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「選択的週休3日制」が標準になるのか?メリットとデメリットを考える

2022.01.19

2021年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2021」を閣議決定し「選択的週休3日制」の導入を促したが、現在、週休3日制を導入している企業は少ない。

実際、従業員側からすれば、週休3日制は「身体が休まる」「子育てがしやすい」などのメリットの声がある一方で、「給料が減る」デメリットの声も強い。この賛否両論ある状況について、ワークライフバランスに詳しい有識者に意見を聞いた。

週休3日制は「仕事の負担が大きくなる」「収入が減る」デメリットも

PLAN-Bが運営するメディア「エラベル」が、2021年12月に、全国の正社員1,000人を対象に「週休3日制」についてのアンケートを実施した。その結果、週休3日制に「賛成」と回答した人は51.8%という結果となった。

28.3%は「どちらかと言えば賛成」と回答していたが、「分からない・どちらとも言えない」「どちらかと言えば反対」「反対」と回答した人は合わせて19.9%いた。「賛成」という意見のほうが多い結果だ。

しかし、実際に週休3日制で働いている人は2.9%とわずか。週休2日制やシフト制で働く人が約9割を占めていた。

コメントとして、週休3日制になった場合に考えられるメリットには「旅行に行きやすくなる」「プライベートな時間が持てる」「副業ができる」などが挙がった。

一方、デメリットは「だらけてしまいそう」「働くリズムが崩れる」ほか、「仕事の負担が大きくなる」「収入が減る」といったコメントが多く見られた。

実際に週休3日制で働いている人はどう感じているか。メリットは「体がラク」だが、デメリットでは全員が「収入が減った」と感じていた。

選択的週休3日制度のデメリットについて

政府は、「選択的週休3日制度」は育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられると述べているが、アンケート結果でも出ていた「収入が減る」というデメリットはやはり気になる部分だ。

ワークライフバランスのテーマに詳しい、株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&WLB推進部長の宮原淳二氏に意見を聞いた。

【取材協力】

宮原 淳二氏
株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&WLB推進部長
大手化粧品会社の資生堂に長年勤務。2011年より東レ経営研究所に転職し、企業や行政、労働組合などで働き方改革やダイバーシティに関する講演やコンサルティングを数多く実施。東京商工会議所「多様な人材活躍委員会」識者。2級キャリア・コンサルティング技能士、2級ファイナンシャル・プランナー。
http://www.tbr.co.jp/

「昨年6月に閣議決定された『骨太の方針』に選択的週休3日制度が盛り込まれたことから、議論が活発化してきました。これまでは、育児や介護との両立といった側面での導入が主目的でしたが、リスキリング(学び直し)の奨励や自社に優秀な社員を呼び込もうと、大企業を中心に徐々に検討が進んでいます。先日もパナソニックが希望者を対象に週休3日制を導入する方針を発表しました。しかしながら、厚生労働省の2020年の調査では、国内で『完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度』を導入している企業は8%程度と少数派です。

選択的週休3日制度は、大きく3パターンに分けられます。(1)休日を増やして労働時間を変えずに給料は変えない (2)休日・労働時間を減らし給料も減らす (3)休日・労働時間を増やして給料は変えない。(2)の給料も減らすパターンがデメリットと捉えられがちですが、あくまで『選択的』なので、選ぶのは社員です。会社が社員に強制するものではないので、安心してください。現時点では、育児や介護などのライフイベントで就業継続が困難な方など、限定的な位置づけと理解してください」

週休3日制が義務化された場合はどうなる?

将来的に、もし週休3日制が義務化された場合、かえって長時間労働や副業が増えるという意見もある。ワークライフバランスの観点からすれば、週休3日制は必要なのだろうか。

「今では当たり前となっている週休2日制ですが、今から半世紀以上前の1965年に、前述した当時の松下電器産業(現パナソニック)が日本の大企業で初めて、週休2日制に踏み切ったことでじわじわと浸透していきました。当時は土曜出勤が当たり前の時代。週休2日制を取り入れることで業績が低迷するなど、否定的な意見が多くありました。しかしながら、工場の設備の自動化などで生産性を向上させ、1980年代には多くの大企業が導入するようになったのです。その結果、女性なども労働市場に参画しやすくなったと言われています。

確かに週1日の休日ですと身体を休めるためだけの1日となりやすいですが、週2日であれば、ちょっとした旅行に行くなど、選択の幅が広がり、ワークライフバランスが充実しやすくなったと言えます。それが週休3日になれば、さらにワークライフバランスは高まるでしょう。例えば、1日は休養に充て、もう1日は家族や自己啓発の日に充てる。さらにもう1日は地域活動やボランティア、環境保護活動に充てるなど、地球環境にも優しい活動ができます。また独身時代から子育て期、中高年期などライフステージにマッチした活動が可能となります。これは『ウェルビーイング(幸福な人生)』に大きく寄与するものと考えられます」

一方で、生産性向上の面では厳しい現実があるという。

「その反面、生産性の向上は不可欠です。日本生産性本部の調査では、先進7か国中、日本の労働生産性は最下位。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速させるなど、今より稼働日が1日少なくとも同じ成果が得られるよう、知恵を絞る必要があります」

ワークライフバランスの観点からは、週休3日制になることでより自分を伸ばすための時間が取りやすくなる側面もあるという。

「最近は『人生100年時代』と言われるように、これまでの学習期20年、労働期40年、リタイア期20年の80年時代から、20年も延びています。学生時代に学習したスキルが変化の速い今の時代で生涯通用するとは思えません。リカレント教育などを通じて仕事を続けながら、学び続ける姿勢が重要になってきます。

厚生労働省の『令和2年度 能力開発基本調査』によると、“仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない”と回答した正社員は54.7%です。こうした背景から、労働者も自社でしか通用しないスキルではなく、常に学習し続ける姿勢に目を向け、チャンスがあれば成長産業に転職するなど、自ら能力を開発し続ける人材になって欲しいと思います」

「選択的週休3日制度」の未来

現状の「選択的週休3日制度」は、どうすれば日本で浸透するだろうか。宮原氏に意見を聞いた。

「日本全体に週休3日制を浸透させるには課題もあります。会員の多くが中小企業である日本商工会議所・三村明夫会頭は定例会見で、『生産性を向上した結果として余裕のある企業が週休3日制を導入するのであって、その逆ではない』と慎重な姿勢を示しています。日本の企業の99%は中小企業であるため、一部の大企業のみが週休3日制を導入しても、中小企業が導入しづらいのであれば元も子もありません。学生たちの大企業志向が高まることに拍車がかかるのも懸念材料です。

数年前から働き方改革が推進されていますが、大企業が残業削減などに取り組んだ一方で、その下請先けである中小企業にしわ寄せが行く構図は改めなければなりません。下請法の徹底など、行政機関が積極的に関与し、対等な立場で取引が円滑に行われるよう、目を光らせていただきたいと思います。

別の懸念材料もあります。日本人独特の『他者の目を気にする』特性です。週休3日制が浸透すれば、『自分が休むことで周囲に迷惑を掛ける』という心理が働くことが容易に想像できます。現在の有給休暇取得率が50%前後で推移している理由のトップは『周囲に迷惑を掛けたくない』であることから、『週休3日制を選択する人=変わった人』のように取られないか、危惧されます。特に地方では日本人独特の『同調圧力』なるものが根底にあるように感じられます。こうした側面からも、週休3日制の導入は、週休2日制の導入と同様、一定期間の試行錯誤を重ね、現在導入している企業で成果が表れるまでは、浸透に時間がかかるであろうと考えています。

経済学者のジョン・M・ケインズは、大恐慌のさなかの1930年に『百年後1日に3時間働けば十分に生きていける社会がやってくる』と予言しました。残念ながら現時点でその予言は外れていますが、週休3日制が実現したその先の未来に、ケインズの予言が成就するのではないかとも思っています」

選択的週休3日制は、強制されるものではないこと、そして長い目で見ればメリットも大きいことを理解したい。また、まだまだ導入は一部に留まるが、将来的には、週休2日制のようにやがて当たり前のようになる日も来るのかもしれない。

【出典】
株式会社PLAN-B エラベル「週休3日制に反対?賛成?会社員1000人に聞いてみた!「賛成」は51.8%という結果に」

【参考】
厚生労働省「令和2年度 能力開発基本調査」

取材・文/石原亜香利

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