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黒字なのにリストラに取り組む大企業が増えている理由

2022.01.14

■連載/あるあるビジネス処方箋

リストラに取り組む大企業が増えている。東京商工リサーチによると、2021年に希望退職を募った上場企業は80社以上。コロナ禍が直撃した20年は93社。2年連続で80社以上となるのはリーマン・ショック後の09、10年以来だという。この中には、業績が黒字の場合がある。いわゆる「黒字リストラ」だ。なぜ、黒字であるのに社員数を削減するのか。その大きな理由の1つが、賃金が高すぎるからだ。

記者会見などでリストラの理由を聞かれると、企業は「将来を見据えた企業構造の再構築のため」と答えるケースが多い。だが、実際には大きな理由は、特に30代後半以降の賃金が経営状態やその社員の働きに比べて高すぎることにある。

例えば、リストラを行うキー局の50代の社員は私がそこの在籍者から聞く限りでは、年収で1800~2800万円が多いという。この中には、一般職(管理職になれない社員)もいるようだ。部下のいない、いわゆる非ラインの管理職もこんなに多額の賃金を得ているという。ちなみに、この在籍者は30代前半~半ばの頃、番組制作の部署にいて、年収は残業を含めると、1400~1700万円程だったようだ。

日本企業は中小、ベンチャー、大企業まで総じて役員や管理職の数が適正規模を超え、人件費が膨張する傾向にある。例えば、「社員1万人の企業ならば役員は10~12人が適正」と指摘する人事コンサルタントが多い。ところが、この規模の企業の役員数は20人を超えているケースが目立つ。管理職になると「通常は全正社員の15~20%が妥当」と人事コンサルタントらは言うが、私が調べると35%前後が多い。20%以下はほとんどない。中には少数だが、45%を超える企業もある。

役員や管理職の数や人件費が適正規模を超えるのは、主に次のような理由があるからだ。

①総額人件費の管理が杜撰
②新卒、中途の採用で「総合職」として採用するケースが圧倒的に多い。一方で、依
然として専門職が少ない。結果として管理職が適正数よりも増えたり、なれない人が多くなる
③年功給を重視した賃金制度のベースとなる職能資格制度を長年導入している
④管理職や役員になる基準が曖昧
⑤降格(管理職を一般職にする)にするのが法律上、難しい
⑥リストラ(この場合は、希望退職制度)を常時行う仕組みを作っていない
⑦管理職や役員へのチェック機能が社内にほとんどない

メディアや識者は「解雇規制の緩和」を唱えるが、解雇ができない、あるいはしてはいけないといった法律はない。そのような判決や判例はないはずだ。だからこそ、懲戒、普通、整理と3種類の解雇がある。問題は解雇ができる、できないのではなく、その前の段階で管理職の数を調整するために降格をしたり、基本給の減額がスムーズにできないことだ。本来は、大々的に降格をして、基本給は半額以下にできるようにするべきだろう。

私の考えを付け加えると、企業内労組にも問題がある。春闘時などに賃金を上げるように経営側に交渉はするが、管理職や役員のあり方をほとんど指摘しない。私は仕事柄、労組の機関紙を大量に読むが、「役員や管理職の数が多い。こんなに多いと、我々組合員(一般職)の賃金が伸び悩む」と批判する労組は1つも存在しない。

さらに、メディアにも大きな問題がある。新聞やテレビ、雑誌、インターネットは大企業やメガベンチャー企業の社長、役員、管理職のスキャンダルや不祥事は盛んに報じる。だが、その社長や役員、管理職が上記の①~⑦のいびつで、ゆがんだ組織の中にいることを伝えない。本来は、①~⑦は深刻な問題にも関わらず。結果として、大企業やメガベンチャー企業の社長、役員、管理職はある面では批判を受けることがほとんどなくなる。

黒字リストラの背景には、これら一連の問題がある。なぜか、識者は指摘しない。メディアも大きくは報じない。

文/吉田典史

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