デファクトスタンダードを獲得するデメリット
製品がデファクトスタンダードとなれば、開発・販売した企業にはメリットしかないように思われがちです。しかし、自社の規格が事実上の標準と認められたからこそ被るデメリットもあります。
市場の独占を批判される可能性がある
自社の展開する規格が市場で絶対的優位な立場になると、『市場を独占している』と捉えられ、競合他社や消費者、マスコミから批判を受ける可能性があります。
生まれる利益を総取りするような振る舞いをすると、提供する商品がすばらしくても『私利私欲しか考えていない企業』として批判を受けるでしょう。場合によっては、独占禁止法に抵触しているとして訴えられる場合もあります。
デファクトスタンダードの獲得により訴えられた企業の例に『Google』があります。Googleはインターネット検索や広告の市場を独占しているとして、米国の反トラスト法(日本における独占禁止法)違反容疑で提訴されました。
参考:
独占禁止法の概要:公正取引委員会
米司法省、反トラスト法違反を理由にグーグルを提訴(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
消費者にデメリットが生じる場合も
一つの企業の製品がデファクトスタンダードとなることで、消費者に不利益を与えてしまう可能性もあります。技術的に優位な規格が事実上の標準を獲得するわけではないためです。
デファクトスタンダードが確立されている市場では、消費者にとって有益な機能を持っている規格が登場しても、『事実上の標準ではないから』という理由で選択肢からこぼれ落ちます。消費者に有用なはずの商品が選ばれにくい環境を、デファクトスタンダードが作ってしまう可能性があるのです。
健全な市場の形成には、豊富な選択肢が欠かせません。デファクトスタンダードを獲得した企業にも、消費者が自分のニーズに合った商品を選べる環境を残す配慮が求められます。
著作権や特許権の侵害への対応が求められる
業界におけるデファクトスタンダードを勝ち取った企業は、権利を侵害してくる企業への対応が不可欠になります。多くの企業がその規格にのっとった製品を作るようになるでしょう。中には著作権や特許権を侵害した模倣品を販売し、利益をかすめ取ろうとする企業も現れます。
模倣によって利益を得ようとする企業を野放しにすれば、本来得られるはずだった利益をみすみす逃す事態になりかねません。自社の規格の優位性を守るには、著作権侵害や特許権侵害といったトラブルが起こったとき、個別に対応していくためのコストがかかります。
デファクトスタンダードの具体例
デファクトスタンダードの具体例を紹介します。どのような規格がデファクトスタンダードとして世の中に浸透しているかを知れば、言葉への理解が進むでしょう。
Windows OS
パソコン向けOSのデファクトスタンダードが『Windows OS』です。事実上の標準が定まっていなかった当時、パソコンのOSは各企業がそれぞれの規格にのっとって製造・販売していました。
数々のOSが乱立する中、Windowsは始めからデファクトスタンダードとして有力だったわけではありません。先行して販売されていた『MacOS』の方が優れているという評価もありました。
その中でWindowsが事実上の標準と認められた裏には、パソコンやCPUを製造するメーカーとの連携が挙げられます。Windowsは他の企業と協力して徐々にシェアを拡大させ、デファクトスタンダードとして認められる存在になったのです。
キーボードのQWERTY配列
キーボードのキー配列も、デファクトスタンダードの一つです。キーボードの『QWERTY配列』は、タイプライターを快適に使用するために考え出されました。
タイプライターを打つときにタイピングスピードが速くなりすぎると、印字ヘッドが交差して不具合が生じます。タイピングスピードを抑え、スムーズにタイプするための方策として考え出されたのがQWERTY配列でした。
ただ、QWERTY配列はパソコンのキーボードに採用しても何のメリットもありません。QWERTY配列の弱点を補うキー配列は数多く考え出されましたが、QWERTY配列が世の中に浸透しきっているため、どれも定着には至りませんでした。
検索エンジンとしてのGoogle
検索エンジンのデファクトスタンダードがGoogleです。検索エンジンとは、入力したキーワードに合わせてユーザーが欲していると思われる情報を探し出してくるシステムです。Google以外では『Yahoo!』や『Bing』などが検索エンジンに当たります。
Googleは2021年時点で、全世界で約91%、日本で約75%と高いシェアを誇っています。インターネット検索を『ググる』と表現することからも分かるように、『検索エンジン= Google』とも捉えられているほどです。
インターネットが普及し始めて間もない頃は、さまざまな検索エンジンが存在し、ポータルサイトとしてサービスを展開していました。その中でGoogleは、検索結果の正確性から人気を集め、瞬く間に高いシェアを築き上げていったのです。
参考:
Search Engine Market Share Worldwide | Statcounter Global Stats
Desktop Search Engine Market Share Japan | Statcounter Global Stats
構成/編集部