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「10億円の壁」を乗り越えられない経営者の下で働くことのリスク

2021.10.30

■連載/あるあるビジネス処方箋

最近、都内や神奈川で6店舗を展開する飲食店の経営者(50代前半)に取材交渉をしたところ、返事は「(日程を)調整して連絡する」だった。1週間後に連絡があり、「これから取材を受ける」と話す。その時、夜の12時5分。オンライン取材と思いきや、「新宿の店に来てほしい」とのこと。新宿につくのはおそらく、午前1時半。30年近く取材をしてきたが、こんな時間からスタートするのはありえない。さすがに断らざるを得ない。不満そうな声で「来れないならば(取材を受けるのを)キャンセル!」と言い、電話を一方的に切った。

この経営者は、20年前に創業した。現在は、正社員やアルバイト30人ほどを雇う。売上は公開しておらず、推定で6億円前後。飲食店が乱立し、次々と廃業、閉店する中、生き延びるのだから、ある面において抜群に優れているのは間違いない。個性的な風貌で、キャリアもめずらしい。経済雑誌やビジネス雑誌、ニュースサイトでは時折、取材を受ける。取材者から聞く限りでは、めちゃくちゃな電話やメールの対応で、社内ではやりたい放題のようだ。

例えば、取材者の前でアルバイトをどなったり、頭を殴る。アルバイトの保護者とも摩擦を繰り返し、「あなたの息子さんは仕事の仕方がなっていない!」と自宅まで説教に行くこともあったという。内容証明の送りつけあいを親とするらしい。アルバイトが意に反した行動をとると、その日のうちに辞めさせてしまう。一時期、数人のアルバイトが労働組合ユニオンに入り、争いとなったこともある。

経済雑誌やビジネス雑誌、ニュースサイトは、こういう影の部分を現在までのところ、かたくなに報じない。優れた一面に焦点を当てた記事を作り、ひたすら誇張し、掲載する。この経営者が法律や社会常識に反した行動をとる、いわばアウトローにも関わらず。これが、経済雑誌やビジネス雑誌、ニュースサイトの一断面だ。時代感覚が、世間の感覚とは大幅にずれている。売れなくなるのは無理もない。

私が取材をしていると、破滅的な言動をとる経営者は売上が10億円以下のいわゆる「10億円の壁」の前でゆきづまる創業者が多い。創業者として売上6~9億円までひっぱるのだから、ビジネスへの嗅覚やビジネスモデルを時間内で作る着眼、構想力、それを具現化する腕力、少々の強引さ、行動力は平均的な日本人よりも数十ランクは上のはず。野心家であろうし、前向きで、ビジネスへの執着や研究心は旺盛。成功に向けての馬力があり、ある面で人間的な魅力もある。だが、致命的なほどに協調性がなく、人の話を聞かない。自己中心的で、ワンマン。ルールや約束を守る意識は低く、自分自身がすべて決めて、それが「約束」となる。つまり、「俺が決めたことには従え」となる。

こういう人がリーダーでは、チームが作れない。正社員やアルバイトは30~50人がいっぱいだろう。しかも、不満や怒り、恐怖心を抱き、次々と辞める。退職強要やパワハラ、解雇は無数。新たに雇うが、また退職。人の出入りが極端に激しい。いつまでもチームが作れないために、経営者に情報が集中し、それが悪循環となる。こうして組織が疲弊し、10億円を超えることができずに息絶え、廃業や閉店、倒産となる。特に飲食店に目立つ。

中には、例外もある。例えば、大きな病気になり、社員のありがたさを知り、謙虚になり、チーム作りに熱心になる立派な経営者もいる。心打たれる人は確かにいる。ただし、10億円前の壁を乗り越えることができない経営者の中ではわずかのはず。

読者諸氏が、新卒や中途でこの類の会社に正社員として入ることは抱けたほうがいい。アルバイトならばともかく、正社員として働くと、経営者にいいように使われ、精神的に肉体的に摩滅する可能性がある。こんな経営者のために身を挺して働いたところで、得るものはほとんどない。

10億円前の壁を乗り越えることができない経営者のそばで幸福になった社員を私は見たことがない。ごく一部の役員や家族は経済的には幸福かもしれないが、社員ではお目にかかったことがない。正社員として働くならば、せめて30億円以上の売上で、正社員数で言えば150人以上くらいの会社で働かないと後々、苦しむことになる可能性がある。この人たちに振り回されたり、泣かされたり、被害を受けた人の声をなぜ、メディアは報じないのか、私には理解ができない。

読者諸氏は、10億円前の壁を乗り越えることができない経営者に何を感じるだろうか。

文/吉田典史

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