スムーズで上質な走り
さて、いよいよその走りについてだが、アクセルを踏むとリニアに加速していくのだが、そこにぎこちなさや唐突さといったものが一切なく、ごく自然にスピードが上がっていく。かといって、決してレスポンスが鈍重でストレスを感じるようなことはない。
もちろん、そのスペック(最高出力218PS、最大トルク300Nm、0-100Km加速7.5秒)からわかるとおり、それほど強烈な動力性能を持ち合わせているわけではないが、1.9tを超えるボディを実にスムーズでありながらもキビキビと走らせるよう手なづけられている。これには、長年にわたりBEV市場をけん引してきた日産の技術力によるものだと感心させられた。
また「アリア」は、EV専用プラットフォームの恩恵でサイドメンバーのスパンを狭められたこともあり、ホイールベースが長いにも関わらず最小回転半径が5.4mと同じ19インチタイヤを装着したエクストレイルの5.6mよりも小さい。このおかげもあり、実際、狭い都心の道路や駐車場などで取り回しのよさを実感することができた。
なお、ドライブモードは、センターコンソールに配置されたスイッチで「SPORT」、「STANDARD」、「ECO」の3モードを選択することが可能。スポーツタイプのクルマではないため、モードを切り替えても加速力などに劇的な変化があるわけではないが、走るシチュエーションや気分で選ぶといいだろう。
さらに、日産でおなじみのアクセルペダルだけで走りをコントロールできるe-Pedalも備わっている。ただ「アリア」の場合、実はリーフなどのように停止まで行なえる「e-Pedal」ではなく、発進、加速、減速までの「e-Pedal Step」となり完全停止までは行なえないので注意が必要だ。(※アクセルオフの減速後にクリープ走行が発生する為、停車時には必ずブレーキを踏む必要がある)
ただ、このe-Pedal Stepも慣れてしまうと、混雑した道路やスポーツ走行の際にとても便利で気持ちいいので、ぜひ試して欲しい。もっとも理想をいってしまえば、回生の強さを任意で細かく調整できると、さらによかったかも知れない。
そして走行中にいたく感激したのが、音の静かさだ。もちろんエンジン音がしないため、通常のBEVならどうしても聞こえてきそうな風切り音やロードノイズ、モーターの音などが、かなりのレベルで抑えられている。
聞けば、前出の遮音対策されたタイヤやカーペットのほか、ガラス、さらにはモーター(巻線界磁式)の音までも抑制したというのだから驚く。これも「アリア」に上質さが感じられるゆえんのひとつなのではないだろうか。
試乗の最後には、スカイラインに搭載して話題となったプロパイロット2.0を高速道路で試してみた。これは、従来のGPSのみのプロパイロットの精度が10~15mに対し、さらに準天頂衛星システム「みちびき」の測位情報も受信することで精度を50cmほどにまで正確性を進化させたというもの。
実際に使ってみると、最初こそステアリングから手を離すのにドキドキしたが、カーブなどでも減速をしてくれたりとオンザレール感覚で安心していられる上、車線変更をともなう追い越しなどもこなしてくれるので頼もしかった。
ちなみに、高速走行をしてみてわかったのだが、低速ではあまり気にならなかった乗り心地に関する腰砕け感というか突き上げ感のようなものを感じた。
これは、まだあたりの付いていないサスペンションのせいなのか、吸音スポンジのタイヤもしくは2WDという駆動方式が原因なのか定かではないが、少し気になったポイント。たぶん、この後登場してくる本命である4WDモデルのe-4ORCEとともに、改善されるのではないかと思っている。
さて今年2022年は、トヨタがスバルと共同開発した「bZ4X」が発売され、もうすぐ日産からは「サクラ」、三菱は「eKクロス EV」という軽のBEVも登場予定となっており、まさに日本のBEV市場のエポックメイキングとなる年。
そんな中「アリア」は、そのデザインや走り、機能など、すべてにおいてシンプルで上質さのわかる大人たちを魅了するモデルとして、その役割を果たしていくのではないだろうか。
■関連情報
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/ariya.html
取材・文・撮影/土屋嘉久(ADVOX株式会社 代表)