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【もしもAIがいてくれたら】AIスピーカーは悩み相談のプロになるかもしれない

2021.06.05

【連載】もしもAIがいてくれたら

第3回:「AIスピーカー」は悩み相談のプロかもしれない

近年、急速に耳にする機会が増えてきた「AI(人工知能)」。スマホに話しかけてニュースや天気をチェックしたり、自宅に「AIスピーカー」をおいて活用している人もいるのではないだろうか。

このまま科学技術が進歩すれば、「AIに悩みを相談する」なんて時代が来るかもしれない――AIの専門家で電気通信大学副学長の坂本真樹さんはそう予想する。しかも、AIは人間よりも悩みを親身に聞いてくれるかもしれないという。これからくるAIの未来を解説する。

【バックナンバーのリンクはこちら】 
第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第2回:閉じた人間関係をAIは打破できるのか

「カウンセリングは恥」と思ってしまう日本人

家族の問題、夫婦関係など高度にプライベートな関係の問題を、他人に話すことに抵抗を感じる方は多いのではないでしょうか。「うまく行っていないことを他人に知られるのは恥ずかしいから」、「話した相手から噂が広まると困る」、「他人からとやかく言われたくない」、といった理由が考えられます。

しかし、当人同士で解決できないなら、第3者に相談してもよいのではないでしょうか。利害関係のない第3者の方が中立の意見を言ってくれる可能性があります。特に、夫(あるいは妻)からパワハラを受けている場合は、直接言いたいことを言えない、ということがありえるので、第3者が入ることは必要だと思います。しかし、日本人は、他人が入ることを嫌います。

アメリカの女性人類学者ルース・ベネディクト氏は、著書「菊と刀 日本文化の型」で、日本は「恥を基調とする恥の文化」であるとしています(ちなみに欧米人は、信仰に基づく罪の文化とされています)。日本人は、周りに人がいると絶対にゴミを捨てないが、誰もいないと平気でゴミを捨てる。欧米人はこういったことはしない、という話があります。これについては、留学先のアメリカの大学のカフェテリアで、バナナやリンゴを遠くにいる友人同士投げ合っているのを見ていたので、必ずしも賛同できませんが。日本人は「他人から見てどう思われるか」という「他人の目」を気にする、ということについては、経験的にも納得です。

この日本と欧米の違いと、欧米では普及しているカウンセリングが日本で普及しないこととは、関係があると思います。

欧米では、夫婦関係に問題が生じた場合、夫婦でカウンセリングを受けに行く、ということが普通にあります。カウンセリングが始まったのはアメリカで、20世紀の初めごろと言われています。第二次世界大戦終戦後、退役軍人の精神的ストレスの緩和や社会復帰の支援で心理カウンセラーが活躍し、社会的に認知度が高まり、研究も盛んになり、様々な療法が開発されました。欧米では、心理カウンセラーが専門家として地位を確立し、体調が悪くなったら病院に行くのと同じような感覚で、夫婦関係が悪くなったらカウンセリングに行く、というような感じです。

日本では違います。医師は病気に対する高い知識を持ち、手術などの高度な技術で治療する専門家として、一般人にはできないことをする特別な存在として見られていますが、心理カウンセラーは、「一般人でもできる対話」を通した治療のせいか、専門性への認知度が低いように思います。

実際には、対話を通した治療は高い専門性が要求されます。心理カウンセラーと話すことは、一般の他人に話すのとは全く異なり、カウンセラーがどう思うかを心配する必要はありません。しかし、我が家の「恥」を赤の他人にわざわざ話す意味がどこにあるのかがわかりにくいかもしれません。カウンセリングに行って、何をしてもらった結果うまくいった、といった話を聞くこともなかなかありません。カウンセリングに行ったこと自体を他人に言うことを「恥」と思うからでしょう。

AIにしかできない「24時間相談」と人にしかできない「暗黙知」

AIカウンセラーだったらどうでしょうか。

2016年の時点で、すでに、人間と会話ができるコンピューターが登場し、アメリカの研究者が人工知能を使ったティーチングアシスタントにオンラインで学生に対応させたところ、誰一人としてTAがコンピューターだと気づかなかったというケースが報告されています。

ジョージア工科大学のアショク・ゴール教授らの研究チームは、事前に約4万件分の学生からのメールやチャットをAIに読み込ませ、質問や相談に対する応答パターンを学習させました。そして、AIが「97%以上の精度で正しく答えられる」と判断した質問にのみ応答することとし、オンライン学習をする300人以上の学生に対し、9人のTAのうちの一人?として、そのAIを導入しました。

こういったAIを心理カウンセリングに使えば、人ではなくAIなので、「AIがどう思うか」を気にする必要はありません。AIに、相談者と人間のカウンセラーとの対話を大量に学習させれば、相談者の発話内容のパターンから、応答候補を回答するといったことを繰り返すカウンセリングは可能です。過去に実際にあった事例と全く同じ表現で話さなくても、類似のパターン、同様のことを言っている会話パターンに基づいて応答することはできます。

専門性の高い心理カウンセラーは、いわゆる「暗黙知」を持っています。暗黙知とは、言葉で人に説明はできないが、多くの経験があるからこそ無意識かつ理解して使っている知識、と言えます。話している内容からは読み取れないような、相談者の微妙な表情,声色など、五感をフル活用して空気感を読み取りながらカウンセリングを行うといった場合も、暗黙知がものを言います。こういった知識をAIに持たせることは難しく、高度な暗黙知を持つ、専門性の高い心理カウンセラーの「職人技」を獲得することは難しいでしょう。

しかし、人に話すことに抵抗があって、カウンセリングに行くこともないまま、弁護士や、家庭裁判所の調停員といった、法律による仲裁に突き進むことになるのも残念です。人間のカウンセラーには及ばなくても、AIカウンセラーと話してみようか、と問題を抱えた夫婦などが選択肢として考えられるようになればいいな、と思います。

厚生労働省でも、自殺防止などへの取り組みとして、いじめなど、なんでも悩みを相談するSNSサービスを紹介したりしています。確かに、対面では相談に行けない人も、相手の顔が見えなければ相談しやすいかもしれません。

しかし、チャットボットを使ったことのある人はご存知かと思いますが、今のAIは、まだ、対話能力が十分とは言えません。人間の方が、まともな応答ができるということは間違いありませんが、月・火・木・金・日の17時から22時まで、というように、相談できる日時が決まってしまいます。家庭内でトラブルが生じたり、助けてほしいと感じるのは、予測不能なタイミングで起きます。

AIなら、いつでもどこでも、24時間年中無休で対応できます。いつでも人に寄り添うことができる存在になりえるかもしれません。

次回、「『OK、Google。悩みを聞いて』と尋ねることの価値」です。

(参考 Imagine Discovering That Your Teaching Assistant Really Is a Robot – WSJ

坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。

※配信日は変更になる可能性があります。

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