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【ヒット商品開発秘話】累計販売数860万個を突破したI-neのナイトケアシリーズ「YOLU」

2022.08.28

■連載/ヒット商品開発秘話

 夜のバスタイムでヘアケア。しかし、朝になって目を覚ましたら髪がパサついていたり、うねっていたりしたことはないだろうか?

 このような髪の悩み対し、寝ている間にヘアケアすることを目指して開発されたのが、I-neの『YOLU(ヨル)』である。

 2021年9月に発売された『YOLU』は夜間美容の発想から開発されたもの。ブランド名は、夜と、ラテン語で月を意味するLUNAに由来する。

 睡眠中の乾燥、摩擦によるパサつきがケアできる「カームナイトリペア」と、うねる髪をケアしサラサラとした素直なサラ髪に導く「リラックスナイトリペア」の2つを用意。それぞれシャンプー、トリートメント、ヘアオイルをラインアップしており、2022年8月22日時点でブランド累計販売数が860万個を売り上げている(シャンプー、トリートメントの詰め替えなどを含む)。

カームナイトリペア(シャンプー&トリートメント)

購入意向調査では2位だったが…

『YOLU』の誕生は、2020年から社内で実施されている「全社アイデアコンテスト」がきっかけになった。『BOTANIST』に次ぐヒットブランドをつくるべく始められた「全社アイデアコンテスト」は毎年実施されており、2020年秋に実施されたときに出てきたのが、『YOLU』のベースコンセプトになったナイトケアシャンプー。100近く提案されたアイデアからマーケティングテストを経て最終的に残った3つのうちの1つであった。

「この3つで2021年3月から4月にかけて購入意向調査をしたのですが、ナイトケアシャンプーは2位でした」

 こう明かすのは、執行役員マーケティング本部 本部長の藤岡礼記氏。トップのアイデアを抑えて商品化することにしたのは、調査から得られた定性コメントにインサイトを感じたからであった。

I-ne
執行役員マーケティング本部 本部長
藤岡礼記氏

 トップの定性コメントは「わかりやすい」といったものだったが、ナイトケアシャンプーでは「寝ている間に髪の毛がキレイになるなら使ってみたい」といったものが見られた。寝ている時間を美容に使えるのは時間が有効に使え合理性がある。それに、競合するヘアケアブランドはなく、奇をてらったものができる。同社の強みであるデジタルコミュニケーションも生かせた。藤岡氏はこう話す。

「われわれはデジタルのコミュニケーションも強みにしています。独特の価値をインフルエンサーの協力を得ながらデジタル上で多方向に伝えることが可能です。新しい価値を生み出していかなければならない、というのが会社としての考え方ですので、トップになったものよりもナイトケアシャンプーの方が『何それ?』といった反応になりやすく、印象に残りやすいところがあります」

「時計樹木」ネムノキの樹皮エキスを使用

 ブランドコンセプトが受け入れてもらえるかどうかを見極めることから、まずは「カームナイトリペア」から発売することにした。「リラックスナイトリペア」はいつでも販売できるよう準備を進める形を取った。

『YOLU』のシャンプーやトリートメントの処方は、一般的なシャンプーやトリートメントの処方とどのような違いがあるのか? 最大の違いは、保湿成分としてネムノキ樹皮エキスを活用したことにある。ネムノキは「時計樹木」と呼ばれている。ネムノキ樹皮エキスは稀にスキンケア商品で使われることはあるが、ヘアケア商品で使った例はほぼ見たらない。

 ネムノキ樹皮エキスは「カームナイトリペア」と「リラックスナイトリペア」の全商品に採用されているが、「カームナイトリペア」ではさらに、髪の内側まで保湿するナイトセラミドと、毛髪を外側からコーティングする超密着エッセンスを配合し、「ナイトキャップ処方」を組んだ。

 藤岡氏によれば、同社は理論、便益、RTB(Reason To Believe:信じるに足る理由)、体感の4項目で合格ラインをクリアしないと商品化しない。『YOLU』では理論構築に苦戦した。

「ナイトケア商品はマスマーケットにおいて、理論化して処方開発されたものや代表的なヒット例がなかったため、良い参考事例がなく一から処方を組むところは苦労しています。開発に要した時間の半分以上は理論構築に費やしたかもしれません」

 理論を構築するには、試作をつくっては実際に使い効果を検証することを繰り返すしかない。「カームナイトリペア」の場合、検証は社内で6回、社外で2回実施した。

「サロン超えた」でバズる

「『YOLU』の初動は『BOTANIST』に匹敵する勢いでした」と藤岡氏。発売開始直後から売れ行きがよかったため、2021年末には「リラックスナイトリペア」の投入を正式に決定した。

リラックスナイトリペア(シャンプー&トリートメント)

 売れ行きを支えたのは、強みとするデジタルマーケティングである。インフルエンサーマーケティングを実施し、商品と親和性のあるインフルエンサーに商品を送付。気に入ってSNSに投稿したインフルエンサーが複数いたが、なかでも気に入った商品のことしかツイートしないので有名なインフルエンサーが「サロン超えた」とツイートしたときのバズり方はすごく、ツイート直後の売上が大きく伸びたことがPOSデータから確認できたほどだった。

 このほかには、2022年6月21日から7月7日までの間、「キャンドルナイトキャンペーン」を実施。クールアースデイに絡めて、節電を呼びかけながらエコでマインドフルネスなYOLUの世界観を伝える狙いで企画されたもので、Twitterを使い、『YOLU』オリジナルキャンドルとヘアオイルのセットを抽選で50名(「カームナイトリペア」「リラックスナイトリペア」各25名ずつ)にプレゼントした。

カームナイトリペアのオリジナルキャンドルとヘアオイル

リラックスナイトリペアのオリジナルキャンドルとヘアオイル

正確な検証結果が得づらかった「リラックスナイトリペア」

「リラックスナイトリペア」は2022年4月に発売された。「カームナイトリペア」同様ネムノキ樹皮エキスを使用。うねりの原因となる髪内部の水分の偏りをナイトケラチンや3種の密着コーティング成分でカバーし、油分と水分のバランスを良好に保つ処方を開発した。夜に乾燥しがちな頭皮のために、うるおい感を高める成分も配合している。

 開発で難しかったのは、うねりと元からある髪のくせが混同されかねず、正確な検証結果が得づらいことだった。効果が正確に実感できない懸念がある中でいいものをつくるのは、容易ではなかったという。社内で4回、社外で2回検証を実施しているが、髪のうねりとはそもそも何か?というところに立ち返らなければならないほどだった。

 発売された4月以降、『YOLU』の配荷店舗数がそれまでより4000店舗増加。「リラックスナイトリペア」発売を発表した2022年4月13日時点の売上は累計280万個を超えたところだったので、その後の伸びには目を見張るものがある。

取材からわかった『YOLU』のヒット要因3

1.時間が有効に使える

 夜のバスタイムで髪を洗ったら、寝ている間にヘアケアし、朝起きたらパサつきやうねりのない髪ができる。寝ている間に美しくなれるので、時間がこの上なく有効に使える。

2.きちんとした裏付けがある

 開発時、マス市場ではどのヘアケアブランドも、処方理論をもって”ナイトケア”を謳っていなかったので、寝ている間にヘアケアできることの理論を構築することが求められた。試作をつくり検証を繰り返しながら効果の裏付けを取り安心して提供できるものにした。

3.バズった

 販促施策は基本的にインフルエンサーマーケティング。インフルエンサーが商品を気に入ってくれない限りSNSでの拡散が期待できないが、バズった投稿もあるなど、複数のインフルエンサーによる拡散力が商品の知名度と購買意向を押し上げた。

 実際に使ったユーザーの声として多いのは、朝起きたときの仕上がりの良さ。また、強い購入意向なる傾向がある香りについても、天然精油を使っていることもあり評判がいいという。

製品情報
https://yolu.jp/

文/大沢裕司

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