■連載/あるあるビジネス処方箋
中途採用試験を経て入社すると、当初の一時期(半年~1年)は雑務的な仕事を任される機会が多いのではないか。例えば、上司からこんなことを指示された経験がないだろうか。
「うちの部署のAさんと会議の議事録を作ってくれない?」
「先日の部の懇親会で使った交通費の清算をしておいてほしい」
「営業用資料を明日の午後1時までにつくってもらえない?」
「パワーポイントを使って、この前の資料をつくり直してほしい」
「顧客データを整理しておいて」
20代後半で「即戦力」として評価され、入社した人は、こういう指示が増えると不満に思うかもしれない。「こんな扱いをされるなんておかしい。前職での5年の経験を評価され、内定をもらったのに…」。その思いもわからないでもない。当然だろう。だが、焦る必要はないと私は思う。今回は、中途採用試験で入った後、1年前後のうちに上司からふられる雑務的な仕事について私の考えを述べたい。
1. 雑務は基本的で、重要な仕事
私の観察では、上司が中途採用で入った人(特に20代後半)に依頼する仕事には、確かにある意味で雑務的でつまらないものがある。だが、その会社や部署、職場で働く以上、時間内で確実にできないといけないものが多い。即戦力ならば、なおさら早いうちにマスターするべきものばかりだろう。だからこそ、上司はふっているのだと私は思う。中にはその例外もあるかもしれないが、多くは基本的で、重要な仕事だ。仕事の「実力」とは成果や実績だけではない。その前段階の基本的で、重要な仕事が確実にできるのも「実力」なのだ。
2. 上司はその中途採用者を観察している
上司は通常は、ふった仕事の仕上がりや出来不出来を何らかの形でみているものだ。
自分が見る場合もあれば、同じ部署の社員から聞く時もある。仕事の仕上がりだけでなく、それに取り組む姿勢や言動もまた、知ろうとするだろう。こういう積み重ねで、「この人にはこんな仕事を任せてみよう」と考えるようになる。20代後半の中途採用者ならば、たとえ即戦力であろうとも、このようなステップを踏んで評価されていくことが多い。むしろ、これがまっとうな扱いなのではないか。
大きな仕事をいきなり与え、「即戦力だからできるだろう?」とつけ放すことこそ問題あり、と私は思う。私の観察では、中小企業やベンチャー企業(メガベンチャーを除く)はいきなり、大きな仕事を与えるケースが多い。しかも、それができないと、すぐに低い評価をつけたりする。中には、仕事を与えないようになり、辞めるように仕向ける場合すらある。こうなると、もはや、会社の体をなしているとは言えない。私が就職を勧めない会社だ。
3. 部署の一員として仕事をする姿勢を示す
ただし、いつまでも雑務的な仕事を続けるのも好ましくない。どこかのタイミングで上司と話し合い、今後どうすればいいのかと双方でコンセンサスを得たい。そのためにも、当面は雑務的な仕事をきちんとこなしたい。それではじめて上司と話し合う資格がある。
話し合う時には、「雑務的な仕事はつまらないから」と切り出すのはタブーだ。あくまで「この半年、こんな仕事をしてきて、このレベルでできるようになったので」と切り出そう。つまり、上司が仕切る部署の一員として仕事をする姿勢を示すのだ。この姿勢がないと、部下としての信用はなかなか得られない。そのうえで、自分の企画や考えを伝え、今後の仕事を話し合えるようになりたい。「実力」があるならば、ここまでできないといけない。
本連載「新卒や中途社員の採用で多くの人が陥りやすい罠」で紹介したように、中途入社者の定着や活躍をサポートするためには、次の考え方がある。
1 How to live(職場に適応する)
2 How to learn(知識・スキルを学ぶ)
3 How to work(仕事で成果を出す)
4 How to influence(組織や他者に影響を与える)
1から4に進んでいくことが大切なのだそうだ。雑務的な仕事は、職場に適応するためには不可欠なものが多い。他の社員もどこかのタイミングでマスターしてきたはずだ。そうでないならば、安定した仕事をすることができていないのではないか。焦る必要はない。まずは、雑務的な仕事を確実にできるようになりたい。
文/吉田典史