【極上ビールを求めて】フルーティで芳醇、香りが豊かな「淡色エール」
全世界で、約150種類以上もあるというビール。その中から、自分の好みにマッチした最高の1杯を選ぶ目安としてビアジャーナリストのくっくショーヘイさんが作成したのが、「ビールチャート」(下)だ。
好みのビールのキャラクターがわかる「ビールチャート」※くっくショーヘイさん作成
このビールチャートでは、150種類以上もあるビールを大きく8種類のキャラクターに分類している。前回は、日本の大手ビールメーカーの代表銘柄のほとんどをしめる「淡色ラガー」について解説していただいた。
今回は、その「淡色ラガー」と対になる「淡色エール」についてお聞きする。
8種類のキャラクターの特徴は、大まかにいうとこういうイメージです。
お話を聞いた方:くっくショーヘイ(佐藤 翔平)さん
フードペアリングインストラクター/ビアソムリエ/ビアジャーナリスト
1989年生まれ、宮城県出身。岩手大学卒業。5000種以上のビールをテイスティングしてすべて記録をつけ、フードペアリングを中心とした執筆活動を行っている。日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として国際ビアコンペでの審査も行う。保有資格に、ソムリエ、SAKE DIPLOMA、酒匠、唎酒師、焼酎唎酒師、ウイスキーエキスパート、テキーラ・マエストロなど。
2022年3月22日に発売、即Amazonビール本部門1位を獲得した「うまいビールが飲みたい!最高の一杯を見つけるためのメソッド」(くっくショーヘイ著/リトルモア)。ビールの基礎知識をはじめ、150種類近くあるクラフトビールから自分の好みが見つかる「ビールチャート」、ビール×おつまみの「ペアリング」の極意など、ビール好き必読の情報が満載の一冊
「ラガー」と「エール」は、「ビール酵母」の2大勢力
――「淡色エール」は、「淡色ラガー」と対になるビール、ということですが、そもそも「対になる」ってどういうことでしょう?
ショーヘイさん ビールは麦汁を発酵させて醸造します。麦汁を発酵させるのに必要な「ビール酵母」にはいろいろな種類がありますが、うんと大きく分類すると「ラガー」と「エール」、「それ以外」になるんです。
―――なるほど、ビール酵母の2大勢力だから「対になる」んですね。で、この2つの酵母で、味にどんな違いが出るんですか?
ショーヘイさん 食品は発酵させると、特有の香りが発生しますよね。「ラガー酵母」は、4~10℃の低い温度で発酵させることが多いので、香りが抑えめになります。だからすっきり軽快、のどごしクリアなビールが多いんです。
それに対して「エール酵母」は、16~24℃のやや高い温度で発酵させることが多いので、さまざまな香気成分が発生します。そのため、「エステル香」と呼ばれるフルーティな香りなど、香味の強いビールが多いんです。
アサヒスーパードライにキレがあるのは、酵母が食いしん坊だから!?
――人間も、熱帯の国と寒冷地だと、国民性が代わってきたりしますもんね。そうか、ビール酵母の性格って、気候の特色によってある程度は性格が決まる、国民性みたいなものですかね?
ショーヘイさん まあそうですが、同じ国民でもひとりひとりの性格は違うように、「ラガー酵母」「エール酵母」も種類によって多くの個性があります。例えば、アサヒスーパードライの酵母はすっきりした味わいになる「ラガー酵母」ですが、その中でも特に食欲旺盛で、発酵の時にかなり糖を食べ尽くすので、ビールにキレが特有の生まれるのだそうですよ。
――ビール酵母によって味わいが違ってくるというのは、そういう働き方の違いなんですね。
ショーヘイさん 「ラガー酵母」と「エール酵母」のほかにも、個性豊かで面白いビール酵母がたくさんありますよ。チャートの8番目にある「個性派ビール」のところで、じっくりお話しましょう。
淡色エールの最大の特徴は、豊かな香り
――淡色エールが、比較的高温で発酵させることでいろいろな香りが生まれるところまではわかりました。でも淡色エールのビールもいろいろあるみたいで、違いがいまひとつわかりません…。
ショーヘイさん 淡色エールは総じてフルーティで味わい豊かなものが多いですが、ラガーに近くてさっぱりしていて飲みやすいのは、「ケルシュ」という青りんごのような穏やかな香りのあるビールや、アメリカ発祥の「ゴールデンエール」も同じくらいさっぱりしています。
――私はどっちかというと、すっきり感より香り重視なんですが、どんな淡色エールを選んだらいいでしょう?
ショーヘイさん 「ペールエール」という種類をよく目にしませんか?淡色エールの代表格のひとつとされるイギリス発祥のビールで、麦芽由来のコクある味わいに、ホップの香りと苦みが程よく効いたビールです。
同じペールエールでも、柑橘類のような香りや苦みの効いたものから、香ばしいモルト風味や酵母由来のスパイシーな風味のあるものまでバリエーションが豊かです。
――最近、コンビニでもよく見かける「よなよなエール」(右)は、「ペールエール」ってはっきり表示されているから選びやすいですね。「ヱビス プレミアムエール」(左)は、「エール」という情報以外は何もない…。でも「余韻まで広がる香りとコク」という説明が、エール特有の味わいを指しているんですね。
ショーヘイさん もうひとつ、「IPA」という表示も最近よく目にしませんか? IPAとは「インディア・ペールエール」スタイルの略で、ざっくり味わいを例えるとペールエールの強力バージョン。ホップをたくさん入れて香りや苦みをより強くしたタイプで、苦みとのバランスをとるためにモルトも多く使うので、コクもしっかり感じられるんですよ。
もともとは18世紀末頃、イギリスからインドにビールを輸送する際、劣化を防ぐ目的で大量のホップを使用し、アルコール度数を高めにしたことから誕生したビールといわれています。
――この連載1回目の時もお話しましたが、私、ちょっと前に香りのよさにドはまりして、箱買いしたのが「グランドキリン IPA」だったんです!!ホップの香りもするけれど、柑橘類のような香りも感じられて…。
ショーヘイさん ペールエールもIPAも国内で主流なのは、「アメリカンスタイル」といって柑橘類のようなフルーティなホップ香と苦みを感じるタイプです。
エールタイプのビールを飲む時は、常温のグラスで
――前回の淡色ラガーの時は、「日本のビールの代表銘柄であるピルスナーは5~6℃くらいに冷やすと、淡色ラガー特有のシャープさや、苦み、キレがしっかり感じられる」と教わりましたが、淡色エールもそういうコツってありますか?
ショーヘイさん 香りの豊かなエール系のビールは、冷やしすぎると香りがたたず、単調な味わいになってしまうので注意が必要です。前回「ビールの適温は、アルコール度数を目安にするといい」と言いましたが、IPAのアルコール度数はラガータイプに比べて高めなので、温度も7~10℃くらいの高めのほうがおいしいです。冷蔵庫から取り出したビールを常温のグラスに注ぎ、一呼吸置くとこれくらいの温度になります。
――ラガータイプはグラスをキンキンに冷やして、エールタイプは常温のグラスですね。おぼえました!次回は最近、飲食店でもよく見る「白ビール」についてお願いします。
取材・文/桑原恵美子
取材協力/くっくショーヘイさん
https://www.jbja.jp/archives/author/sato
https://www.instagram.com/shoheisatoh/?hl=ja
編集/inox.