コロナ禍の中でも、売上げ好調のアートネイチャー。カツラは男性用と思いがちだが、ウィッグと言えばこれは女性をイメージする。今回は就職4年目の女性社員を紹介する。
株式会社アートネイチャー外販商品営業部 流通営業グループ 島田莉々花さん(26・入社4年目)。外販商品営業部はシャンプー、コンディショナー、育毛剤、パウダー等の商品を主にEコマースやテレビショッピング等の通販で販売する。島田さんは現在、“テレビショッピングの女王”、矢島和子次長のアシスタント役を担当している。彼女の最初の配属は広報部だった。
新人が実社会で経験すること
「うちの会社は女性用のヘアケア商品や女性用のウィッグも扱っています。女性に喜ばれる商品に携われるかなと」
漠然とした思いを抱いて入社した彼女、研修を経て最初の配属先は広報部だった。社内報の制作を担当し、全国の販売店を訪ねて店長に話を聞き、記事として紹介する仕事に携わった。
店舗は営業の最前線で忙しい。ときには「時間どれくらいかかるんですか?」「適当に書いてくださいよ」みたいな対応に、忙しいのに申し訳ないと思いつつ店舗回りをしたが、心に残る店長もいた。
「雪が降った日に、東京近郊のモール内のお店に伺ったんですが、『雪が降る中、よく来てくれました』と声をかけていただいて」
自分の思いをしっかり形にしてくださいという店長の言葉に、思わずホロッとした。
社会にはいろんな人がいる、多くの新人が実社会で経験することを彼女も踏襲した。
携わる仕事の社会的な意義
会社はCSR活動の一環として、乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の受診を推進する、ピンクリボン運動に参加している。広報部員として、その運動のイベントを担当した時のことだ。イベント当日は会社が提供する医療用のウィッグを展示した。ウィッグの中のネットの素材、柔らかさ、通気性等、「肌に優しくて、敏感な人でも無理なく使える素材で出来てます」と、島田は来訪客に説明をした。
イベント会場で乳がんを患い、抗がん剤の影響で髪が抜け、実際に自社の医療用ウィッグを使っている人とも話をする機会を得た。
「髪が抜けた時は、このまま生きていても……と考えるほど落ち込んだ。ウィッグをつけ、同じ髪型にセットし、鏡の中の姿を目にした時、病気をする前の自分を取り戻せた」島田はそんな患者の声を直接、聞くことができた。
「私は髪の毛の量が多いほうで、髪がなくなるなんて、想像したこともなかったのですけど……」携わっている仕事が社会的にも意義があると、改めて確認する体験であった。
失敗もある。雑誌のプレゼント企画でまつ毛美容液を取り上げた時は、広報部員として取材を受けた。
「これは1日のうちで、いつ付けたらいいんですか?」「この成分にはどういう効果があるんですか?」「結果はどうなるんですか?」記事を担当するライターの矢継ぎ早の質問に、「それはあのう……まつ毛をコーティングするみたいな……」答えられた言葉はその程度で、相手が納得する説明ができなかった。
事前に商品の説明は聞いたが、きちんとした理解に欠いていた。ライターのちょっと戸惑った表情が目に浮かぶ。恥ずかしさと同時に広報たるもの、言葉に詰まることなく商品説明ができるよう、知識を深めなければいけないと肝に銘じる出来事だった。
「正直、私で大丈夫かな…」
広報部から現在の外販商品営業部への異動は、昨年2月。前任者が産休に入ることになったテレビショッピングの担当に抜擢された。テレビショッピングに出演する矢島和子営業企画部次長と言えば、その仕事師ぶりが社内外に聞こえている。
矢島は白髪染めの「ラボモヘアカラートリートメント」シリーズの開発に携わり、主に番組を通して売上げ累計163万本の大ヒットを記録、現在も売り上げ更新中なのだ。
矢島の仕事に対する熱心さは定評があって、前任者とは夜、遅い時間まで打ち合わせに費やすこともしばしばだった。見かねた課長が会議中の部屋に入って、「あれ、もう7時を過ぎてるよ」と、壁の時計を見上げ声を出して、残業を減らそうとした逸話もあるほどだ。
<参考記事>
【リーダーはつらいよ】「課長たるもの、マニュアル作りが大事なんだと気づいた」アートネイチャー・吉田和樹さん
「正直、私で大丈夫かなと思いました」担当になった当初を振り返る。
「私は仕事が終わってからどう過ごすかとか、休日を充実して過ごすために働くというタイプですから」自分の性格をそう語る。
「うちの会社は彼女のような保守的で慎重な人が多い。“やってやるぞ!!”みたいな矢島タイプの社員は少ないんですよ」それは同席した広報の言葉だ。
「どれだけ知っている?」「ほかには?」
矢島次長に新任の挨拶を済ませた後、最初の会話はこんな感じだった。
「商品のこと、どれだけ知っている?」テレビショッピングの売れ筋商品は白髪染めのカラートリートメントと、白髪も隠れる増毛パウダーだ。
「カラートリートメントは毛染めが、完成するまでの待ち時間3分で、髪に優しいのが特徴です」
「ほかには?」
「い、色は3色あって」
「ほかは?」
「え~と…」
「これから外販商品営業部でやっていくためには、もっと深いところの知識が必要です。商品開発にも携わりますから、一緒に頑張っていきましょうね」
そんな言葉をかけられた。
広報部では商品知識が足りなくて失敗した苦い思いがある。
――頑張らなくちゃ。
島田莉々花は気持ちを新たにしたのだった。
果たして“鬼の仕事師”、矢島和子次長と彼女はうまくやっていけるのだろうか。後半はテレビショッピングの仕事を通して、大先輩の矢島和子次長とのエピソードが満載だ。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama