“推し”を応援するための活動「推し活」といえば、Z世代のような若者向けと思われてきたが、いまはシニア層にまで及んでおり、推し活の新たな可能性も見えてきた。また、推し活は、推しを育てられる「たまごっち」や推し活に使うグッズ専門ブランドなど広がりも見せている。推し活を活かすビジネスや企業の取り組みを紹介見ていこう。
高齢者がサッカークラブの推しを応援!杖を忘れて駆け寄る人も
推し活は、高齢者も元気にしてくれるようだ。
それが分かるのが、サントリーのグループ企業であるサントリーウエルネス株式会社が2020年12月より実施している「Be supporters!(ビーサポーターズ)」というプロジェクトだ。これは、福祉施設の高齢者がサポーターとなり、サッカークラブを応援する取り組みとなる。
コンセプトは「支えられる人から、支える人へ」。高齢・認知症など、普段は周囲に「支えられる」場面の多い人が、Jリーグサッカークラブのサポーターになることでクラブや地域を支える側の存在となり、身心ともに元気になることを目指す。
■実施内容
具体的には、福祉施設でのパブリックビューイングを通してサッカーの試合を応援するもの。2020年12月より、「カターレ富山」「レノファ山口FC」、2021年1月より「ヴィッセル神戸」「川崎フロンターレ」と協働して推進している。
試合前には、応援ガイドブックをもとに、うちわなどの応援グッズの制作や施設の飾り付け、選手の名前などの予習、応援コール練習などの準備を行う。試合当日は、「サポ飯(サポーター飯)」というサポーターが食べる食事を用意し、ユニフォームを着てみんなで観戦する。試合後は、その日の思い出を日記に残す。また不定期でスタジアム観戦や選手との交流会も行っている。
本プロジェクトは、「注文をまちがえる料理店」という認知症の方がホールスタッフを務めるレストランのプロジェクトを企画・実施した株式会社小国士朗事務所 代表取締役 小国士朗氏のアドバイスのもと実施しているという。
■推し活を高齢者向けに取り入れた背景
同社の「Be supporters!」プロジェクト推進リーダーの吉村茉佑子氏は、推し活を高齢者向けに取り入れた背景について次のように述べる。
「サントリーウエルネスは健康食品や美容商品を提供している会社です。健康食品は病気の予防として利用される方がほとんどだと思いますが、2020年に当社の社長に就任した沖中直人は、超高齢化が進む人生100年時代は予防だけではなく、病気とともに生きる『共生』にも真剣に向き合う必要があるのではないかと感じていました。サントリーの社是には『人間の生命の輝きをめざして』という言葉がありますが、健康はあくまでも手段であって、大切なのは心がワクワクとして自分らしく輝いて過ごすこと、つまり健康寿命ではなく幸福寿命ではないか、と考えていたのです。
そんな折に、沖中と交流のあった小国士朗さんがこのプロジェクトの構想を持っていらっしゃることを知り、一緒に行おうということになりました」
■「Be supporters!」の効果
「Be supporters!」を実施後、目に見える効果が表れているという。
例えば86歳の女性は認知症の状態にあるが、一度着たユニフォームを「これ、こないだも着ましたよね?」と言ったという。また推しはスペイン出身の選手であり、その影響からスペイン語の勉強を始めたそうだ。
また94歳の男性は、血圧が高くネガティブな発言が多かったが、率先して応援団長に。応援の翌日・翌々日は血圧も安定するという。
90歳の女性は、普段、歩行器を使っているが、推しの選手を見るために足を上げている様子に職員たちがビックリしていたそうだ。
「Be supporters!」のこれらの効果について、「幸福寿命」を提唱している慶應義塾大学医学部の伊藤 裕教授は、「主体的に誰かとつながっている幸福感が高齢者を元気にしているのでは。『推し』を作ることは、自分の分身のような存在を見つけ、気分的に高揚するという点で意味があること。」とコメントしている。
■今後の展望
今後は、どのような展望があるだろうか。吉村氏は次のように述べる。
「今年9月、敬老の日にあわせて、Jリーグの10クラブと協働し『人生の先輩からのエール』という特別企画を行いました。合計で74の施設1,434人の高齢者のみなさんから、クラブや地域への力強い応援メッセージが集まりました。こうして集まったメッセージは、クラブごとに大きな横断幕にして、敬老の日に近いホーム試合で掲出しました。
こうした企画を含め、Be supporters!というプロジェクトやその世界観を様々な地域に広げ、素敵な笑顔を見せてくれるおじいちゃん・おばあちゃんを日本中に増やしていけるよう取り組んでいきたいです」