劇的に膨らむ声優人口。だが、現在活躍するアニメ声優は300人前後にすぎない。狭き門を潜り抜け、スター街道を走るために必要な素質とは? アニメ制作現場の司令塔に話を聞いた。
活躍の場が増えても声優の基本は変わらない
昭和から平成にかけて、何度か起こった声優ブーム。令和の今が第何次のブームなのかは定かではないが、声優人気がこれまでにない盛り上がりを見せていることは間違いないだろう。本来は文字どおり、声だけの存在だったはずの声優は、今やテレビ番組への出演が珍しくなくなり、イベントやライブでは大勢のファンを熱狂させる。声優の主戦場であるアニメ制作の現場目線ではどうだろうか。アニメ制作に長年携わる轟豊太さんは厳しい見解を示す。
「最近は声優さんの活躍の場が広がりすぎているし、スマホゲームを中心にキャリアを積んでいる若手声優さんも増えています。でも、スマホゲームはセリフをひとりで読み上げることがほとんど。セリフの掛け合いがメインのアニメに対応できる人は本当に少ない」
声優がプロモーション活動を行なうことの多いスマホゲームや深夜アニメの場合、キャリアの浅い新人であっても、ルックス重視でキャスティングされるケースは珍しくない。しかし、現場におけるキャスティングの基本は、キャラクターの声質に合うかどうか。それは今も昔も変わらない。プロデューサーの業務は作品を制作するための予算確保、スケジュール管理、各所調整など多岐にわたる。
そのうえで大事なのは、監督ら制作スタッフの意見を尊重する現場ファーストの姿勢。声優を見る目は必然的に厳しくなる。
〝売れる〟声優になるために必要不可欠な要素とは?
では、轟さんが考える、声優が売れるための条件とは?
「一番必要な要素は、運ですよ。つまり、いいキャラクターを引き当てられるかどうか。いい役に当たれば、声優さんに注目が集まるようになる。ですが、アニメファンは声優さんとキャラクターを重ねて見る傾向が強い。実際のところ、本人の名前だけで売れた人って、ほとんどいないですよ」
しかし、当たり役を獲得することが難しい時代になってきた。
「10年前であればテレビアニメで1本主役を務めるだけで、芋づる式に役が決まることが多かった。ですが、今は作品数が多すぎる。主役をやったことを気づかれないケースもあるでしょうね」
コロナ禍は若手の躍進を妨げる一因になっている
「アフレコの現状を申し上げますと、昔は全員揃ってブースに入っていたのが、今は一度に3人までに制限しています。そうなると、若手がベテランの演技を学ぶ機会が極端に減る。今の若手の声優さんにとって、それは大きなダメージになっていると思いますね」
これから紹介する声優は、自身がプロデューサーとして実際に仕事をする中で「チャンスを掴みとれる逸材」と感じた5人。
「当たり役を引き当てるかどうかは運次第。でも、それをモノにするためには、声優としての高い表現力が不可欠です。うまい声優さんというのは、台本をきちんと読み込んで、ちゃんとした正解を導くことができる。一度伝えたことに対して、大体そのとおりの解答を返してくれるものです。実力が伴わない人は、『はい』という一言でも10テーク、20テークと重ねてしまう。完成されたアニメを見ているだけではわからない、本当の実力を知ることができるのが現場ですから。そういう意味では、現役のアニメ声優さんは全員がトップランカー。そうなれなければ生き残れない世界なんですよ」
完成されたアニメからでは本当の実力は伝わりません
ドリームシフト取締役 轟 豊太さん
バンダイナムコアーツなどを経て現社設立。約20年間にわたりアニメーション宣伝、制作プロデューサーに従事している。アニメ業界にスポットを当てたアニメ『SHIROBAKO』葛城剛太郎役のモデルとしても知られる。
■ 近年のプロデュース作品
『幼女社長』
『弱キャラ友崎くん』