代表的なポインズンピルの種類
ポイズンピルには『事前警告型』と『信託型』の二つの種類があります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
事前警告型
事前警告型は、敵対的買収を仕掛けてくると考えられる相手に対して、ポイズンピルを実行する意思があると事前に警告するタイプです。
買収の動きがある場合、企業はまず相手に買収の目的や買収後の事業計画などを開示するよう請求するとともに、ポイズンピルを発動する意思がある旨を伝えます。
相手方の回答によって不当な買収であると判断した場合、警告通りにポイズンピルを実行するのです。実際はポイズンピルの実行を示唆した時点で、相手方が買収を断念するケースが多いでしょう。抑止力として非常に高い効果があります。
信託型
信託型のポイズンピルは、信託銀行に対して新株予約権を無償で発行し、敵対的買収が実行される際、その信託銀行が発動条件を満たしているかを確認した上で新株予約権を行使するタイプです。
あるいは、買収の防衛を目的として設立したSPC(特別目的会社)に対して新株予約権を発行し、管理を信託銀行に任せるケースもあります。
いずれの場合でも、企業が直接新株予約権を発行するよりもスピーディーに実行できるので、買収の動きにすぐ対応できるのがメリットです。
ポイズンピルの実例
ポイズンピルを巡って実際に起こった事例を三つ紹介します。日本はアメリカに比べて敵対的買収自体が多くはありませんが、その中でも有名な事例を覚えておきましょう。
【2005年】ライブドア/ニッポン放送
2005年、当時急成長を遂げていたライブドアがニッポン放送の株式を大量に取得し、敵対的買収に乗り出しました。それに対して、ニッポン放送は同じグループのフジテレビに対して4,720万株もの新株を発行し、ライブドアの買収を防いだ有名な事例です。
ライブドアは本件の新株発行が違法であるとして、発行の差し止め請求を申請しました。請求は認められたものの、ライブドアも資金が尽きてしまいます。
ライブドアがフジテレビの持株を全て譲渡し和解に至ったことで、結果的にニッポン放送はフジ・メディア・ホールディングスの完全子会社になりました。
当時、日本では珍しい敵対的買収に乗り出したライブドアに対して、大きな批判が巻き起こった事例です。一方、大量の新株を発行して株式の価値を希薄化させたニッポン放送にも、多くの批判が集まりました。
実際、ライブドアだけでなく一部の個人株主も差し止めを請求していたようです。
参考:新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告|高等裁判所 判例集
【2007年】スティール・パートナーズ/ブルドックソース
2007年、アメリカのヘッジファンドであるスティール・パートナーズが、日本のブルドックソースの買収に乗り出しました。ブルドックソースは買収防衛のため、既存株主に対して1株につき3株の新株予約権を無償で発行します。
スティール・パートナーズは新株発行の差し止め請求をしましたが、裁判所に却下され、最終的に買収は失敗に終わりました。
本件は日本国内で初めてポイズンピルが発動された事例です。既存株主の大多数が買収行為に対して株主の共同利益を害すると判断し、新株予約権の無償割り当てを承認しています。
参考:株主総会決議禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件|最高裁判所判例集
【2021年】SBIホールディングス/新生銀行
2021年、SBIホールディングスが新生銀行に対して敵対的買収を仕掛けた事例です。もともと新生銀行の発行済株式の約20%を保有していたSBIホールディングスは、そこからさらに半数近くまで株式を取得することで、同社を子会社化する旨を発表しました。
新生銀行は防衛策としてポイズンピルの発動を示唆しましたが、発動には至りませんでした。最終的に新生銀行がSBIホールディングスの傘下に入る結果となっています。
同銀行の前身・日本長期信用銀行に投入されていた公的資金の返済が滞っていたといった理由から、国がSBIホールディングスの買収に好意的だったことが、発動されなかった理由の一つです。
同銀行の株主である預金保険機構などがポイズンピルに賛同しなかったことも、防衛策取り下げの背景とされています。