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『SBU』は、企業経営において効率よく最大の効果を上げるために設置される、戦略主導型の組織です。多角化戦略を展開する企業で導入すれば、全社的な戦略を実現しやすくなるでしょう。SBUの意味や分け方のポイント、導入事例を紹介します。
SBUとは?分かりやすく解説
『SBU』とは「Strategic Business Unit」の略語であり、『戦略的事業単位』と訳される言葉です。企業活動をさまざまな設定基準で分けて考える際に使われます。
企業活動の単位を指す
大企業や中小企業の中には、複数の事業や製品を展開している企業があります。一つの企業において、事業や製品を戦略ごとにまとめたグループがSBUです。
事業部制を採用している企業であっても、事業部とSBUの区分が一致するとは限りません。複数の事業部で一つのSBUとすることもあれば、一つの事業部が複数のSBUに属するケースもあります。
物理的な事業部単位で練られた事業計画に比べ、より戦略性を高められることが、SBUを導入するメリットです。事業や製品をSBUで区分した場合は、それぞれに独自の戦略を落とし込む必要があります。
SBUの設定基準は多様
SBUは、事業のジャンルや製品の種類で単純にグループ分けするものではなく、グループごとの戦略性を持たせることに本質的な意味があります。
したがって、実際に設定されるSBUの形態は企業によってさまざまです。
SBUの設定基準には、『明確なミッションがあること』『独自の競合他社を想定できること』『経営責任者をおけること』などが挙げられます。
一定の経営資源をコントロールできたり、単独で戦略的な計画が策定できたりすることも、それぞれのSBUに求められる設定基準です。
BUとの違い
『SBU』と似たビジネス用語に『BU』という言葉があります。「Business Unit」の略語であり、会社組織における部署やグループなどの事業単位を意味する言葉です。
SBUからSを取った言葉であることからも分かるように、BUには戦略的な意味合いは含まれていません。ただし、ある程度の共通点があるグループに分けられるのが一般的です。
SBUで事業計画を立てる際は、SBUをさらにBUへ細分化し、資源配分の方向付けなどが行われます。SBUでBUを設定する場合は、SBUと同様、既存の事業部の区分と同じになるとは限りません。
SBUと多角化戦略の関連性
SBUは、アメリカのGE社(ゼネラルエレクトリック社)が多角化戦略による事業の乱立と収益の減少を抑えるために、1970年に世界で初めて取り入れた概念です。
自社の経営資源を新たな製品や市場に展開する多角化戦略では、SBUによる事業選択と個々の戦略設計が重要視されています。
事業の拡張を目指す戦略の1つ
『多角化戦略』とは、既存事業以外の製品や市場に経営資源を投入し、新しい分野へ事業を拡張する経営戦略です。
企業の成長戦略の種類には、多角化戦略以外に、既存製品を既存市場に販売する『市場浸透』、既存製品で未開拓の市場に参入する『市場開拓』、既存市場に新しい製品を投入する『新製品開発』などがあります。
多角化戦略は、既存事業のようにターゲットのデータも少ない状態で金銭・時間・人的コストを投資するため、ハイリスクな戦略といえるでしょう。
しかし、多角化戦略が成功した場合『新規市場開拓』『収益リスクの分散』『既存事業とのシナジー創出』など多くのリターンを享受できることから、投資資本が十分にある企業を中心に採用されています。
多角化戦略のメリット
多角化戦略により事業を増やすことで、リスクを分散できます。仮に一つの事業が失敗しても、企業全体のダメージは最小限に抑えられるでしょう。
また、企業の既存事業とのシナジー効果を期待できることもメリットです。
複数事業の運営により経営資源の共有を図り、販売・生産・投資・マネジメントに関する相乗効果を得られる可能性が高まります。
多角化を選択すれば、未使用資源を活用できる場合もあるでしょう。設備・人材・情報・資金など、使われなくなった企業資源の有効活用を図れます。
多角化戦略のデメリット
新製品開発や新市場開拓には、相応のコストがかかります。既存事業とは全く関係のない事業を展開することになるため、多大な投資が必要になるでしょう。
それぞれの事業間でシナジー効果を獲得できない間は、経営が非効率になりやすいこともデメリットです。部品の発注や設備利用などを、各事業で個別に行わなければなりません。
多角化戦略では、自社の活動範囲や競争領域のことを指す『企業ドメイン』が曖昧になりがちです。事業を増やし過ぎて自社の強みを見失わないように注意する必要があります。
SBUはどう分けるのか?
事業や製品を戦略ごとに区分するSBUについて、具体的な分け方を解説します。分ける際に注意すべきポイントも押さえておきましょう。
顧客・サービスの違い
SBUは、『同類の製品』『サービスを提供する市場』『顧客が異なる場合』や『同じ市場・顧客に提供する製品』『サービスが異なる場合』に分けられるのが一般的です。
『市場・顧客の違い』とは、業種や業界、市場や顧客の大きさ・信用度、購買頻度や購買サイクルなどの違いを指します。
また、『製品・サービスの違い』とは、市場・顧客から見た価値の違いや、価格に対する感度の違いなどが挙げられるでしょう。
顧客やサービスの違い以外に、『競合の有無』や『新規参入の可能性などを示す競争状況の違い』や『戦略の方向性の違い』などによっても、SBUを区分することがあります。
分ける際のポイント
企業によっては、SBUを導入する必要のないケースがあります。
顧客やサービスを分けずに事業戦略を立てられるのであれば、無理にSBUを導入して分ける必要はないでしょう。
SBUの導入を検討する際に重要なことは、顧客やサービスを市場と顧客の要素で区分すれば企業にとって有益になるのかを考えることです。
『サービスを分けられるかどうか』のみを考えることに意味はありません。『顧客やサービスを分けた上で、最大の効果を効率よく生み出せるか』という点を検討することがポイントです。
SBUを導入している企業
多角化戦略を展開する大手企業の中には、SBUの導入による組織改編を図っている企業も数多く存在します。SBUの導入実績がある企業を紹介します。
General Electric Company
アメリカを主な拠点とし、多様な分野で事業を展開している、世界最大の多国籍コングロマリットです。日本においても、100年以上にわたり事業を行っており、SBUを世界で最初に導入した企業としても有名です。
SBUの設定基準として、現在広く知られている条件は、GEがSBUを導入した際の本社経営会議で策定されています。
SBUを導入したことにより、当時170にも及んでいた製造部門は、43のSBUに整理されました。
SBUによる戦略を参考に開発されたフレームワークが、現代の主要なマーケティング手法として知られる『PPM(プロダクト・ポートフォリオマネジメント)』です。
ビジネス用語でもあり、単位でもある「PPM」の意味と正しい使い方
三菱重工業株式会社
三菱グループに属する大手重機メーカーです。現在は火力発電を主力事業とし、GE社とはエネルギー分野でライバル関係にあります。
三菱重工業は、2013年にSBUを導入し、当時九つの事業本部から構成されていた組織体制を、四つの事業ドメインに集約・再編しました。2021年現在は、3ドメイン4セグメントへ改編されています。
2013年のSBU導入においては、各SBUを事業のライフステージと収益・財務健全性に応じた事業ポジションに分類し、それに見合ったリターンの設定と経営資源の配分を行いました。
これにより、全社におけるリソースの最適化と企業価値の向上を図っています。
株式会社IHI
『資源・エネルギー』『社会インフラ』『産業機械』『航空・宇宙』の事業を展開する総合重工業メーカーです。三菱重工業・川崎重工業と並ぶ三大重工業の一つとして知られています。
IHIでは、2017年の組織改変時に、四つの事業領域それぞれの傘下に事業遂行組織としてSBUを配置しました。
各事業領域は、傘下のSUBの事業戦略実行を管理監督しながら、必要な経営資源の配分を行います。
また、各SBUには、それぞれの事業領域で立案された戦略の忠実な実行と、SBU連結での利益に対する責任負担が求められています。
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構成/編集部