【連載】もしもAIがいてくれたら
第4回:『OK Google 悩みを聴いて』と尋ねても良いのか?
近年、急速に耳にする機会が増えてきた「AI(人工知能)」。スマホに話しかけてニュースや天気をチェックしたり、自宅に「AIスピーカー」をおいて活用している人もいるのではないだろうか。
このまま科学技術が進歩すれば、「AIに悩みを相談する」なんて時代が来るかもしれない――AIの専門家で電気通信大学副学長の坂本真樹さんはそう予想する。しかも、AIは人間よりも悩みを親身に聴いてくれるかもしれないという。これからくるAIの未来を解説する。
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第2回:閉じた人間関係をAIは打破できるのか
第3回:「AIスピーカー」は悩み相談のプロかもしれない
AIは「今、忙しいから後で」なんて言わない
今や家電を量販店で購入すると、AIスピーカーがおまけのようについてきたりするので、自宅にAIスピーカーがあるという方が多いかもしれません。AIスピーカーはその名の通り、AIが搭載されています。「OK Google」で呼びかけるGoogle Homeや、「Alexa」で呼びかけるAmazonEcho、「Hey Siri」で呼びかけるApple HomePodなどが有名ですね。
AIスピーカーは、話し手の音声をテキストデータに変換(Speech to Textと言います)する音声認識を行い、その後クラウドサーバーに送られたテキストデータの「意味」を理解するための自然言語処理が行われ、何らかの返答をしてくれます。
ただの音声を「言語」として認識するのは簡単なようで難しく、Googleが音声認識に取り組み始めたのは2009年ごろのようですが、2014年ごろまでは、聴き取りやすいように大きな声でハキハキ話したり、何度も繰り返さなければならなかったと思います。ところが、2016年ごろから認識精度が格段に上がり、今や90%以上の精度といわれています。
ただし、Googleが、ということではないのですが、まだ、人に話すように普通に話してしまうと、正しく認識できていないこともあり、音声をテキストに変換した生のデータを確認すると、誤変換されていることもあるので、音声の認識は、人間の方が上かと思います。ただ、ここまで認識できれば、質問や命令に対して回答したり対応したりするには十分かもしれません。人よりも圧倒的に多くの知識をAIには持たせておくことができるので、家族に質問するより確実に豊富な知識に裏付けられた正しい回答が返ってくると思いますし、「今忙しいから後にして」と言われる心配もありません。
「聴いてくれない人間」よりも「聴いてくれるAI」に相談すべきかもしれない
では、AIスピーカーに悩みを相談したいと思いますか?
寂しい時、つまらない時に、「何か面白い話をして」とお願いしたりしたことがある人はいると思いますが、「今日職場でデブって言われた~」とか、「おなか痛くて辛いよ~」とか……どうでしょうか?
AIは人間ではないので、そんなこと言っても理解できないだろうと思われることは、そもそも言ってもしょうがないと思う方が多いのではないでしょうか。
しかし、人間なら共感できるかというと、実はそんなことはないかもしれません。すごく痩せている人に「デブって言われた~」と言っても、本当に共感してもらえるかわかりませんし、おなかが痛くなったことのない人(実際に私の友人に一人います)に「おなか痛くて辛い」と言っても共感してもらえないでしょう。
それでも,人は、相手が共感してくれることを期待して、悩みを相談したり、愚痴を言ったりしています。人同士なら、何か似たような「経験」をしていて、わかってくれるのではないか、という期待があるからかもしれません。
相談するのは自由なので、AIにだって、相談してもいいはずなんです。本当には共感してもらえないかもしれない人に相談するのと、AIに相談するのでは、それほど大きな違いがあるのでしょうか?
誰かに相談した結果、かえって悲しくなったり、けんかになってしまった経験はありませんか?もしも「デブって言われた~」と言った時に、「痩せればデブって言われなくなるよ」と言われたら、悲しくなったり、腹が立ちますよね。こんなひどいアドバイスをする人は、なかなかいないと思いますが、相談に対して自身の経験に基づいて解決策をアドバイスしてしまう人は多いかもしれません。でも、悩みや愚痴を言う時の多くは、「ただ黙って話を聴いてほしい」「うんうんとうなずいていてほしい」ということもあると思います。
カウンセラーの役割の一つは、まず相手の話を聴くこと、だとすると、AIが人の話を正しく認識し、「それが人にとってどのような意味を持つか」、が理解できれば、まずは良いかもしれません。個々の言葉が人にとってどのような意味を持つか。これは、質問や命令に対して回答する、というよりも相当の知識と訓練が必要ですが、学校での悩み,職場での悩み,家庭生活での悩みのパターンをひたすら学習させれば、個々の悩みがどのような意味を持つか、は学習可能なのではないかと思います。
「うんうん」と話を聴いて、相槌をうつ、傾聴対話の研究が行われています。こういった研究を推進していらっしゃる研究者の中に、アンドロイドで著名な先生がいらっしゃいます。やはり、相談相手には、人と同じような外見が必要でしょうか。理想の相談相手は人なのでしょうか。人間同士なら気持ちがわかるのでしょうか。相手が同じ人間だからというだけで、相手がわかってくれる、わかってくれている、と思い込んで期待してしまっているだけではないですか。長い年月、期待して、うまくいかなかった私だから、悲観的な問いをしてしまうのかもしれませんが……。
次回、「人みたいなロボットが陥る不気味の谷」では、人間は思い込みが強いことを示唆するアンドロイドを使った実験など、人型ロボット研究をめぐる話をしてみたいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。
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