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IT技術関連職のジェンダーギャップ問題、女性から見た課題と解消に向けた企業の取り組み

2022.05.17

SDGsのゴールの一つに「5.ジェンダー平等を実現しよう」がある。SDGsへの取り組みが国内でも活発化する中、世間でもジェンダーギャップの問題意識が高まってきている。

求人検索エンジンを手がけるIndeedがIT技術関連職の男女を対象に実態調査を実施したところ、男女格差が明らかになった。

今回は、IT技術関連職のジェンダーギャップについて、主に女性から見た課題を探る。また、そのジェンダーギャップを解消するための企業の取り組み事例も紹介する。

日本におけるIT技術関連職のジェンダーギャップの実態

Indeedは2022年3月、日本で特に女性の就業割合が少ない現状にあるIT分野に着目し、IT技術関連職におけるジェンダーギャップの実態や女性のキャリア形成における課題などを調査した。

本調査は、現在IT技術関連職に就いている20代~40代の男女各721名、計1,442名に対して行われた。所属しているチームや部署の男女比について聞いたところ、全体の73.2%が、男性が6割以上を占める職場で働いていることがわかった。

●自身の性別によるメリットを感じたことがある人~男性34.5%、女性36.8%

自分の性別によってメリットを感じたことあるかの割合は、男性34.5%、女性36.8%だった。男性の感じるメリット上位には「仕事をまかせてもらいやすい」「実力で評価されやすい」、女性は「体調不良など休暇取得の際に理解を得やすい」「指導してもらいやすい」があがった。

●自身の性別によるデメリットを感じたことがある人~男性25.9%、女性36.5%

一方、デメリットについては男性25.9%、女性36.5%となり、メリットと比べると男性はやや減っているが、女性はメリットと同じくらいの割合となった。

男性の感じるデメリット上位には「労働時間が配慮されにくい」「業務量が配慮されにくい」「体調不良など休暇取得の際に理解を得にくい」「勤務場所が配慮されにくい」、女性の上位には「昇進・昇格しにくい」「給料が低い・昇給しにくい」「実力で評価されにくい」「仕事をまかせてもらいにくい」があがった。

●仕事における困りごと

仕事における困りごとは、男女共通して1位「急ぎの仕事が多い」、2位「長時間残業が常態化している」だが、3位は、男性「深夜や休日など時間外勤務が多い」、女性「自分の本業以外の業務を割り振られることがある」「技術面の学習機会がない」と男女間での違いが出ていた。

女性については、IT技術関連職は他の職種と比べて、子供・子育てを理由にした「休暇を申請しやすい」「勤務時間の調整がしやすい」と感じる割合は約半数にのぼっていた。

女性のIT技術関連職が昇給・昇格しにくいのはなぜ?

同調査では、少なからず、女性のIT技術関連職の実態が垣間見られた。女性の実働状況や直面している課題についてさらに詳しく知るべく、2019年にIT分野のジェンダーギャップの解消を目指して一般社団法人Waffleを設立した代表理事の田中沙弥果氏に話を聞いた。

【取材協力】

田中 沙弥果氏
一般社団法人Waffle 代表理事
2017年NPO法人みんなのコード入職。文部科学省後援事業に従事したほか、全国20都市以上の教育委員会と連携し、学校の先生がプログラミング教育を授業で実施するための事業を推進。2019年にIT分野のジェンダーギャップの解消を目指して一般社団法人Waffleを設立。2020年には日本政府主催の国際女性会議WAW!2020にユース代表として選出。2020年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。内閣府 若者円卓会議委員。経産省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」有識者。

Indeedの先の調査では、女性のIT技術関連職が「昇給・昇格しにくい」「技術面の学習機会がない」「本業以外の業務を割り振られることがある」などのデメリットを感じている人の割合が多かった。これにはどのような背景があるのだろうか? 田中氏は次のように述べる。

「まさに、女性に対する評価が正当にされていないことや、研修の機会が男性に比べると与えられていないこと、女性が補助的な役割を職場で求められることが、この日本において、当たり前のように行われているという表れだと思われます。

そもそもIT技術関連職は専門職であり、他の職種よりも高度なスキルが求められ、スキルベースで評価される職種ではありますが、女性にデメリットに関する回答が多く挙がることは問題だと思います。正当な評価や業務の是正が必要だと思われます」(田中氏)

女性がIT技術関連職で満足度高く仕事をするにはどのような対策が考えられるだろうか。

「一つは、社内に閉じず、社外のコミュニティともつながりながら、キャリアのロールモデルや、仲間を探していくことも大切です。社内に同じ職種の女性が少ない場合でも、社外とつながることで、同じ悩みを抱える人たちと思いを共有することができます。

もう一つは、課題の可視化です。周りの男性に対しても、何が課題であり、その課題を解決できないとどのような問題が生じるのかを根拠をもって説明し、性別関係なく味方を少しずつつくっていくことも重要だと考えています」(田中氏)

●大人のジェンダーステレオタイプが子どもの将来に影響を与える

田中氏は、法人設立の際、どのようなジェンダーギャップを問題視していたのか。

「私たちは、主に女性およびノンバイナリー(※1)の中高生・大学生に向けて、IT・STEM教育やキャリアを考える機会を提供しています。ITやSTEMは『男性のもの』『女性には向いていない』といった、保護者や教員のジェンダーステレオタイプは、理系科目から女子を遠ざけ、子どもたちの将来の選択肢に少なからず影響を与えています。

テクノロジー業界で活躍する女性が少なくなると、これから生まれる新しいサービスに女性の視点が投影されにくく、男女の経済格差が今以上に広がる懸念もあります。これらの問題を解決し、『ITをカラフルにしていこう』と活動を行っています」

※1:ノンバイナリー:自分の性認識に、男性か女性かという枠組みをあてはめようとしない考え方。

●SDGsの観点から企業に求められることは?

SDGsの目標には「5.ジェンダー平等を実現しよう」がある。SDGsのゴール達成を意識した場合、企業はどのような取り組みが必要になるだろうか。

「まずは、ジェンダー平等について、客観的に日本国内と自社がどのような立ち位置にあるのかを把握すること、その上で社員がどのように自社のジェンダー平等を捉えているかを把握することが重要だと考えています。

最近では、SDGsやジェンダー平等の取り組みについて、積極的に情報発信している企業もたくさんあります。そういった企業から学ぶことも重要です。特に国内外を問わず、Z世代を中心に、SDGsやジェンダー平等について、当たり前のように理解し実践しつつある時代です。そのような人たちからきちんと選んでもらえるサービス・企業にならなければ、これから生き残っていけない可能性があることを理解する必要があると考えます」

企業の女性IT技術関連職のギャップ解消への取り組み事例2つ

すでに、IT技術関連職のジェンダーギャップ解消のために、具体的な行動を起こしている企業がある。Indeedと富士通の事例を見ていこう。

1.Indeed 女子学生向けにイベント実施

Indeedでは、女性のIT・テクノロジー分野で活躍する女性の働き方やキャリアの描き方を応援するイベントを実施している。

Indeed自体、HRテクノロジー分野で事業を展開しており、多くの女性従業員がエンジニアリングやプロダクト開発などの分野で活躍している。また同社は職場の差別や偏見をなくすために、従業員が自主的に運営する「インクルージョンリソースグループ(IRG)」があり、そのうちの一つである「Women at Indeed」というグループは、世界で13か国1,800名以上が参加するもので、ジェンダー格差を解消し、男女共同参画を実現するために、様々な取り組みを行っている。

女性がテクノロジーやプログラミングへアクセスする機会を増やすための活動として、女性開発者を対象としたプログラミングコンテスト「Women Coders Contest Indeed」を

世界的に開催しており、2021年には日本でも初めて実施した。

そして今年3月には、女子学生に向けて、キャリアトークセッションイベントをWaffleと共に実施した。イベントには、Indeedでプロダクトリード、ソフトウェアエンジニア、UXデザイナーとして働く女性社員3名が登壇し、IT・テクノロジー分野に女性が就業することのメリットや、Indeed社のグローバル企業ならではの女性の就業環境のフレキシビリティなどについて語られた。

●トークセッションにおける印象的な女性マネジャーの意見

イベントの画面イメージ

トークセッションにおいて、女子学生の一人が、Indeed女性社員に次のような質問をした。

「女性としてITやテクノロジー分野で働く上でのメリット・デメリットについてはどのように感じているか?」

Indeed社のソフトウェア エンジニアリング マネジャーの王フォンダ氏は、次のように答えている。

Indeed ソフトウェア エンジニアリング マネジャー 王フォンダ氏

「多くの調査で、女性のリーダーはより公平で正直である結果も出ている。女性はより幅広いビジョンを持っていたり、他者とのコラボレーションもより優れていると思う。そうした性質を、強みとして高め発揮していく必要がある。

デメリットとしては、多くの人がとらわれるところだと思うが、私の考えとしてはスキルセットの問題だと思う。例えば自分の意見が他者へうまく受け入れられていないとしたら、どうやってコミュニケーションスキルを磨いていくことができるかを考える。時間はかかるが、スキルを備えることがやりたいことをやっていけることにつながると思う」(王氏)

また、「アンコンシャスバイアスを感じたときにどのような気持ちで乗り切ってきたのか」という問いに対して、王氏は、次のように回答した。

「誰もがアンコンシャスバイアスを持っているし、自分が持っていることも理解している。よりフェアな環境を考えたときに、アプローチは二つあると思う。ひとつは組織的な側面。Indeedでは全員パフォーマンスレビューの時に、誰が対象になっているのかを匿名化して見えないようにしている。ジェンダーでなくとも、あらゆるアンコンシャスバイアスに対して配慮をしており、採用のときもそうしている。もう一つのアプローチは、自分自身で無意識のバイアスについて学ぶことである。そうすることでより周りの環境も良くなると思う。アンコンシャスバイアスはあるが、そのことが昇進や女性のエンジニアマネージャーであることを妨げることはない。個人として何をするのが正しいと考え行動することが必要である」(王氏)

2.富士通「女子大学生ICT駆動ソーシャルイノベーションコンソーシアム」

もう一つの取り組みは、2021年2月22日に設立された津田塾大学、日本女子大学、アシアル、富士通クラウドテクノロジーズによる産学連携プロジェクト「女子大学生ICT駆動ソーシャルイノベーションコンソーシアム」だ。

●女性人材を産学一体で育成

これは、ICT技術を活用したソーシャルイノベーションの実現を可能にし、「Society 5.0(※2)」時代を牽引していく女性人材を産学一体で育成していく取り組みである。

設立背景として、ICT技術の学習機会は急速に増えていく一方で、総務省行政評価局「女性活躍の推進に関する政策評価書」(令和元年7月)によると、情報通信業における労働者の女性比率は約2割であるなど、課題も多いことが挙げられている。

※2 Society 5.0:内閣府の提唱する未来社会のコンセプトで、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会。

●アプリ開発のプログラミング教育・コンテスト・インターンシップ等の場を提供

本コンソーシアムでは、女子大学生向けにスマートフォンアプリ開発の実践的なプログラミング教育や、開発コンテスト、賛同企業へのインターンシップ、研究や社会実装の場を提供する。プログラムやクラウドの仕組みを理解し、システムの設計・開発力を身に着ける機会を創出する。

【3つのワーキンググループ】

・アプリケーション開発
クラウド型のスマートフォンアプリ開発用ツール等を活用し、女子大学生のプログラミングスキル習得を支援する。

・コンテスト
アプリケーション開発ワーキンググループで培った知識やノウハウを実践する場として、スマートフォンアプリの開発コンテストを実施。学生交流を目的としたイベントなども開催予定。

・インターン
本コンソーシアム賛同企業へのインターンシップを通じて学生と企業の最適なマッチングの機会を創出。

●実施の背景

このコンソーシアムは、現在、問題になっている女性のIT技術職の課題に対して、どのように影響をもたらしたいと考えているのか。事務局を務める富士通クラウドテクノロジーズ株式会社の伊藤みなみ氏に聞いた。

「本コンソーシアムでは、女子大学生のICTスキル向上を図ることで、『全ての女性が、ソーシャルイノベーションを起こせる社会』の創出を目指し、情報化社会で活躍できる女性高度IT人材の育成を支援します。

今後の社会では人やコミュニティ、社会、サイバー空間がつながれた社会の中で、いかに自分の提案を実現するかが重要になると思います。しかしそれは、単にアイディアだけをアピールする能力だけでは不十分です。情報社会を動かしているエコシステムの中に協力者を見つけて開かれた協力体制を構築し、自らのアイディアを提案し、技術的実現性やデータ分析によるプランニングができなければなりません。しかも、これは分野を問わず、あらゆる営みの中で求められるものになっていきます。

しかし一方で、高等教育において情報科学を専門としていない人材が多いともいわれています。さまざまな分野に活躍の場が開けていることは良いことですが、大学時代に学んだこととの差異があることは必ずしも望ましいことではありません。むしろ、自らの学びを活かし、ICTを活用して社会イノベーションを牽引していく力こそが重要と考えられます。

そこで本コンソーシアムではIT分野の女性比率を向上させ、高度情報化社会においてイノベーションを起こせる人材を育成することで、今後の社会及びわが国の将来の知識サービス産業の発展に寄与したいと考えています」

●活動実績

すでにイベント開催や産官学連携の取り組みを実施している。ここでは一部の実施例を紹介してもらった。

〇アプリ開発ブートキャンプ

「2021年の夏休みに10日間でモバイルアプリ開発を行うオンラインイベントを開催し、活水女子大学、津田塾大学、東京女子大学、日本女子大学の4大学、31名の学生が参加しました。事後アンケートでは参加者の半分以上がプログラミングに対して苦手意識を持っていたにもかかわらず、イベント後は参加者の90%が将来ICT分野にかかわる企業で働くことを希望する結果となりました」

〇定例会による情報交換

「協賛企業・大学が集い、月1回定例会を行っています。教育現場の課題等の情報交換や、産業界から教育現場の課題解決のための提案を行う等、産学連携が活発に行われています。

定例会には学生代表も参加しています。学生が協賛企業でのインターンやアルバイト等を経験した後、ICT分野への興味を深め、そのまま協賛企業へ入社した例もあります」

〇文部科学省「こども霞が関見学デー」

「こども霞が関見学デーという霞が関の各府省庁等が連携し、所管の業務説明や関連業務の展示等を行う取組に協力しました。本コンソーシアムに携わっている学生が企画を行い、子どもたちへプログラミングの楽しさを教えました」

●今後の活動予定

今後、どのような活動を予定しているのだろうか?

「今年も夏休みの期間を利用して10日間ほどでアプリ開発ブートキャンプを予定しています。その他にも学生さんから常にイベントの要望を吸収し、定期的にイベントを開催していきます。コンソーシアムとしては、今後も協賛大学・協賛企業を募集していきます」

IT技術関連職にはある程度のジェンダーギャップが存在することは否めない。しかしながら、女性自身にも無意識のバイアスが存在するという側面もある。まずは男女共に個人個人の考え方を見直すことが重要と言えるのかもしれない。すでに、ジェンダーギャップを埋めるべく、さまざまな取り組みが実施されていることから、それらの場に積極的に参加し、スキルやキャリアアップと共に、意識の向上を目指すことが求められそうだ。

【調査出典】
Indeed「IT技術関連職における男女格差に関する実態調査」

取材・文/石原亜香利

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