■連載/あるあるビジネス処方箋
数日前に渡した企画書の返事がまだ来ない。交通費の清算書に承認をもらおうとしても、なかなかサインしてくれない――。上司のこんなノロノロとした姿勢にキレそうになったことがないだろうか。私も会社員の頃に何度もある。こういう上司は、得てして仕事を抱え込む傾向がある。懸命に取り組むのは好ましいが、部下に迷惑をかけるのは大いに問題があるはずだ。今回は、仕事を抱え込む上司について私の考えを述べたい。
まず、部下として心得るべきは、上司のその姿がマネジメントの観点からしておかしいことだ。決して「猛烈にがんばっている」などとみないほうがいい。ここ10数年、プレイング・マネージャーの上司はプレイヤーとして仕事をするケースが多い。一方、マネージャーとして部署をまとめあげなければいけない。ハードな立場だが、それができるのがプレイング・マネージャーなのだ。
だからこそ、チームで役割分担や権限移譲をして一定のスピードで前に進めなければいけない。抱え込む上司は一応、役割分担や権限移譲をするのだが、どこかのタイミングで仕事を事実上取り上げ、自分で対処しようとする。取材で確認すると、決まってこう答える。
「部下に安心して仕事を任せられない」
「自分で対応したほうが速いし、正確」
たしかにその通りかもしれない。だが、それは当たり前だ。部下たちよりは経験が豊富で、高い賃金をもらっているのだから、できなければ問題だろう。どんなレベルであろうとも、少なくとも部下もそのことに何も言わないはずだ。
こんなことも心得ずに、部下を否定して抱え込むあたりに致命的な問題がある。部下はいつまでも育たず、チームが作れない。部下の仕事を取り上げ、自分がしていると会社は赤字になる。それが1~2年になると、大赤字になるのだ。上司が部下と同じ仕事をしていたのでは、コストがかかりすぎるだろう。部下と同じ賃金にならないと、ペイできない。
上司の仕事は部下を否定するのではなく、育成することだ。そのために仕事を与え、丁寧にわかりやすく、繰り返し教えること。それができると思われているから、部下を持つはずなのだ。このあたりは当たり前のようでいて、実はできていない管理職が多い。目立つのは、社員数300人以下の中小企業だ。私がこのレベルの会社に新卒で入社するのを繰り返し疑問視するのは部下の仕事を取り上げ、抱え込む上司を多数見るからだ。その会社の管理職全体の半数を超えるくらいに多いところもある。
それも無理はない。入社の難易度が高いとは言い難く、定着率は概して低い。少ない数の中から管理職を選ぶ。その基準はあいまいなケースが多い。昇格後の研修はほとんどない。
つまり、非管理職の頃の意識や考え方のままの可能性があるのだ。これでは、部下の仕事を取り上げ、抱え込む上司が現れるのは当然だろう。
では、部下はどうすればいいのか。これは、実に難しい。会社員の頃に大量に抱え込む上司の下にいたが、「自分でその仕事をします」と言ったところで、おそらく手放さないだろう。自分ですることに異様にこだわるのだから、そのままにしておいたほうがいい。「あっ、また、始まった」と冷めた目で観察してもいいのかもしれない。むしろ、そのほうが本人(上司)にとっていいのではないか、と思う。
冒頭で述べたように、これでは上司のところで仕事が止まってしまうかもしれない。怒るのもわからないでもないが、最終的には上司の責任になるはずだ。あなたは、目の前の仕事をするだけでいい。マネジメントを心得ていない上司と分かり合うのは不可能に近い。反面教師として観察すればいいのだ。
文/吉田典史