来性
SIerの将来性を案じる声は少なくないですが、将来性がまったくないわけではありません。大手SIerと中小SIerの二つの観点から、それぞれの将来性について解説します。
大手SIerは大型案件の受け皿に
SaaSやクラウドサービスへの乗り換えが増加したとはいえ、今後もシステム開発の依頼がゼロになることはありません。DX推進が遅れている日本においてはむしろ、今後各業界で構造改革が断行されるのに伴い、システム開発の需要が高まると予想できます。
IT関連システムへの需要が高まる中で、大手企業や自治体などの大型案件の受け皿は大手SIerしかなり得ない現状があるため、引き続き大型案件は大手SIerへと流れるでしょう。
大手SIerの強みである、大型プロジェクトの豊富な実績により、今後も継続的に大型案件の受注ができるため、安定的に収益を得られるのです。
中小SIerは生き残り戦略が必須
中小SIerの多くは大手SIerの下請け案件に依存している企業が多いため、抜本的な経営戦略の見直しと再策定を行い、依存体質から脱却を図る必要があります。
人材確保の難しさもあり、中小SIerがこれまで担ってきた機能は、今後は統合されていくと考えられます。そのため、自社でシステムやアプリの開発を行う、システムに関するコンサルティングを行うなど、収益を得られる事業を増やさなければ、淘汰される未来は避けられないでしょう。
構成/編集部