数あることわざの中でも、見聞きすることが多い「腐っても鯛」。優れたものの価値を表す言葉だが、なぜ「鯛」なのか疑問に感じた方もいるかもしれない。そこで本記事では、「腐っても鯛」の正しい意味と由来、類語表現などを解説する。使い方も併せて確認して、実際に使う際の参考にしてほしい。
ことわざ「腐っても鯛」の正しい意味と由来
はじめに、「腐っても鯛」の意味と由来を解説する。正しい意味や語源を理解すれば、適切な使い方ができるはず。
「優れたものはいたんでもそれなりの価値がある」という意味
腐っても鯛は、「立派で価値の高いものは、たとえ状態が悪くなったとしてもなおその価値を保つ」という意味で、読み方は「くさってもたい」。立派なさまや価値の高いものに対する褒め言葉で、物だけでなく人に対しても使うことができる。ただし、「腐っても」という消極的な表現を含むため、相手に直接使う言葉としては不向きである点に留意したい。
鯛が高級魚であることが由来
腐っても鯛の意味は、鯛が高級魚であることに由来している。日本では昔から、鯛を最高級の魚に位置付け、祝いの席で振る舞う’’縁起物’’として扱う風習があった。そのような縁起物の鯛は、たとえ腐ったとしても他の魚より価値があるという考えから、「腐っても鯛」ということわざが生まれたと言われている。なお、地域によっては同様の意味で「腐っても鯛の骨」と表現する場合がある。
「腐っても鯛」の対義語
「腐っても鯛」の反対の意味を持つことわざに「麒麟も老いては駑馬に劣る」がある。「どんなに優れた者でも、老いるとその能力が普通の者にも及ばなくなる」という意味で、読み方は「きりんもおいてはどばにおとる」。中国の戦国時代(紀元前四世紀頃)に活躍した弁論家「蘇秦(そしん)」の言葉が由来とされている。また、「麒麟も老いては駑馬に劣る」の同義語として、「昔千里も今一里(むかしせんりもいまいちり)」という表現も存在する。
「腐っても鯛」の例文
より具体的な使い方をイメージできるよう、ここでは「腐っても鯛」の例文を紹介する。
【例文】
「年老いたとはいえ腐っても鯛だ。彼女の演奏には今もなお多くの人が魅了される」
「腐っても鯛というように、長い年月が経った今でもこの車は価値を保っている」
「腐っても鯛」の類語
次に、「腐っても鯛」と似た意味を持つ類語を解説する。いずれも優れたものは状態が悪くなってもその価値を保つという意味だが、微妙なニュアンスの違いもチェックしてほしい。
沈丁花は枯れても芳し(じんちょうげはかれてもかんばし)
「沈丁花は枯れても芳し」は、「香りの強い沈丁花は、たとえ枯れてしまってもなおその香りを放つ」様子を表現したもの。「腐っても鯛」と同じく「優れたものは衰えても価値を失わない」という意味を持つ。
古川に水絶えず(ふるかわにみずたえず)
「伝統あるものや、基盤がしっかりしているものは容易に滅びない」ことを表現したのが、「古川に水絶えず」。「腐っても鯛」と同様の意味合いだが、「伝統」や「基盤」といった価値に着目している点でニュアンスが若干異なる。
破れても小袖(やぶれてもこそで)
「小袖」とは、絹の綿入れ(綿の入った防寒用の衣服)のこと。「たとえ破れてしまっても、絹のよさは残っている」という意味から、「腐っても鯛」の類語となる。
「腐っても鯛」の英語表現
最後に、「腐っても鯛」の英語表現を紹介する。国や文化によって例え方はさまざまだが、「腐っても鯛」と似た意味を持つ英語表現はいくつか存在する。
A good horse becomes never a jade
「腐っても鯛」の英語表現としてよく使われるのが「A good horse becomes never a jade」。「名馬(good horse)は決して駄馬(jade)にならない」という意味で、「腐っても鯛」と同様、優れたものの価値を表している。
A diamond on a dunghill is still a diamond
「A diamond on a dunghill is still a diamond」も「腐っても鯛」を英語で伝えたいときに便利な表現。日本語訳は「糞の山にあってもダイヤモンドは依然としてダイヤモンド」で、「価値の高いものはどんな場所にあってもその価値を維持する」という意味となる。
An old eagle is better than a young crow
「An old eagle is better than a young crow」は、「年老いたワシは若いカラスよりもまし」という意味。上述した2つの表現と同じく、「腐っても鯛」を英語で伝えるときに使われる。
文/oki