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【サステイナブル企業のリアル】「この羽根にはエネルギー革命を起こす可能性がある」グローバルエナジー・鈴木政彦社長

2021.09.29

前編はこちら

地球環境の保全に配慮し、子供たちの利益を損なわない、持続可能な社会にコミットする製品や企業を紹介するシリーズ、「サステイナブルな企業のリアル」。

今回は風車のお話だ。風力発電が再生可能エネルギーの代名詞であることは、言うまでもない。

(株)グローバルエナジー 代表取締役鈴木政彦さん(70)は静岡県浜松市に本拠を置く。従業員8名はすべて技術者だ。抵抗と考えられている力をエネルギーとして利用する、一般的な科学の常識とは真逆の発想で風車の開発を進め、羽根の形、長さ、厚さの試行錯誤を繰り返し、数えきれないほどの試作を重ねた。その結果、羽の長さが半分以下で倍以上の出力を得られる、しかも風切音がしない画期的な羽根、ベルシオンを開発。

この羽根を用いた風車を当初は頑丈に作った。

ところが暴風雨に襲われ、発電機は焼け、ブレーキも壊れて制御不能に陥った。この一件で彼は羽根の素材の重要性を思い知らされる。さて、どんなブレイクスルーを思いつくのか。

軽量、強度、安全、安価な素材とは?

鈴木は暴風雨の遭遇から学んだことを語る。

「万が一、制御不能に陥った時、羽根が壊れれば装置への被害を免れる。羽根が吹き飛んでも二次災害を起こさない、安全な素材で羽根を作らなければならないということです」

さて、羽根の素材として何を使うか。重い金属はコストが下がるが、出力と安全性が落ち金属疲労も起こす。カーボン繊維は軽いが、高価な材料でコストが上がる。

――軽い、ある程度の強度がある、壊れても安全で安価な素材ということですね。

「行きついたのが」

――はて?

「発布スチロールでした。発泡スチロールにも種類があって、車のバンパーやクッションの素材に使われているものは、形が変形しにくい。金型で作れて安価でできます」

思い至ったのは、発泡スチロール製の風車であった。

風車には垂直軸型とプロペラ型があるが、2000年から風車の羽根の開発に取り組み、十数年で垂直型約4000基、プロペラ型約2000基を試作してデータを取った。鈴木は栃木県内でFRP(繊維強化プラスチック)を使った成形の会社経営に携っていたが、風車の試作にのめり込み、会社は5億円ほどの債務超過に陥り、親戚の当時の社長はギブアップ。鈴木が社長に座り、債務の履行を求める銀行との交渉にあたった。

ベルシオン誕生

「債務超過は、開発費と特許申請のための費用に充てた」

彼はそう主張し、垂直型やプロオペラ型の風車等、試作の現場を銀行の関係者に公開する。

「この羽根は風車だけでなく、いろんなプロペラに使える、エネルギー革命を興こせる可能性があるのだ」そんな鈴木の説明に、これは化けるかもしれないと、試作を見学した銀行の関係者は債務履行の前に1千万円の融資に応じた。その資金は特許の費用に充てられる。

ちなみに彼は、翼がないラジコンの飛行機まで試作し飛ばしている。翼のない飛行機はこれまでに全長3.6m、機体が50㎏までの実験飛行を終えている。鈴木は言う。

「風車の羽根は航空力学から計算されていて、シロウトが口を挟む余地はないと、専門家に言われ続けましたから。従来のような翼のない機体を自由自在に飛ばせば、翼理論を使っていないこと、そしてこれまで培ってきた僕の理論の正しさ証明することができると」

風車に取り組んで約10年、鈴木式の羽根がほぼ完成したのは2010年頃だった。鈴木の姓と当時、生まれた孫の名前を合わせベルシオンと命名した。

羽根の長さは従来の風車の半分以下で、倍以上の出力が得られる。さらに低周波騒音となる風切音もしない。万が一壊れても発泡スチロール製なので、二次災害の危険がほぼない。ベルシオンは風車のみならず、その用途は多岐に及ぶのだ。

特許専用実施権は十数億円

そんなベルシオンに、興味を示す大企業が現れた。風力発電の設置に力を入れている企業だった。ついに契約が成立した。ベルシオンの特許専用実施権の契約金は十数億円。

「金額よりもこれでベルシオンが世に広まる、世の中に貢献できると思いましたよ」

ところが――

特許専用実施権を得た会社は、鈴木が開発に口を挟むことを好まなかった。そればかりか、待てど暮らせど、ベルシオンの製品化は実現しなかったのだ。彼が期待していたベルシオンを世の中に広める、エネルギー革命に一石を投じるという思いは、かなえられないでいた。

――いったいどうしてですか。

「大企業には航空力学を学んだ専門家が何人もいるから、従来の翼理論に基づいた風車の研究を続けたいわけですよ。これまでとはまったく異なるドシロウトの僕の理論なんかに、耳を傾けられないと」

――でも、鈴木さんはベルシオンを世に広めたい、エネルギー革命に貢献したいと。

「3年経てもベルシオンが製品になる気配がないので、解約を申し入れたんです」

解約の交渉は難航した。裁判に発展したら長引くケースが考えられた。そこで「すべての権利を無償譲渡するから縁を切ってくれ!」鈴木はそんな内容で解約に至っている。

「これまでの特許専用実施権でできる以上のものを発明すればいい。僕の頭の中にはアイデアが渦巻いていましたから」

用途は風車だけではない

特許の契約を交わした企業と関係が切れて、半年後、ニューベルシモン特許の登録が完了している。

「ニューベルシオンは簡単に言うと、風車の羽根と羽根を結ぶ設計にしました。以前のものは風車が高速回転すると、空中分解する恐れがあった。ニューベルシオンは高速回転するほど羽根が引っ張り合って強度が増します。自社従来比で1.5倍の出力が得られます」

現在、浜名湖の湖畔に設けた実験場では、ニューベルシオンを用いた多段式垂直軸風車や、風車と太陽光を併設したハイブリット街路灯等、数基の実証実験を行っている。

抵抗をエネルギー変える、ニューベルシオンはそのパワーが増している。

「ニューベルシオンを水車に応用すれば、水の流れを利用し、流れよりも水車を速く回転させることができます。水車を通っても水の流れは変わりません。短い間隔で水車を何基設置しても、流れる水の速さは変わらないから、それぞれの水車で同じエネルギーが取れる。

この水車を船のスクリューの後ろに付ければ、水の抵抗を減らすことができて船の加速力が増します。船のスクリューにニューベルシオンの羽根を用いると、ノーマルのスクリューより50mあたり、5秒速い推進力が得られる。大手自動車メーカーはうちの羽根を使って、風で走る車のモデル作りに取り掛かっています」

再生可能エネルギーに注目が集まる時代に、ニューベルシオンは多方面から注目をされはじめているというわけだ。鈴木政彦は最後のこんな社会貢献の夢を語った。

「風力発電の風車に僕が考案した羽根が行き渡れば、原発だっていらなくなるのですよ」

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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