■連載/あるあるビジネス処方箋
「心の平和を乱してくる者からは離れたほうがいい」―。こう教えられたのは、1990年代半ば。当時、20代後半だった。取材交渉のため、電話を何度もするが、毎回不在の自営業者がいた。電話を入れた時間は、その人が「この時間に連絡をほしい」と伝えてきた。
違う日に電話をすると、新たに「この日時に連絡をしてきたら対応ができる」と話す。電話をすると、また不在。この繰り返しが5回ほど続く。それ以前に、こんなルーズな人と巡り合うことはなかった。この時、上司は「心の平和を乱してくる者からは離れたほうがいい。それ以上接するのは、精神衛生上、よくない」と言っていた。
これと似たことをここ1か月半で経験した。千葉の市民団体を取材しようと、担当者に連絡する。その時点では承諾をしたが、指定された日時に電話をすると出ない。メールの返信も来ない。ラインで連絡したが、「既読」になるものの、回答がない。はがきを郵送したが、返事はない。ほかの担当者をネットで見つけ、連絡したところ、「〇月〇日に電話をほしい」と返事をもらう。その日時に電話すると、不在。メールの返信もない。1週間ほど後に、「〇月〇日に電話をほしい」と書かれたメールが来る。この繰り返しが5回ほど続く。現在に至るまでに連絡はつかない。
こういう仕事を30数年続けると、「心の平和を乱す人」は数年に1度のペースで現われる。腹が立つことは、今は少ない。1回目の電話のやりとりで「この人はルーズ」と感じ取るものがある。その後、約束を反故にされても「あの人ならば当然だろう」と思うようになる。
このような人はこれまでの経験で言えば各業界や各分野の、新卒採用の入社ランキングのC級やD級の企業に集中している。このランキングは、本連載の過去記事をご覧いただきたい。あるいは、前述のような市民団体だ。あくまで私が接してきた市民団体に限ったことになる。
・組織内においての社員(職員)教育が徹底していない
・組織化(組織で働くうえでのルール、約束などの浸透)ができていない
・組織の社員(職員)の一体感、意識・価値観の共有化が不十分
つまり、組織人なのだが、個人事業主のようなタイプが多い。組織の縛りを受けることなく、独自に判断し、行動をとる傾向がある。それも1つのスタイルなのだろうから、私は否定しない。
こちらからすると、アプローチする場合には一定のリスクマネジメントが必要になる。例えば、「ルーズな人だから、後へ2週間ずらそう」といったように。そうしないと振り回され、心の平穏を破壊されかねない。真剣に相手にすると、気がめいり、心身の状態がおかしくなる。心の平和を保っていないと、ほかの仕事に悪影響を与えるかもしれない。頭の切り替えが必要なのだろう。
だが、経験をもとに言えばそれは難しい。だからこそ、心の平和を乱す人とは関わらないほうがいい。避けるべきは、「あの時間に電話をしたのに不在だった」「メールを送ったのに、今なお、返信がない」と詰めることだ。おそらく、本人にルーズなつもりはないのだろう。メールの返信をしなくともいい、と考えてのことだろう。何を言ったところで、変わりはしない。正論であっても、相手からすると愚論。双方で感情的な摩擦が残るだけ。大切なのは、そっと離れることだ。
ここまでを読むと、「振り回された挙げ句に、何も言わないなんてありえない!」と思うかもしれない。その怒りはわかるつもりだが、周囲もルーズな姿勢に嫌気がさして、深くは関わっていないはず。あなたが攻撃をしなくとも、淘汰される人たちだ。あるいは、そのレベルの人が集う組織にいるのだろう。この連載で何度か取り上げた一流の大企業やメガベンチャー企業の社員にはめったにいない。だからこそ、採用試験を受けることを勧めている。
読者諸氏は、心の平和を乱された時にどうしているだろう。
文/吉田典史