■連載/あるあるビジネス処方箋
4月に入り、中堅、大企業の大卒、大学院修士の新卒採用活動が本格化しつつある。今回は、ある業界の入社の難易度ランキングをテーマに私の考えを紹介してみたい。この場合のランキングとは新卒採用時のエントリー者数やそこに占める内定者数、つまり、倍率を基準にした順位と捉える。ある業界がどこを指すのかは、このコラムの最後で紹介したい。
入社の難易度ランキングは、少なくとも3つにわけられる。
A級:上位2~3社
B級:上位4位~25位
C級:それ以外
A級は、いずれも戦前からの名門企業。創業からの歴史は、70~80年以上になる。特に1960年~90年代後半までに業績が拡大した。1990年当時で新卒時のエントリー者数は推定でプレエントリーが年平均7~12万人。本エントリーは7000人~1万3000人。入社数は、30~40人。
入社する学生の最終学歴は、国立、私立でそれぞれ偏差値ランキングが上位5番以内が内定者の8割以上を占める。理系は少なく、文系が9割を超える。男性が内定者30~40人の7~8割。
B級が、問題なのだ。ここの企業のうちの半数(10~12社程)は、バブル期(1986~1991年)には、A級の2~3社に業績(売上、経常利益)が接近するほどに成長した。だが、特に90年代後半の不況以降、業績ダウンする企業が続出。2000年以降、10社程が現在に至るまでに銀行から役員を送り込まれ、大幅な経営改革をした。家賃を払うことができずに、家賃がより安いオフィスを移転した企業も10社近い。リストラをした企業も5~7社ある。
結果として、卒採用者数は1年でわずか5人程になったり、試験を2年に1度にしたり、採用を中止した企業も数社ある。A級の企業2~3社に今や完全に突き放されてしまったのだ。
B級のほとんどの企業が、1990年前後は新卒時のエントリー者数は推定でプレエントリーが年平均で数千人。本エントリーは500~1000人で、入社数は10~20人。90年代後半以降、業績が悪化する。少子化の影響もあり、エントリー者数は減り、今やプレエントリーが年平均で500~1000人。本エントリーは300~700人。入社数は、10人程。倍率は、大幅に下がった。入社の難易度が大きく下がり、A級と比べると見劣りする社員が増えた。おそらく、A級の企業との間に人材の質において5~6ランクは差がついているのではないか。
例えば、B級のある企業に2000年前後に入社した男性は現在、40代前半で課長職。同期は7人いたが、この男性以外、全員が2015年までに退職。つまり、倍率1倍以下の課長職だ。同世代(1998~2003年入社)の社員の9割は退職。残っている社員全員が課長になっているという。「誰でも管理職になり、ゆるい倍率で役員になることができる職場」では優秀な人材は生まれえない。実際、私はこの男性たちと仕事をしたが、A級の企業の同世代の人材よりも質は5~6ランクは低い。
優秀な人材にしようと育成するならば、A級の企業のように、高いレベルの人材を毎年コンスタントに採用し、定着率を高めないといけない。そこに密度の濃い競争の空間が出来上がる。すると、ある程度のレベルまでは育っていく。
「採用→定着→育成の流れ」をいかに整えるか。ここが、最大のポイントとなる。A級の企業はこの流れがある程度整備されているが、B級にはほぼまったくない。辞めていく社員は実に多い。B級のある企業は社員数200人程のうち、170人程が中途採用。社員たちによると、話し合いで合意するのに時間がかかり、ムリ、ムダ、ムラが多いという。中途採用が多数を占める場合、定着率を高める仕組みを丁寧に作らないと、このような結末になる。
この企業は、2005年前後にリストラを行った。現在に至るまで、銀行から役員を数人送り込まれ、経営再建中と言われる。A級の企業の人材よりも質はやはり、5~6ランクは低い。
C級の9割程は、はるか前から新卒採用を毎年行うことはできていない。従って、プレエントリー者数は100人以下が多い。本エントリー30~50人程から数人を採用するようだ。この倍率では、優秀な人材を獲得するのは難しい。30歳になるまでにほとんどが退職する。
今後、新卒採用を考える人はぜひ、この業界でここ30年に起きたことを記憶にとどめてほしい。同じようなことが、読者諸氏の業界でも進んでいるはずだ。
あなたがエリート学生ならば、迷わず、A級の企業に進もう。キャリア形成において大きな損をすることは、まずありえないはずだ。C級はお勧めできない。30歳前に辞めるのが見える。このレベルの企業では、転職市場において高い評価はなかなか受けない。B級の半数以上も、今やC級に近い。要注意だ。転職はB級からC級へ、C級からB級へはあるが、B、C級からA級に移る人は極めてごく少数だ。ちなみにこの業界は、出版界である。
文/吉田典史