2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション7の内容を3回にわたって紹介します。
左から、津田啓夢さん(朝日新聞社メディアラボ所属。未来を感じる動画メディア『bouncy』編集長)、ケロッピー前田さん(身体改造ジャーナリスト)、Olga(オルガ)さん(ファッションテックデザイナー。株式会社ish代表取締役。デジタルハリウッド大学院 助教。ファッションテックラボ研究室 主宰)、山下悠一さん(株式会社ヒューマンポテンシャルラボ代表取締役CEO)
※Session 7 後編※「「ヒト×Tech」がもたらすWell-beingと人間拡張の可能性」
テクノロジーによる「人間拡張」がもたらすもの【前編】マイクロチップ埋め込みで何が起こるのか?
テクノロジーによる「人間拡張」がもたらすもの【中編】身体拡張した人類は何を身にまとうのか?
テクノロジーと幸福の関係性はどうなるのか?
前田:オルガさんがやっている音が出る布は、磁石というかマグネットは入っているんですか? スピーカーは基本的にマグネットが振動して音が出るので。小さいマグネットを耳に埋め込んで、それで音楽を聞けるようにしている人もいるから。
オルガ:磁石は入ってないです。特殊な繊維を使っているんですけど、そこにバーって魔法をかけて(笑)。特許性のあることなのでくわしく言えないですけど、特殊な繊維によって音が鳴るように加工してあります。電気はもちろん使っていて、コンセントに差します。電気がないと駄目です。
前田:今度、磁力が出ているか手をかざしに行かないと(中編参照)。電気が流れていると磁界ができるから高圧電流とかもわかります。
津田:まさにお笑い芸人がWi-Fiが飛んでいるなとか、みたいな。
前田:そこまではできないです(笑)。
津田:このあたりで「Well-beingの実現について」という話に寄っていこうかなと思います。いま見えない感覚みたいなことを実践されているケロッピーさんがお話されていましたけど、その一方で山下さんはテクノロジーが勝手にどんどん進んでいっちゃうっていうことをおっしゃっていました。山下さんのアプローチは、そこに対して人はどうあるべきか、自分に立ち戻りましょうみたいな動きだと思うんですけど、山下さんはどんなお考えですか?
山下:まずテーマである幸せや幸福とは何か、「Well-being」とは何かみたいな話があるし、その問いにはいろんな考え方があって大きなものではありますよね。もうひとつは、その技術は人を幸せにするのかっていう、技術と幸福の関係性みたいな話があります。
前者についてはものすごくいろいろな研究があるんですけど、技術と幸福に関する哲学的な研究というのは、世界中でほとんどされてないらしいんです。これは結構、不思議な話です。僕はケロッピーさんに会う前まで、チップを入れるというのはちょっと怖いタイプでした。それはなぜかっていうと「トランスヒューマニズム」っていうものにくくられていたからです。でも話を聞いていると「トランスヒューマニズム」は、究極的に「ブレインマシンインターフェース」という脳にチップを入れちゃえば自分の意識とか全部コントロールできちゃう。
簡単に言えば身体がなくても、ずっと夢の中で生きていけるかもしれないとかそういう世界もあり得る。不老不死を目指している人とか、かなりのグラデーションがある考え方だと思います。そこまで人間を変えていくこともあるし、僕がかなり手前の道具で自分を拡張していくっていう風にグラデーションがある中で、ケロッピーさんのチップを埋め込むっていうところは、本当にウェアラブルのちょっと先ぐらいの話です。言うならばうちの母親とかおばあちゃんとかは「ピアスは怖い」みたいな話をしているわけですけど、もっと一般的になれば、そんなに遠い未来じゃないっていうような気もしています。
結局ピアスをしている民族は、世界中にいろいろいたわけじゃないですか。そういうことと一緒なのかなって、オルガさんの話を聞いて、ちょっと思いました。要は、技術と人間がどういうふうな接点やどのぐらい拡張したのかっていうのが選択になって、いろんな民族が生まれる。ケロッピーさんがおっしゃっていたけど、チップを埋め込んでいる人たちは、みんな民族みたいなコミュニティなんですよ。これからいろんな民族が生まれ、それごとにいろんなファッションも生まれたみたいな感じになっていくのかなっていう気はします。
津田:みんながチップを埋め込んだら、ケロッピーさんはマイクロチップを外しますか?
前田:いや、そんなことないです。もう頭に行けますから、脳ミソにいきます。さっきオルガさんが話した着るスマホとかウェアラブルの可能性っていうのも当然、追求していく方向性もあります。そこから出てくる新しいファッションっていうのは面白いじゃないかなと僕は思います。
オルガ:そうですね。民族ってそれぞれ伝統衣装があるじゃないですか。それぞれに意味があって、それがまた起こると思いました。確実にそうなりますね。そうすると本当に歴史が繰り返される感じで、人はまた原点に戻る感じなんですね。それ超面白いです。
山下:ほとんど裸族みたいな感じでシールみたいなチップを纏っている人がいれば、完全に埋め込んでいる人もいるみたいな、いろんなパターンが考えられそうじゃないですか。どっちの方向にいくのか今はまったくわからないですけど。
オルガ:新しい民族を作るってやつはやりたいなあ。
山下:民族を作りたいです。
前田:僕は身体改造が面白いのは、身体を改造するっていうのはわかりやすくコミュニティというかトライブを作る行為なんですよね。それが新しいカルチャーを生み出す手段としては強度があって団結心もある。そういうところから、ボディハッキング用マイクロチップが出てきているっていうのがとにかく面白い。
津田:小さい熱量のある集団がいろんなものを発信して、その影響でいろんな人がファッションに取り入れたりとか精神面に行ったりとかしていく。
前田:そうです。
山下:例えば僕らで言うと、何のプラクティスをしているかで民族化していくんですよね。プラクティスの流派によって村とかコミュニティが生まれていくみたいな。
津田:それぞれが生きやすい、共同体みたいなのを作る。
山下:そのときに自分たちが何を拠り所にして、身体性とか能力というものをアップデートしていくかみたいなことで、同じ思想を持っている人たちが一緒に住んだりとか仕事をしたりっていうことは結構あると思います。
津田:ファッションもそうですよね。だって同じような服装というか傾向でみんなコミュニティになっています。
オルガ:テクノロジーと全く関わりのない産物であったとしても、インフルエンサーという民族の長老みたいな人たちの下にそれを崇める人たちがいて、真似したいとかフィロソフィーを吸収したいということは、ある意味では民族化されています。それがテクノロジーによって進化した時、インフルエンサーの人が「もうチップを埋め込むのが、これからのファッションだ」みたいなことを言ったら、みんなが従うって感じにはなる。
前田:こういうマイクロチップとかが面白いのは、ITのバーチャルリアリティーとか人工知能とかシンデレラリティなどの話もそうですけど、さっき山下さんが言ったみたいにどんどん身体がなくなっていくと現実がなくなっていくみたいなイメージを持つ人もいるじゃないですか。でも実際には、さっきのスマホの例もそうですけど、やっぱり僕らは現実世界と繋がっているわけです。技術がアップグレードされるためには、現実社会の変革というかシステムが変わらなくちゃいけない。
マイクロチップの技術自体は、小さなものなのでここからさらにとんでもないことにはならないです。スマホもそうでしたけど、マイクロチップが入っている人にこういうことができますよって、世の中のシステムを全部変えれば全然変わっていくんですよね。そういう意味でインフルエンサーも必要だけど、僕は現実的というかリアリティーの世界へ引き戻す部分に何かを生み出す原動力があるとは強く思っています。だから現場へ行くのが好きだったりします。
津田:日本は「トランスヒューマニズム」への理解や「デジタルトランスミッション」が遅れていると思いますが原因は何だと思われますか?
前田:例えばマイクロチップそのものも欧米諸国はかなり受け入れています。実験的な段階なので実際に埋め込む人数は限られていますけど、社会的に実用実験したりするっていうのは行われています。日本はこれに限らず、新しいものがなかなか……。
津田:ちょっと保守的な感じはしますよね。
前田:入りにくいのかなとは思っています。
津田:ファッションは常に変わり続けるものだと思いますが、最近は何らかのテクノロジーを身体にまとうウェアラブルなトレンドが進んでいます。オルガさんは、なぜ世の中はそういった流れに向かっていると思いますか?
オルガ:なぜそのような流れに向かっているか? すごく簡単にいうと必然かな。ファッションは時代を写す鏡と学生の頃によく言われましたが、時代を常に反映し続ける仕組みになっているんですよ。それはファストファッションしかり、サスティナブルしかり、SDGsしかり。
私は常にそういう社会の動きとともに何かを見出していくものだと思っています。テクノロジーの発達が世の中の動きとしてあれば、融合していくのは必然かなって思います。もし、もっと別のことが面白くなってきたら、ファッションの人たちはそれを取りに行くし、それが私達の仕事って感じですね。
津田:わかりました。はい。ここでお時間となりました、これにてセッション7を終了させていただきたいと思います。本当ありがとうございました。
取材・文/久村竜二