■連載/あるあるビジネス処方箋
今回は、一流の大企業やメガベンチャー企業の社員がなぜ、謙虚であるのかを考えたい。この場合の「一流」とは、新卒採用の入社の難易度が各業界で上位3番以内と、15社ほどのメガベンチャー企業を意味する。私の観察では新卒入社の難易度は各業界でおおむね、下記の4つのグループにわけられる。
・A級(上位3位以内)
・B級(4位~20位以内)
・C級(21位~50位以内)
・D級(51位以下)
この場合の難易度は受験者数と内定者数(倍率)、採用方法、試験問題などをもとに決める。現役の社員、労働組合や産業別労組、退職者、試験問題を作る会社、就職セミナーを運営する会社などから聞いたものだ。
前述の「謙虚」とは、次のようなことを意味する。
・電話やメールでの言葉や表現
・TPOをわきまえた言動
・ビジネスマネー (服装や身なり、ルールや約束を守る姿勢など)
・社会常識や教養
・自分を客観視する力
・相手への配慮
私のここ30年の観察では一流企業の社員(20~60代まで幅広く)が、B級以下の企業の社員よりもはるかに謙虚だ。その大きな理由としては、少なくとも次のことが考えられる。
1. 恵まれた私生活
幼少の頃から家庭環境は、おおむね恵まれていたはずだ。例えば、保護者の収入は日本の平均的な相場よりは多かった可能性が高い。家族関係もある程度は良好だったのだろう。そうでないと、入学難易度が上位数パーセントの大学・学部に入れないはずだ。
2. セルフイメージがいい
高校入学までは学力試験の点数や偏差値は相当に高く、友人らとの人間関係も良好だったケースが多いはずだ。社会人になるまでに成功体験を積み重ねてきたから、脳がある意味で錯覚し、自分は優秀なのだと思い込んでいるはず。だからこそ、少々の失敗があったとしても、乗り越えていける。そんなセルフイメージがあるからこそ、自分に好感を持つことができる。自分を受け入れることができるから、相手を認め、称える時には称え、受け入れることができる。
B級以下の社員は、私の観察では現在の自分に不満が強いタイプが多い。「自分は、こんな会社では終わりたくない」「私は、もっと上の会社にいるべきなのに…」などと言いたげな人が確かに多い。現状と自分の理想との間にギャップがあり、折り合いがつかないようだ。他人を素直に認め、称えることができない人が、私が知る限りでは多い。
3. 密度の濃い競争の空間でもまれる
一流企業には、採用と定着のレベルの高い仕組みがある。新卒の採用試験では学力や素養、適性、性格や気質、健康状態などが上位数パーセントの学生を採用する。充実した教育研修があり、管理職は一部を除き、質が高い。部下の育成も、B級以下の企業のそれよりは心得ている。
しかも、社員の6~8割は各世代のエリート層。仕事への姿勢が概してよく、実績や成果への執着もある。密度の濃い競争の中でもまれ、互いに刺激し合い、成長する。競争がし烈であるので、頭角を現すのは難しい。だからこそ、身の程を知り、控えめで謙虚になる。競争がない中で自分を知ることは難しい。さらには、人事異動やリストラも大胆で、社員の昇進・昇格の浮き沈みも激しい。ますます、謙虚になるのだろう。
一流企業の社員の中には、言動や仕事力に問題がある人もいるだろう。だが、その数は全社員の中では少数派であり、育成や教育で人材の底上げはできているとみるべきだ。マスメディアは積極的には取り上げないようだが、私はこのクラスの企業の社員からは学ぶものが多いと思う。その1つが、謙虚さだ。読者諸氏は、どのように感じるだろう。
文/吉田典史