後継者難で廃業する中小企業を、「個人M&Aで買い取りトップに立つ」という新しい事業承継例が増加している。起業ほどの難しさがなく、さらには経営経験がなくても社長になれる一大チャンスが到来している。
具体的に事業承継した人たちのケースをみていこう。
「無駄」を減らせると一目で確信!年間3000万円のコストカットを実現
塩見組・代表取締役社長
渡邉謙次さん
立教大学観光学部卒、米バブソン大学経営学修士課程(MBA)修了。家族経営の印刷会社に就職。その後、2017年MBA留学し帰国後の2019年5月に、サーチファンドとしてミード・ストリート株式会社を設立、サーチ活動を開始。2020年2月、株式会社塩見組を承継、代表取締役に就任。
※サーチファンドの解説はこちら
社長就任後、本社移転や工場内の整理整頓を主導
日本で初めてサーチファンドによる事業承継を実現したのが、塩見組の渡邊謙次さん。JaSFAと山口フィナンシャルグループが設立したYMFG SEARCHファンドの支援を受け、2020年2月に塩見組の社長に就任した。
「サーチャーとして活動を始めたのは2019年5月です。20社ほど紹介された中にあったうちの1社が塩見組でした」
塩見組が持つ豊富な知識や技術、市場規模が1兆円と大きい点が魅力的に映った。
しかし、第一印象は必ずしも良いものではなかったという。
「すごく汚かったです。整理整頓が全くできておらず、絶対に使わないようなものも放置したままでした」
自分が塩見組に入ったら「乱雑な社内を整理整頓することで会社の価値を上げられると直感的に思った」と言う渡邊さん。
社長就任後、本社移転を皮切りに使わない機械の売却、工場内の整理整頓を主導した。これらの改革によって年間3000万円の経費削減効果を上げている。
福岡県北九州市に本社を構え、土木業を営む。特に海上での基礎杭打ちに強み。「土木業は絶対になくならないと感じたのも承継の決め手です」(渡邉さん)
数千社を超える企業に直接アタック!決め手は商材と経営理念
タオ・代表取締役社長
黒澤慶昭さん
早稲田大学商学部卒、IESE Business School経営学修士課程(MBA)修了。東京海上グループにおける日米通算8年間の勤務。2019年に、サーチファンドとして日本事業承継パートナーズ合同会社を設立し、サーチ活動を開始する。2021年12月、株式会社タオを承継、代表取締役に就任。
メンターのサポートがサーチファンドの強み
タオ・現社長の黒澤慶昭さんがサーチファンドを知ったのは、MBA取得のために留学したスペインのビジネススクールで、紹介されたことがきっかけだ。
「海外には、サーチファンドの経験者が後進を支援するエコサイクルがあり、私も経験豊かな経営者に、メンターとなってもらい、帰国後にサーチャーとなりました」
前出の渡邉さんとは異なり、承継起業の紹介も行なう「アクセラレーター型」ではなく、サーチ活動をひとりで行なう伝統的なサーチファンド形式を選んだ黒澤さん。
「資金調達から会社探し、承継の手続きまで、すべて初めての経験でしたが、メンターのサポートもあり無事完了することができました。特に会社探しは、相手先が承継を考えているかどうかの情報すらない状況でアタックするので、会っていただくこと自体が難しい。それでも2年超でたくさんの経営者とお会いし、ビジネスパーソンとしても成長できました」
承継後は、当時のメンターに先輩経営者としてのアドバイスをもらいながら、経営に励んでいる。
タオは1992年設立のEdTechのパイオニア。約30年にわたり自社開発のデジタル学習教材「天神」を販売。創業者は当時承継を考えていなかったが、決断が早く順調に話が進んだ。
取材・文/大澤裕司、安藤政弘
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