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【サステイナブル企業のリアル】「会社を自主廃業した時にこのままでは終われない、と思いました」sid・清水勝明社長

2021.09.01

地球環境の保全に配慮し、未来の子供たちの利益を損なわない、持続可能な社会発展にコミットする製品や企業を紹介するシリーズ「サステイナブルな企業のリアル」。

今回はグラスである。このグラス、落としても壁に投げつけても割れない、耐熱性に優れ、赤外線で劣化し、黄ばむこともない。クリスタルと同等の透明度を永久に保つ。揺りかごから墓場まで、生涯使えるアイテムなのだ。

sid株式会社 代表取締役清水勝明さん(75)。hare-hare(以下・ハレハレ)と名付けたこのグラスを開発するまでには、高性能真空注型機の開発、自主廃業、会社の再建、特殊な耐熱性樹脂の開発――町の発明家の50年近い波乱万丈の物語があった。

目を付けたのが試作品

台東区浅草生まれで下町育ちの清水勝明は、若い頃からアイデアマンだった。「20歳の頃は東京駅の八重洲口の近くにいい物件を見つけて、喫茶店を経営していました」サラリーマンで店は流行り、借金は返済したが、水商売ノリのウエイターやウェイトレスと肌が合わず、1年半ほどで店の経営から手を引いた。

「その後は友人が経営するオーストラリアの店に、日本製の掛け軸等を輸出する仕事をしました。日本製の電気カミソリや小型家電まで扱って、けっこういい商売でしたが、結婚することになり、落ち着いた仕事に就こうと勤め人になったんです」

勤めた先がプラスチックの金型の会社だった。それが今につながる。最初のきっかけは車のダッシュボードに組み込まれるカーステレオの正面部分の仕事だった。

「金型を作ると,1千万円ぐらいかかります」

「そらそうだ、大量生産に使う金型は金がかかる」

「ですから、まず試作品を作ることをお勧めします。試作品を見てこれでいけると思ったら、金型を発注すれば間違いない。試作品なら30万円ぐらいで作れます」

彼は工作機械を使い、図面にあるカーステレオの正面部分の試作を製作した。

「これなら、いいじゃないか」

試作したカーステレオを目にした客は、安心して金型を発注する。清水のこの営業スタイルは的を射ていた。事前の試作品に客は喜び、会社の売り上げは倍増した。

真空注型機という試作の自動機開発

これはいけるぞと、清水勝明が試作の専門会社を起業したのは28歳の時。金型を発注する前に試作を作る、試作づくりが徐々に世の中に浸透し、会社は順調だったが――

「試作品を作るには、板を切ったり曲げたり貼ったり作業が大変だし時間がかかる。工作機械の扱い方やいろんな技術を教えても、従業員の多くは一人前の職人になると独立する。うちの会社はまるで職業訓練校だと」

そんな清水の思いが、誰でも試作品を効率よく作れる装置の開発へと向かわせた。

それは真空注型機という自動機だった。金属でも木型でも、作りたい現物の形(マスター)を一つ作り、それを機械にセットしシリコンを注入する。固まったシリコンからマスターを取りだしシリコンの型を成形。この型に樹脂を流し込み、硬化をさせて型から取り出すとほぼ完成だ。シリコンは劣化が早い。シリコンの型での製品作りは20数回が限度。あくまでも小ロットの製作のための装置である。

製作の工程はすべて自動だが、装置の中は宇宙空間のように、真空状態にすることが絶対の条件だ。

なぜかというと、液体シリコンで型を作る場合、 押さえつけたり圧力をかけたりができない。真空状態なら空気抵抗がないから液体の重さだけでシリコンは流れ、マスターを覆うことができる。真空状態で成形すると、シリコンの型に樹脂を流し込んだ時、樹脂に気泡が残らない。製品も肉厚のあるものに仕上がる。

装置の中を高真空の状態にする。そのために装置内の密封度をいかに高めるか。それが開発の肝だった。清水は言う。

「真空を高めると、外からの圧力で機械がペチャっとつぶれる。外圧の抵抗を少なくするため、丸い形状の機械も試作しましたが、工場に設置した時に丸形は使い勝手が悪い。冷蔵庫のように四角形でないと、ニーズは限られてしまうから」

好事魔多し

装置に搭載するモーターやコネクター、スイッチ等、問題点を一つずつ解決し、開発から8年ほど費やして1985年、世界最高レベルの真空注型機の第一号が完成した。

日経新聞の機械部門の賞に輝いた。イタリア、イギリス、フランス等からも機械の引き合いが相次いだ。最も買ってくれたのは自動車メーカーだ。新車を開発する際にこの装置でパーツの試作品を十数個作り、確認してから金型を発注すれば間違いがない。

サイクロン真空注型機と名付けたこの装置の販売価格は、およそ1千万円。ニーズはあった。会社の売上げは右肩上がりに急上昇、北区赤羽に自社ビルを購入、埼玉県内に300坪の工場も持った。

後年のカットグラスと見分けがつかない、耐熱性に優れ、落としても割れないハレハレグラスの誕生は、この開発した真空注型機が要になっている。

――会社は右肩上がりで絶好調だった。

「でも、そううまくはいきませんでした」

――好事魔多しですか。

「…………」

事業を拡げれば、銀行からの借入金も増える。債務の履行は銀行との約束通り順調だったのだが――。

”貸し剥がし“牙をむいた銀行

「降って湧いたのがリーマンショックでした」

清水にしたら銀行が突然、歯をむき出したように見えた。銀行との話し合いはこんな感じだった。

「貸した金を返してほしい」

「そんなに手持ち資金があるわけないじゃないか」

「御社には担保があるんだから、返せるじゃないですか」

「そんな…、工場や会社の資産を手放したら商売ができなくなる。うちも130人からの従業員がいるんだ」

「それはオタクの問題です」

銀行の“貸し剥がし”の現実を前に、清水はなす術を知らなかった。結局、工場や自宅や会社の資産を売却。取引先への支払いを済ませ、社員には退職金を払い、会社は自主廃業に追い込まれたのだ。

「当時、僕も60歳を過ぎていましたし、これで引退かなと頭をよぎりましたが、このまま終われない、もう一度やろうと」

会社再建に27人の社員が戻った。友人から4500万円を借り、真空注型機で小ロットを形成する工場を埼玉県川口市内に立ち上げる。世の中は多品種少量生産の時代を迎えていた。小ロットの高級品や量産前の試作のニーズは高まっていた。借入金は4年ほどで完済できたが、その少し前のことだ。ハレハレにつながる試作品の注文が舞い込む。

それは「シンデレラの“ガラスの靴”を作ってほしい」というオーダーだった。

”ガラスの靴“が、どうして割れない、半永久的に透明度を保つ、カットグラスの発明に繋がっていったのだろうか。明日公開の後編では意外な物語が展開する。

出典:https://www.hare-hare.com/product/detail/3

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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