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アイリスオーヤマ代表取締役社長・大山晃弘氏に聞く〝なるほど〟を生み出すものづくり

2021.03.07

公正な360度評価で若い人材を育てる

リサーチやペルソナ分析は信用しない

──独自の工夫を取り入れ「なるほど家電」と名付けられた家電製品は、今や量販店に専用コーナーが設けられるほどに成長しています。その商品開発はどのように行なわれているのでしょうか?

「『なるほど家電』はすべて、我々社員の体験から生まれています。それは、自分が本当に欲しいと思えるものじゃないと、お客様に買っていただけないから。とにかく家電を使い倒して、ここが使いにくいとか、こんな機能が欲しいとか、こういう改善点があるんじゃないかといったことを、社員自らの体験から導き出すことを徹底しています。そのうえでそれをどう商品に反映していくか、どんな〝なるほど〟がつけられるかを、会議でとことん議論します。

 外部機関を使ってリサーチをしたり、ペルソナ分析をすることは、ほとんどしていません。アンケートに身構えるとどうしても建前論的なものになるので、市場調査の情報には偏りが生じやすいと思っているからです。一方で社員が自分で使ってみると、重いとかうるさいとか、ちょっと取り回しが大変だとか、あるいはこの機能は本当に必要なのかといった、正直な話がたくさん出てくる。それこそ、まさに“商品の種”なのです。

 日本の家電はよくガラパゴスと言われますが、その最たるものが“過剰な機能”です。多機能で高級な製品は確かに満足度が高いかもしれませんが、それを買える人は限られています。そうではないニーズを持ったお客様が、機能をそぎ落とした我々の商品に流れてきている。大きな潮流が生まれていることを実感しています」

リストラは絶対にしない。だから守りながら攻める

──今回のマスクも、東日本大震災を契機にした家電分野への進出もそうですが、大変な時ほど攻めに転じられているように見えます。そのチャレンジスピリットの源は何でしょうか?

「そうですね、いわゆるチャレンジスピリットとは、少し違うのだと思います。我々は企業理念のひとつに『会社の目的は永遠に存続すること』と掲げています。永遠に存続するためには、時代の変化に対応し続けなければなりません。東日本大震災も今回も大きな変化であり、変化は攻めるチャンスでもあるという考え方です。ただし闇雲に攻めるのではなく、健全経営をしながらできる投資は積極的に行なう。この姿勢はずっと変わっていません。

 我々が健全経営にこだわるのは、リストラは絶対にしないという決意があるからです。リストラをすれば、会社の業績は一時的に良くなるかもしれませんが、社員のモチベーションは下がりますよね。もっと悪くなったら次は自分の番じゃないかと思ってしまうでしょうし、この会社に残ったほうがいいのか転職すべきか、そんな不安な気持ちでいい仕事はできないと思うんです。

 ですからリストラを必要としない健全な経営がまず主軸にあり、攻めながら守るのではなく、守りながら攻めるという感じですね」

──人材を大切にされているということだと思いますが、優秀な人材を確保するために、どのような工夫をされていますか?

「まずはやはり採用だと思います。アイリスオーヤマには若い社員がとても多いのですが、それは中途採用も含めて、若い人材を積極的に採用しているからです。同時に社員教育については、研修を強化するのではなく、評価を強化しています。できるだけ公正な評価をすることで、モチベーション高く仕事に取り組んでもらいたい。そのために上司だけでなく、同僚や部下など幅広い立場から評価を行なう『360度評価』を徹底しています。この制度はもう15年以上前から導入しているものですが、できるだけ本人が納得しやすい形で、公正なものになるように絶えずブラッシュアップしています。

 また年に1度、同じ等級の人、課長だったら課長だけを集めた研修も実施しています。それぞれに論文を書いてもらって、その内容についてプレゼンテーションをしてもらうのですが、そうすると自分の立ち位置が今どのあたりなのか、よくわかるんです。また業績評価も、できるだけ大きなグループでやって、立ち位置が見えるようにしています。努力すれば上がるし、苦戦すれば下がる。なおかつ360度評価で、業績以外の自分の働きがほかの人からどう見られてるかもわかる……というしくみです。毎年約1か月、時間をかけて、全社員の人事評価を行なうのは大変ですが、そうすることで人材が育つと思っています。

「なるほど家電」で業界に旋風

「なるほど家電」で業界に旋風

大手電機メーカー出身の技術者などを雇用し、家電を強化。付属の静電モップについたホコリを、掃除機のスタンドで除電&吸引できる、アイデア満載の極細軽量スティッククリーナーや、換気需要で大ヒットとなった小型ながらパワフルなサーキュレーター。音声操作が可能なテレビなど、一工夫ある「なるほど家電」はラインアップを拡充しつつ、量販店に専用コーナーが設置されるまでに急成長している。

毎年約1か月をかけて「360度評価」を徹底

毎年約1か月をかけて「360度評価」を徹底

実績、能力、360度評価の3つで人材を評価。能力評価は多くのメンバーで構成される「人事評価委員会」が行ない、「360度評価」は上司、同僚、部下が約1か月かけて評価を行なう徹底ぶりだ。

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