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就職前の「前歴照会」で内定者の過去はどこまで調べられているのか?

2021.10.28

■連載/あるあるビジネス処方箋

今回は、特に中途採用者を正社員として採用する際に企業がする場合がある、と言われる「前歴照会」をテーマに取り上げたい。「前歴照会」とは、採用する企業の採用担当者やその上司(役職者)などが、受験者の知らないところで過去に勤務した企業に何らかの形で接触し、主に次のことを調べるものだ。

・在籍していたのが事実であるか否か
・入社、退職の年月日
・在籍中の仕事、勤務態度、トラブル、人間関係、退職理由
・私生活(お金や異性とのトラブル)

私が企業の人事部に取材の際に聞いてきた限りでは、前歴照会は以前に勤務していた企業の人事部に直接、連絡を入れて確認するか、信用調査機関を使い、調べるかなどをする。タイミングは、最終面接の前が多い。最終面接で社長以下、役員たちが内定者を決めた後に調べていたのでは遅いからだ。

ただし、前歴照会が2003年(平成15年)に公布された「個人情報の保護に関する法律」(以下「個人情報保護法」)により、大胆にはできないようになった。私が取材で接する人事部の採用担当者で、50代以上の人は「2003年前後から前歴照会するのが難しくなった。依頼しても、ほとんどの会社が応じなくなった」と話すことが多い。

その理由として同法23条を挙げる。23条では、あらかじめ本人の同意を得ないで、他の事業者などの第三者に個人データを提供してはいけない。ただし、一定の条件に合致する場合は、本人の同意を得ずに第三者に提供することができるとなっている。これを前歴照会に置き換えると、受験者本人の同意がない場合、過去に勤務した会社は前歴照会をしてきた会社に情報を提供してはいけないことになる。

しかし、依然として前歴照会を続ける企業もある。介護の業界では、確かに虐待の問題がある。それを懸念して、自らのホームページで前歴照会をしていることを公にする医療法人がある。ここは職員の採用時に本人の同意を取ったうえで、前の職場に前歴照会を実施しているという。

和泉貴士弁護士に取材を通じて確認すると、採用時に前歴照会をするケースは個人情報保護法成立以前に比べると少なくなっているのではないか、と語る。その歯止めとなっているのが、同法の23条と民法709条の不法行為(プライバシー侵害)による訴訟リスクのようだ。

和泉貴士弁護士

和泉弁護士は、前述の介護施設、認知症グループホームを運営する医療法人や福祉施設のように前歴照会をするならば、少なくとも次の点を考慮する必要があると指摘する。

「その前歴照会を社会的な価値観や常識からみた場合、必要性があるか否かは常に問われなければいけない。そうでなければ、企業が求める人材が応募しなくなる。職員が過去の勤務先で虐待などに関わったかどうか、を確認するのは一定の必要性がある、と私は思う。

ただし、この場合でも受験者のあらゆることを調べるのが許されるわけではない。何を調べるのか。そもそもなぜ、調べるのか。前職の誰に確認するのか。これらが明確に決められ、受験者が納得していることが必要。 例えば、以前勤務した会社で不倫を原因として退職した男性がいる。男性が再就職しようと中途採用試験を受験した会社は前歴照会をしたようだ。

そして、不倫を理由に不採用とした。私には、受験者のこういう私生活の側面まで調べる必要性や社会的に説得力があるようには思えない。男性の同意を欠けばプライバシー侵害にあたり、この前歴照会は訴訟リスクが高い事例と言える。受験者との間に信頼関係を作れずに早期に離職してしまう可能性も高い」

前歴照会は見えない形で依然として行われているととらえるのが、妥当だと思う。そのあり方をあらためて見つめ直すのが必要ではないか。和泉弁護士が指摘するように、少なくとも次のことは大切だと私は思う。

何を調べるのか。そもそもなぜ、調べるのか。前職の誰に確認するのか。これらが明確に決められ、受験者が納得していることが必要。

読者諸氏は、何を感じるだろう。

文/吉田典史

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