地球環境の保全に配慮し、未来の子供たちの利益を損なわない、持続可能な社会発展にコミットする製品や企業を紹介するシリーズ、「サステイナブルな企業のリアル」。
今回は食品ロスのお話だ。「食品ロス」とは食べられるのに捨てられてしまう食べ物のこと。SDGsも「飢餓をゼロに」という目標が掲げるが、日本の1年間の食品ロスは実に約612万t、東京ドーム約5杯分(農水省発表)だという。
全栄物産株式会社 代表取締役 植田全紀(まさき)さん。草加と練馬で展開するスーパーゼンエーのオーナーである。従業員はパートを含め約50名。年商は約5億円。「流通からはずれた商品を再び流通に戻そう、それが僕の提案した“フードリカバリー”の意味です」という植田さん。大手スーパーに安売りで対抗した彼だが、実はそれが食品ロスの軽減につながることを意識する。なぜ食品ロスが出るのか。流通の仕組みとフードリカバリーの店づくりへの試行錯誤、それが今回の物語の柱である。
リストラとは言えずに“独立するよ”
埼玉県鴻巣市出身の植田全紀、高校時代は出席日数が足りず卒業延期、大学時代もダラダラしていたが、社会人になったら一生懸命にやりたい、世の中のためになりたいという密かな思いを抱いていた。
青年実業家になりたい。そのためにまず経営コンサルタントがいいんじゃないか。そんな思いを抱きつつ、埼玉県内で店舗展開するスーパーに就職。鮮魚売場で魚を切ったり店頭で接客したり朝から晩まで働き、休日は他のスーパー廻りをして小売を研究。
勤務先のスーパーに出入りする経営コンサルタントと知り合い、「勉強させてください!」と直訴。個人経営の会社だったが、晴れて経営コンサルタント会社の社員に就く。だが、スーパーの売り上げを伸ばすより、スーパーの社長の愚痴とかを聞き、心のすき間を埋めることがその人の仕事で。彼も他のスーパーにインストラクターとして派遣され、仕入れや売り場に立った。
30歳の時にリーマンショックに遭遇し、コンサルの仕事が激減。
「“植田くん、そろそろ卒業だな”と、社長に告げられまして。当時、奥さんのおなかの中に子どもがいて。リストラされたとは言えず、“オレ独立するよ”と宣言したんです」
妻の貯金200万円と親の出資金400万円、日本政策金融公庫からの融資も受け、スーパーゼンエーを立ち上げた。千葉県野田市内のスーパーの一角を借り八百屋を始めたが、ほどなくスーパーが倒産。紆余曲折を経て知り合いの紹介で、東武伊勢崎線新田駅から20分ほど離れた草加市内の今の店舗に八百屋を構えた。
「月2000万円売上げ実績があると。それならやっていけると思い店舗を構えたんですが、見せられた数字は、近くに大手のスーパーができる前のもので、実際は月600万円ぐらいしか売れませんでした」
彼が経営する八百屋の他に、魚屋と肉屋がテナントとして入ったが、魚屋はほどなく撤退。植田がスーパーの経営を引き受ける形となり、10年が過ぎた。
スーパーの3分の1ルール
「最初は野菜以外の乾物とか加工品とか、仕入れ先がわからない。実績も信用もないから食品問屋に問い合わせても、取り込み詐欺と勘違いされ電話を切られてしまった」
――でも、大手スーパーより安く売らないと、にっちもさっちもいかないのが現実ですね。
「ある日、車で走っていると食品の段ボールを山積みしている店を見つけまして。『すみません、これ売り物なんですか』って聞いて。何せ僕は、賞味期限に近いものが安く流通していることも、スーパーの3分の1ルールのことも知らなかったから」
――スーパーの3分の1ルールとは何ですか。
「賞味期限の3分の1を過ぎたものは納品できないし、3分の2を過ぎると売場の棚に置かない。大手スーパー側が決めたルールです。問屋に返品された商品の多くは廃棄されますが、その一部が現金問屋等を通して流通するわけです」
――ということは、食品の段ボールが山積みになっていた店は、スーパーの3分の1ルール等、賞味期限に問題があり、本来は廃棄される食品だったわけですか。
「そうとも言えますが、カップラーメンや缶詰やレトルト食品の賞味期限が半分以上過ぎていても、長く買い置きせずに食べるのなら、何の問題もありません」
彼は偶然見つけた現金問屋からカップラーメンをはじめ、100種類ほどの乾物を仕入れる。さらに問屋まわりを続けて仕入れ先を開拓した。わけあり商品の仕入れ値は安価だ。彼はカップラーメン2個で100円とか、賞味期限の迫ったものは10円とか20円で販売した。時には賞味期限切れの缶詰を“ご自由にお取りください”と、客に配ったこともある。
野菜は曲ったキュウリとか、大田市場でC品と呼ばれる規格外でふぞろいなものを仕入れた。ふつうのスーパーが扱う規格に合ったA品やB品も扱うが、それ以外に30%ほどはC級の野菜をスーパーの店頭に並べ、通常より3割ほど安く販売した。
袋詰めセールが大当たり
「安いねー」「他の店と同じ商品なのにね?」客からの驚きの声が聞こえた。客数も増えてだんだん売り上げも立ってきた。
「よし、ここで一つ話題になることをやろう」
植田はぶち上げ、均一料金で野菜や乾物をビニール袋に詰め込む、袋詰めセールを実行する。すると、この企画を知ったテレビ局が飛びついた。昼のワイドショーの番組でビニールの詰め放題を中心に、30分ほどスーパーゼンエーを取り上げてくれたのだ。
テレビ放映されると来客が驚くほど増えた。盆と正月が一緒に来たようで、1.5倍増の売上げが3か月間ぐらい続いたのだ。強気になった植田は社員も増やして、総菜にも手を伸ばしたのだが。
「テレビの放映から3カ月もすると、売り上げはストンと落ちて、赤字覚悟の詰め放題は週に1回のペースで続けましたが、その日しかお客さんは来ない」
さて、どうするか。SDGsを知り、植田の思考は単なる安売りスーパーではないと飛躍するのだが、明日公開する後編は食品ロスの実態を白日の下に晒すエピソードが展開する。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama