SBUの発想から生まれた『まな板シート』のヒット
──ほかに改革を推進しているのはどんなことでしょうか?
「デジタル戦略に取り組む1年前から、SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)制を推進しています。これは社内を4つの事業部へ擬似的に分社化して、それぞれ独自の戦略を実行していくという狙いです。
SBU制になる前は、商品カテゴリーごとに組織・チームがつくられていました。例えばフライパンのチームはいかに良質なフライパンが出せるかだけを考えていましたが、SBU制ではライフスタイル事業部全体で設定したテーマをもとに商品を開発しています。〝楽カジ〟というテーマであれば、家事の後片づけを楽にするための商品を、カテゴリーにとらわれずに開発するわけです。そういった発想で誕生した商品のひとつが使い捨てができる『まな板シート』ですね」
──カインズがオリジナル商品に強いのは、SBU制によるところが大きいのでしょうか?
「もちろん『キャリコ』や『立つほうき』のように、SBU制以前に大ヒットしたオリジナル商品も多数あります。カインズは僕が社長に就任する前からいい商品がたくさんありますが、これからはお客様に〝楽カジ〟のような特別な価値を提供する視点で開発を強化する。これがSBU制による、デジタルとは違うもう1つの大きな改革です。
もともと前社長の土屋はDIYについて、日曜大工的なことだけではなく自分で暮らしを良くしたり、楽しくしたりすることのすべてをDIYと定義づけています。『まな板シート』なら料理や片づけが楽になり、その分時間ができる。その時間で自分が好きなことができれば、それも我々が考えるDIYなのです」
──モノを売るだけではなく、自分の暮らしを良くする価値を提供する。いわゆるコト消費ですね。
「そうです。ただ現状本当にコト消費だけをビジネスとして実現できている大手小売業は存在しているのかといわれれば、僕はまだ存在していないと思っています。カインズでも『カインズ工房』などで誰でも気軽にDIY体験ができる価値などを提供していますが、1万平方メートルくらいの大型店舗でそういう要素というのは、ごく限られているのが現状。もっと店舗全体をコト消費の体験を提供することに寄せていきたいというのは、今すごく意識していますね。そのためには1万平方メートルの店舗レイアウトを大きく変えていかなくてはいけないと思っています。―が、まだ実現できていません。いずれ『これこそカインズがやろうとしているコト消費ですよ』という原型となる店舗をつくるのが目標です。」
──それはデジタルの力を借りつつ、でしょうか?
「もちろんそうです。『Find in CAINZ』のように、お客様が不便に思っていたことがデジタルで解決できる。そういうことはほかにもあるはずです。最たるものがレジの行列ですが、例えばユニクロさんはすでにかなりの店舗でレジの無人化を実現していますよね」
──買い物かごを置くだけで会計ができるセルフレジですね。
「誰もレジには並びたくないし、短い時間で会計が済めばそれに越したことはない。小売業側としてもレジ担当の人材や機器など、現状ではレジ1台にかなりの経費が掛かっています。でもお互いにそこを効率化できればお客様も喜ぶし、小売業としても助かるのです。現在は店舗の入口そばに10台くらいのレジが普通に並んでいますが、レジの無人化が進めば、店舗レイアウトも大きく変えられる。それは、コト消費を目指す店舗が、必ず迎える未来だと考えています」