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優秀な女性社員の退職に不満を漏らす残念な社長

2021.12.14

■連載/あるあるビジネス処方箋

この1か月で2人の女性が会社を辞めた。今回は、その退職について考えたい。2人とは、2011年前後から取材でそれぞれ5回ほど接してきた。2年に1度のペースで話を伺い、記事にした。テーマは、「女性のキャリア形成」などだった。人事労務の雑誌やニュースサイトで掲載した。

本人たちからは、1年半程前からやんわりと「辞めるかもしれない」と聞いていた。まず、2人が勤務していた会社のアウトラインを紹介しよう。

女性A:40代半ば、取締役(営業推進担当)。社会人教育の企業で、正社員50人。15年前の創業メンバー。創業社長の参謀的な存在。

女性B:30代後半、課長。パソコンの周辺機器メーカーで、正社員60人。創業30年で、12年前に中途採用を経て入社。創業者の息子(2代目の社長)の側近として安定した仕事をしてきた。

2人とも社歴が長く、社長をはじめ、多くの社員から高い評価を受けてきた。黙々と仕事をするタイプで、周囲に不満を漏らすことはしない。内に秘めた闘志があり、1人で抱え込み、やり抜く性格や気質だ。

通常、この規模の会社には処理能力が高い人は少ない。むしろ、基礎学力に難があり、国語教育の「話す力・聞く力」「読む力」「書く力」が低いタイプが並ぶ。従って、メールや電話のやりとりはスムーズには進まない。2人は「話す力・聞く力」「読む力」「書く力」が同世代の大企業やメガベンチャー企業の社員と比べても遜色ない。電話やメールは、気分壮快になるほどに進む。

こんな優秀な人がなぜ、辞めたのか。「いろいろと重なり、疲れ切った」と答えていた。接点がないはずなのに、ほぼ同じ言葉を発する。「いろいろと重なり、疲れ切った」は意味が深いと思うので、取り上げたい。以前から2人が取材時に話していたことをもとに、私の考えを述べる。

まず、この規模の会社は人事の仕組みができていないから、採用→定着→育成がほとんど機能していない。結果として、社員間の仕事力に大きな差が生じる。優秀な人は、中小企業としてはレベルが高い。低い人は相当に低い。仕事は、優秀な人に集中する。それを基本給や賞与に反映できる会社は少ない。つまり、優秀であるほどに損をする構造になっている。大企業のように、頑張っている人にきちんと賃金で報いることができない。役員や管理職になると、バカバカしくなる場合もあるだろう。2人は取材に「やるほどに増えるのが、仕事。やるほどに損をするのが、仕事」とも言っていた。

部下を育成し、チームビルディングをしようとも、入社する人のレベルが相当に低いからどうにもならない。まして、数年以内に次々と辞める。つくづく嫌気がさしたのかもしれない。2人とも社長の側近的な存在。この規模の会社のトップは得てして社員の不満や言い分を真摯に聞こうとはしない、ワンマンが多い。ワンマンでないと、経営が成り立たないのだろうからやむを得ないかもしれないが、側近は離れていくものだろう。

さらには、年齢だ。30代半ばから40代で、私生活を含め、人生の曲がり角に入っている。たった1度の人生で、こんなところで時間を費やすのは惜しい。これまで通り、いいように使われていくだけに私には見える。ちなみに、2人が勤務した会社の社長(共に40代後半)は、私との電話ではこう話していた。

「これから管理職、役員としてやりがいがあり、楽しい時期であるのに、辞めるなんて惜しい」

「会社の成長に、彼女の成長がついてこれなくなり、心が離れていった」

長年にわたる労をねぎらう言葉はない。ひたすら、けなしていた。小さな会社の取材をしていると、頻繁に耳にする。社長に振り回され、泣かされる人を数えきれないほどに私は見てきた。マスメディアが伝えない企業社会の一断面なのだ。

読者諸氏は、2人の退職に何を感じるだろう。

文/吉田典史

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