取材場所となったのは、カインズがデジタル戦略の強化に向けて開設した「CAINZ INNOVATION HUB」。なぜカインズは、ほかのホームセンターに先駆けてDXを推進するのか? 社長就任後に高家正行氏が取り組んでいる、イノベーションの全容を伺った。
株式会社カインズ 代表取締役 CEO
高家正行氏
1963年生まれ。慶応義塾大学卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)入行。在職中に〝プロ経営者〟を志し、99年に経営コンサルティング企業のA.T. カーニーに転じる。2004年よりミスミ(現・ミスミグループ本社)に入社し、08年よりミスミグループ本社社長に就任。16年よりカインズの取締役となり、副社長を経て2019年、現職となる。2022年3月よりハンズ代表取締役会長も兼務。
日本における小売業のデジタル化は欧米と比べると周回遅れです
──2019年に高家さんが社長に就任されて、翌年に「CAINZ INNOVATION HUB」を開設しています。なぜ早々にDXを推進したのでしょうか?
「社長に就任する前の年、僕はカインズの副社長でした。その際、当時社長だった土屋(裕雅氏・現会長)と欧米の小売店を精力的に視察したのですが、その時に一番感じたのがDXの遅れ。もちろん当時、すでにアマゾンのECが力をつけているのはわかっていましたが、IT小売業もIT企業から提供されたデジタルのイノベーションによって想像以上にDX化を図っていたのです」
──当時のカインズはデジタルが活用されていなかったのですか?
「もちろん、レジで販売した商品が記録されるPOSデータを会員情報に紐づけるといった、どこの小売業でも持っている仕組みはありました。でもカインズも含め、日本の企業がどこまでそのデータを有効活用できているのかといわれると甚だ疑問です。
とにかくすべてにおいて日本の小売業のデジタル活用は周回遅れといっていい」
──とはいえ、いきなりDXに力を入れるといわれても、店舗運営の現場は困惑しますよね。
「そうですね。デジタルの知識もなければ組織もない。だからこそ僕が社長になったら、真っ先にデジタル改革を推進しなければならないという考えで、人材を採用するべく積極的に投資をしました。
ただ、そうはいっても我々の本社は埼玉県本庄市。加えて、勤務形態も店舗運営に合わせた土日休みではない変形労働制で、デジタル人材を採用するのに適していません。またカインズもそれなりに大きな組織なので、社内制度を変えるには時間がかかります。表参道に別会社の形態で『CAINZ INNOVATION HUB』を開設したのは、そういった経緯ですね」
──体制を整えたら、次は現場スタッフにDXに関する理解を深めてもらう必要があります。
「それに役立ったのが、商品名やキーワードなどを入力すると、誰でもその商品の売り場の場所や在庫数などが瞬時に検索できるアプリ『Find in CAINZ』の開発です。我々の調査によると、お客様が店舗メンバーに声をかける理由の8割は『この商品どこにありますか?』というもの。店舗メンバーとしては、聞かれる際に何か別の作業をしている手を止めて対応しているので、生産性が下がります。またお客様も、聞きたいのに店舗メンバーが見つからないことがありますよね。でもこのアプリがあれば誰でもすぐに商品の場所がわかります。正直この仕組み自体はハイテクでもないんですけど(笑)、デジタルを活用すればお客様が喜んでくれるし、自分たちも便利になる。そういう認識を現場が持つことで、デジタルというものへの理解がすごく進んだと思います」