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【私が起業した理由】知識や経験値が少ない分、四六時中仕事のことを考えています「旅するコンフィチュール」店主兼シェフ・違 克美さん

2021.02.22

■連載/あるあるビジネス処方箋

第1回はこちら
第2回はこちら

前々回、前回、今回と3回にわけて、コンフィチュール専門店「旅するコンフィチュール」のオーナー兼店主であり、シェフの違 克美(ちがい・かつみ)さんを取材した内容を紹介する。その生き方は、女性が働きながら生きていくうえで大きな勇気を与えるものだ。

違さんは2003年、ル・コルドンブルー横浜校(1895年パリで設立された料理教育機関)にて製菓ディプロムを取得した。これに前後して夫の赴任先のアメリカで5年半、その後、夫の次の赴任先であるパリ、ベルギー滞在時に食に関する知識と経験を深める。現地で素材を調達し、コンフィチュールをつくる試みなどを重ねる。コンフィチュールとはフランス語で、ジャムのこと。パンにぬったり、ヨーグルトに混ぜたりして味わえる。

ギフトにも喜ばれるパッケージも人気の秘密。

パティスリー(ケーキや洋菓子を専門に扱う店)やショコラショップ( チョコレート専門店)、リフォーム会社での勤務を経て、2010年にカフェの立ち上げに関わる。メニュー企画、店舗運営マネジメント、スタッフ育成、現場での調理、接客と店の運営を経験する。2013年、横浜市関内の築50年のマンションの一室を改築し、季節のジャムと焼き菓子を製造販売する「旅するコンフィチュール」をひとりでオープンした。

撮影:細見恵里

私は両立ができないんだって、まざまざとわかった

違さんは最近、大学生である一人娘が20歳になったことで、子育てが一段落したと感じるという。2010年に、娘が小学生だった時にシングルマザーとなった。その後は、ひとりで養うために仕事に力を注ぎ込んだ。

「今、振り返ると、仕事と家庭の両立は全くできませんでした。仕事ばかりでしたね。せめて、娘の食事はなんとかしたい、といつも思い続けていました。中学校や高校に通う頃は給食がなくて、お弁当でした。朝ごはん、そしてお昼のお弁当は私なりにきちんと作っていました。晩ご飯もきちっと力を作っていたつもりです。

小学校の時に、離婚したことで辛い思いをさせてしまった。中学校の時に、「旅するコンフィチュール」の経営を始めたのです。我慢を強いることをさせてしまった。私としては、娘がいるから頑張ることができると思っていたのですが、ある時期は喧嘩をよくしました。そんな頃には、職場のスタッフの皆さんからよく支えられました」

スタッフの支援もあり、違さんは数年前、仕事を大幅に減らした。家にいる時間を増やし、娘のそばにいるようにした。だが、新たな問題が生じる。今度は思い描いたように仕事ができなくなってしまったのだという。経営者として店の経営や信用を守り、スタッフへの賃金や取引先への支払いをする責任がある。シングルマザー、店主、オーナー、シェフとひとりで何役も務める。

長野県八千穂高原の「りんごやSUDAのプルーンを使ったコンフィチュール「PRUNE & APPLE(プルーンとりんご)」

「私は、両立ができないんです。仕事をしている時には、常に仕事のことをずっと考えています。寝る直前まで、寝ている間も考えているのかもしれない。朝から晩まで…。家庭中心の日々になると、仕事のことが考えらない。打ち合わせをしている時に、アイデアが浮かんでこない。

その時に、これほどに家庭のことしか考えられないということは、娘をどれほどにないがしろにしてきたのか…。私は両立ができないんだって、まざまざとわかったのです」

娘の話になると、母親らしい雰囲気となり、話し続ける。最近、2人で話し合うことが楽しいようだ。

「娘が私の知人が経営する店でアルバイトをして、職場でのことについて愚痴をこぼすようになったのです。いろんなことを経験するようになったんだな、と思います。今も時々、喧嘩になります。娘は、愚痴を聞いてほしい。私はその不満の解決策を話してしまう。話を聞いて共感してほしいのに、解決策を言ってしまうのだから、怒るのも無理はないですね。喧嘩ではあっても、今は後をひきずることはしません。娘とはものすごく仲がいいんですよ。仲良し…(笑)」

仕事を通じて知り合う人たちが一番おもしろい

2013年に開店し、早いうちからファンが現れ、口コミで伝わった。開店当初、多くの店は知名度がないこともあり、経営に苦しむ。違さんは控えめに、クールに、淡々と振り返る。

「自分がこういうことするとは、当初思ってもいませんでした。続けないと、生活ができない(笑)。この仕事を続けていくと、飽きないんですね。おもしろかったんです。生活するためにも「辞める」という選択肢はないのですが、自分で事業をしてきた経験から、もし今の事業を辞めても、何をしても生きていける気持ちが育ってきました。以前は、これしかできないという思いだったのですが。今は、いつ辞めても大丈夫とも思っています。

スタッフの皆さんに随分とサポートしていただいているから、なんとかがんばることができています。今、私の周りにいる人たちは仕事を通じて知り合った人たちがほとんどです。2010年の離婚以降に知り合った人ばかり。

果物よりも果物らしい、を大切に作っている。

ともに仕事をしていく中で互いに信頼関係を高め合い、困ったら助けてくれる。こちらも可能なことはしたい。こういうつながりすべてが、仕事を通じて培ってきたもの。それらを含めて全部が好き。仕事もおもしろいのですけど、仕事を通じて知り合う人たちが一番おもしろい」

昨年11月に、工房とは別の部屋を借りて販売専門の店とした。これまではホームページやフェイスブック、ツイッターを通じてのPRが中心だった。今後はオンラインショップに加え、お店での販売にも力を注ぐ考えだ。違さんは、地域の住民が気軽に立ち寄れるようにしたいという。

「こういう店があったらいいかな、とよく考えるんです。2013年開店からしばらくは、お客さんからするといろんな意味でもハードル(敷居)が高かったと思うんですね。築50年程の古いマンションの一室を改装してのお店ですから、隠れ家的で、神秘的な印象を与えていたのかもしれませんね」

ギフト向けのコンフィチュールセットも。

知識や経験値は少ないので、四六時中、考えている

違さんは話をすると、経営者的な視点や発想が随所に出てくる。

「マンションの一室を改装してのお店の頃は根強いファンの方やお客さんがいらしたのですが、その数は必ずしも多くはなかったのです。母数の広がりがあまりなかったのかもしれません。昨年11月に、新たにお店を構えると、気軽に立ち寄ってくださる人が増えて、客層が変わってきました。ああ、お店っぽくなってきたなと感じます。

昨年からのコロナウィルスの感染拡大で、販売ルートを一つに絞るのは危険だとわかったんです。例えば、工房での販売だけだったら、売上は大きく落ち込んだのかもしれません。2013年の開店当初から、オンラインショップや市内でのイベント出展など様々な販売ルートをつくってきました。

絶えず、仕事のことを考えています。経営に関する知識や経験値が少ないので、四六時中、考えているのです。寝る時も夢の中に出てくるような感じですね。スーパーに入って買い物をする時、消費者の眼差しでジャムを見ているんです」

違さんは、会社員や事業の経験が豊富ではない。それでも離婚後、シングルマザーとして働きながら、娘を育て上げた。ひとりでお店をオープンし、店主、オーナー、シェフとして経営を担ってきた。いつの時代も、多くの人はこのような生き方をすることに憧れながらも、様々な制約や制限があり、あきらめていく。

ダルメイン世界マーマレードアワード日本大会2019
ベストカテゴリー賞(最高金賞)受賞の「金柑とジャスミンティー」、
金賞受賞の「国産グレープフルーツのマーマレード」の2本のセッ

だが、その「制約や制限」は本当に存在するものだろうか…。実は、違さんのような勇気と努力を放棄するための言い訳として、例えば、「家族があるから、独立なんてできない」と言っているのかもしれない。違さんにも様々な壁や大きなリスク、難しい課題が多数あったのだろうが、次々と乗り越えようとしてきた。それを支える人もいた。

今、兼業や副業、独立が新聞やテレビなど話題になる。それを称える報道や有識者が増えている。そのような報道は、違さんのような生き方の光の面だけを捉えているように思えてならない。リスクを冒してでも、自分らしく生きようとする意志や力、そのことで失うかもしれないもの、そしてそれを取り戻そうとする心…。こういうところまで、私としては3回のシリーズで伝えたかった。そうでないと、兼業や副業、独立のイメージが湧いてこないはずだ。

3回の記事を書き終えて、あらためて厳しい道なのだとは思う。離婚、シングルマザー、店主、オーナー、シェフ…。違さんのような生き方は多くの人にとっては難しいかもしれないが、尊い。読者諸氏にぜひ、伝えたかった。

3回にわけて、違克美さんの生き方を紹介した。1回目の取材は2020年8月、2回目は2020年12月だった。いずれも、オンライン取材による。

「旅するコンフィチュール」オーナー兼店主、シェフの違 克美さんにインタビュー1回目
「旅するコンフィチュール」オーナー兼店主、シェフの違 克美さんにインタビュー2回目

「旅するコンフィチュール」の店内

「旅するコンフィチュール」
■住所:神奈川県横浜市中区相生町2-52 泰生ポーチ203
■OPEN:火・水・金・土 12:00~18:00 木 12:00〜19:00
■定休日 日・月・祝

WEBSHOP
http://www.tabisuru-conf.jp/

旅するコンフィチュール | Facebook

違克美|旅するコンフィチュールさん (@TabisuruConf) / Twitter

画像提供/旅するコンフィチュール

文/吉田典史

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