企業側のメリット
次に、ジョブ型雇用の導入による企業側のメリットを紹介します。主なメリットは、プロフェッショナルを採用しやすくなることや評価システムを改善できることです。
専門人材の採用が可能に
専門性が高い分野の業務を抱える企業にとって、きちんと仕事をこなせる優秀な人材の確保は重要なテーマです。ジョブ型雇用を導入することで、専門性の高い分野に精通したプロフェッショナルな人材を採用しやすくなります。
職務内容や報酬をより明確にし、求める人材に対する自社でのキャリアイメージをしっかりと提示できれば、規模やイメージで他社に劣る企業でも優秀な人材を獲得できるでしょう。
メンバーシップ型雇用のような年功序列型の報酬システムではなく、スキルをダイレクトに反映できる評価制度を整えることが大事です。
成果での評価がしやすくなる
評価基準があいまいになりがちなメンバーシップ型雇用では、報酬額の根拠に関し従業員からの理解を得にくいこともあるでしょう。
ジョブ型雇用ではスキルを活用して生み出される成果物を最重要視した評価が行えるため、報酬額の根拠を従業員へ明確に示せます。
成果での評価を重視したシステムを構築すれば、テレワークで勤怠管理ツールなどの導入を検討する必要もありません。
与えられた仕事に対する結果のみを評価すればよいので、人事や総務などの従業員管理にかかる負担も大幅に減らせるでしょう。
企業側のデメリット
導入する企業が増えているジョブ型雇用ですが、いくつかのデメリットもあります。リスクをきちんと理解した上で、導入を検討することが大事です。
配置換えなどの異動が難しい
ジョブ型雇用で採用した人材は業務内容や勤務地などが限定されているため、会社の都合で仕事を変更したり転勤・異動を命じたりはできません。
さまざまな業務に従事させてゼネラリストを育成するメンバーシップ型雇用と異なり、配置換えなどが困難なことがデメリットです。
急な欠員が発生した場合は、ジョブ型雇用で働く従業員以外の人に対応させるか、残った従業員のみで対応してもらうかを選択せざるを得ないでしょう。
専門分野以外の業務には従事させられないことをしっかりと理解し、万が一のケースでも柔軟に対応できるプランを練っておくことが重要です。
ヘッドハンティングが激化する
従業員のスキルが高ければ、他社からヘッドハンティングされる可能性が高まります。従業員自身も会社への帰属意識が薄いため、完全に予防することは困難でしょう。
ヘッドハンティングされる可能性をできるだけ低くしたい場合は、報酬の見直しや労働環境の改善など、従業員の満足度をより高める施策が有効となります。
ただし、優秀な人材の引き止めに注力するあまり、社内における報酬や労働環境のバランスが崩れてしまっては、ほかの従業員の定着率を下げることにもなりかねない点に注意が必要です。
ジョブ型雇用を導入した事例
日本の大手企業で、ジョブ型雇用が導入されたケースを2例紹介します。どちらもグローバル化への対応を意識していることがポイントです。
株式会社日立製作所
大手総合電機メーカーの株式会社日立製作所では、2021年3月までに全ての職種における職務記述書を作成し、同年春には全従業員をジョブ型雇用で採用することを発表しています。
各従業員の能力や意欲をより的確に見極め、適切な人材配置によりそれぞれのパフォーマンスを最大化することが狙いです。
日立製作所がジョブ型雇用の導入を決めた背景には、グローバル化の本格的な進展があります。
世界中に拠点やグループ会社がある現状を考慮し、グローバルで統一された人事ルールの必要性を議論した結果、『ジョブ型人財マネジメント』という雇用方式への移行が決定されたのです。
富士通株式会社
総合エレクトロニクスメーカー大手の富士通株式会社は、2020年4月から課長職以上の幹部社員約1万5000人を対象にジョブ型雇用制度を導入しています。
『FUJITSU Level』と呼ばれる、グローバルに統一された独自の評価基準を基に、月額報酬を算出することが特徴です。
今後は、一般社員にも運用を拡大する予定で、AIなど高度な専門技術を有する人材獲得のための制度も導入を予定しています。