■連載/あるあるビジネス処方箋
ここ数回、解雇について私の考えを述べている。5年程前から、その会社の人事労務に関わる立場として深く考え込む事例であったためだ。前回にも紹介したが、3月末に普通解雇となった50代の男性(一般職)は上司や周囲の社員を徹底して批判、非難し、時に罵倒し、辞めさせようとしていた。それにより、精神が病んでしまった女性社員がいた。
私が強く懸念するのはこういう人は「壊し屋」とも言えるタイプで、意にそぐわないものを次々と壊し、悪びれたものがないことだ。周囲の社員10数人によると、本人は破壊すること自体に喜びや使命感、責任感すら感じていた節があるという。
男性は解雇となったアミューズメント会社の前の職場でも、伝え聞くところによると、上司や周囲と摩擦や対立をして辞めたようだ。賃貸マンションも、オーナーともめて退出せざるを得なくなったという。相手を壊そうとするから、おそらくその反動で自分が壊されるのだろうが、そのことに気がついていないようだ。
実は、「怖し屋」は様々なところにいる。最近、40代後半の女性を取材した。人事コンサルタントをしているが、離婚をしていることもあり、女性から離婚の相談も受けている。相談を受けると、相手の男性(夫、元夫)からモラハラを受けるケースが圧倒的に多いことに気がつくようだ。男性が女性(妻、元妻)を殴るケースはほとんどないが、一方でしつこいほどに指示をしたり、説教するのだという。例えば家事が夫の求めるレベルに達していないと、3時間ほどにわたり、説教する。あるいは、子どものしつけが理想とするものではないとして何度も叱る。深夜にまで及ぶようだ。
女性のすること1つずつをけなし、否定する。ところが、男性もそんなレベルに程遠い。それでも否定し、なじる。女性はしだいに滅入り、落ち込む。なおも、否定される。ついにはノイローゼやうつ病になる。男性は、エスカレートする。「お前のことを思い、言っているんだ」と追い詰める。
女性は逃げ出すかのごとく、別居する。そして、離婚となる。ところが、男性は離婚の申し出をすぐに受け入れない。この期に及んでも、「お前のことを思い、言ってきたんだ!」と怒る。意外なことに、子どもの養育費は世間相場よりもはるかに高いお金を期日に支払うケースが多いようだ。
前述の離婚相談を請け負う女性の人事コンサルタントは、こう話していた。「このタイプの男性には「妻はこうあるべき、子はこう育てるべき」といった規範意識が強烈にあるのだと思う。そのイメージ通りにならないと不快になり、不満を押し殺すことができなくなる。実は自分自身も問題だらけなのだが、いい意味において妥協したり、帳尻を合わせることができない。それに従わないと、しつこいほどに説教をする。相手のことは気にしない。あくまで、自分のイメージに固執する。それを繰り返すから、離婚になる」
こういう話を聞くと、ここ数回紹介した男性とよく似ていると思う。解雇になる寸前まで、自分のイメージに必要以上にこだわり、その通りに動かない上司や社員を批判、非難し、罵倒していた。普通、上司を罵倒する部下はほとんどいないはずなのだが。
私が、男性を解雇にすることにためらいを感じなかったのはその言動がもはや、尋常ではないレベルだったからだ。職場が完全に壊れ、精神疾患になる社員も現れていた。解雇にすることで、縁を切らないといけない社員はいるのだ。
今回思い起こしたのは、10年程に読んだ『他人を攻撃せずにはいられない人 』(PHP新書)だ。ぜひ、目を通してほしい。解雇となった男性や前述の離婚に至る夫婦に似ている事例が豊富だ。私はこの10年で産業医や心療内科、精神科の医師を30人程取材し、相手を壊さないと気がすまない人について多少なりとも知ることができた。ちなみに、この30人程の医師の大半がこういうタイプの人からは他部署への異動や退職、別居や離婚など物理的に離れないと、精神が病んでしまう場合があると話していた。
読者諸氏の職場には周囲を徹底して否定し、壊そうとする人がいないだろうか。深刻な問題として考えるべきと私は思うが、放置するケースが圧倒的に多いのではないか。
文/吉田典史