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新型コロナウイルス感染拡大で表面化した様々な労働問題とその行方

2021.01.14

■連載/あるあるビジネス処方箋

今回と次回は、昨年3月前後から本格化した新型コロナウィルス(以降、コロナウィルス)感染拡大によって働く人の働き方はどうなっているかをテーマとします。昨年4月から新聞や雑誌、ニュースサイトの労働に関する記事を見ていると、「在宅勤務が増えて通勤が減り、働きやすくなった」「労働生産性が上がった」といった内容が大半を占めます。

こういう記事の詳細に目を通すと、そこまで言い切る根拠や具体的な事実に欠しいのです。「通勤がなくなった」といった働き方の、ある意味での光の部分をことさら強調しているような報道も少なくありません。

はじめに「コロナウィルス感染拡大で、働き方が大きく変わった」と結論があり、それを裏付ける内容にするために、強引に材料を集めているようにしか見えない記事も多数あります。そもそも、日ごろから人事や労務に関心がない人が書いているような内容も目立ちます。

私は、生活や人生に直結している労働問題を報道する時に、影の部分を伝えないことに30年程前から「異議あり!」の立場です。正しい情報を得られないと、生活にきしみが出たり、人生の軌道修正を強いられる可能性がある以上、多くの人が知りたくもない内容もあえて報じるべきと考えています。

そこで今回は、労働組合・全労連(全国労働組合総連合)の組織・法規対策局長の仲野 智さんに取材を試みました。連合、全労連、全労協のいわゆる3大労組(ナショナルセンター)の中では、全労連は経済界、会社や経営側に最も厳しい姿勢で臨んでいると私が1990年代から捉えているため、取材の依頼をしました。

全労連は、1989年に結成されました。2020年6月末現在の組合員は99万4千人で、単産20組織、オブザーバー1組織、地方組織47組織。

全労連(全国労働組合総連合)組織・法規対策局長の仲野 智さん

Q 加盟労働組合以外の労組の組合員や、労組がない職場の労働者からの労働相談を定期に受けているようですが昨年4月前後からの労働相談の状況は?

仲野:コロナウィルス感染拡大に伴い、昨年2~3月から私たちの労働組合の本部(ナショナルセンター)には労働相談がしだいに増えてきました。特に4月上旬、政府が緊急事態宣言を発令してから顕著になりました。5月下旬に発令を解除した以降も、相談件数は一定のペースで増えています。7~8月にその状況はさらに悪化し、改善されることなく2021年1月現在に至っているのです。

相談をしてくる労働者が勤務する職場は、規模は大企業から中小企業まで、業界は飲食業、旅行業やサービス業を始め、広範囲に及びます。大企業よりは、中小企業が目立ちます。

労働形態は契約、派遣、パート、アルバイト、日雇いの非正規が多いのですが、正社員も少なくありません。一般職(非管理職)、管理職、性別、世代に特に偏りはなく、広い層に及んでいることも今回の特徴と言えます。

昨年3月から12月に至るまでの労働相談の累計は、約2200件。うちの約4分の1は休暇や休業の扱い。残りの4分の1は、賃金(日給、月給、賞与、退職金、残業代など)の未払い。残りは、労働条件の変更(例えば、週5日勤務を2日勤務に変更など)などとなります。

Q 昨年5~8月前後に、政府は特別定額給付金(給付対象者1人につき10万円 )を支給しましたよね?

仲野:10万円が1回だけでは、特に非正規労働者(以降、非正規)にとっては少ないと思います。特に6~8月に支給されるケースが多かったはずですが、その時期はすでに人員整理で職を失ったり、労働条件の強引な変更で、例えば、週5日勤務が週3日勤務になった後です。日給や月給の額が、会社の都合で変わったにも関わらず、大幅に減っているケースがあります。しかも、その減額は今に至るまで続いている場合すらあるのです。

こういう状況下で「10万円1回のみ」では、政策として非正規を支えることにはなりえないと思います。例えば、独身者で、生活面で支え合う家族がいないとすると、より一層に厳しい状況になりうるかもしれません。

特に非正規の場合は、政府によるさらなる支援が必要です。少なくとも雇用を維持することは急務なのですが、それすら依然として不十分です。実際、人員整理をする中小企業が増えています。昨年、秋頃からは大企業にも及んでいるのです。

5月下旬に政府が緊急事態宣言の発令を解除しました。いったんは社会に落ち着きが戻った7~8月からも、政府は会社への支援もさることながら、非正規を中心とした労働者への支援を次々と打つべきだったのです。それが、2021年1月現在の今もなおできていないところに問題があります。

今は、非正規は2165万人(厚生労働省調べ)にもなっています。全労働者の4人に1人の割合になります。この層の支援を繰り返さないと、経済全体の状況はよくはならないと思います。

Q 政府は細かい対策をしてきてはいるのかもしれませんが、金融機関や信用調査機関が発表する調査結果を見ると、経済、経営情勢は2021年1月の時点で好転はしていないようですね。

ところで私が昨年9月~12月にかけて居酒屋や飲食店などを取材すると、2020年7月に東京都から、営業時間短縮の要請があったことを問題視するオーナーや店主が多かったのです。要請は、酒類を提供する居酒屋や飲食店に営業時間を朝5時から夜10時までに短縮する内容でした。

これが、「4月の発令以降の2発目の痛いパンチとなり、大きな打撃を受けた」と話していました。「5月に発令が解除され、いったん回復傾向に入っていた時の、営業時間要請は大きな打撃になった」と言うのです。

仲野:4~5月までの危機をなんとか乗り越えた中小企業は6月以降になり、力尽きた場合もあるのではないか、と思います。その中には、労働条件を本人の意志に反して強引に変えたり、人員整理をしたケースもありました。個々の中小企業の経営努力で克服するのは、難しかったのかもしれません。年末年始を乗り越えられない中小企業もあったはずです。

Q 働く側にとっては、特に何が問題であったと感じられますか。

仲野:労働相談で目立ったのは例えば、有給休暇(年次有給休暇)を始め、休暇や休業の扱いです。例えば、非正規が「家族に風邪をひいた人がいる」と上司に報告すると、「2週間休んでほしい」と言われる機会が増えてきました。その労働者は体調に問題はなく、家族はコロナウィルスやインフルエンザなどではないようなのです。

これではその2週間で働き、受け取るべく賃金を受け取れなくなる場合があるのです。ところが、同じような状況になっても、同一の職場の正規の労働者には「2週間休んでくれ」とは言われないようです。たとえそのように言われていたとしても、正規の労働者は有給休暇で休むことができます。

非正規は、その職場では有休を消化することができないのです。労働基準法では、非正規も労働日数に応じて有給休暇(以降、有給)が付与されるはずです。それにも関わらず、有給を消化することができずに、一方的に「2週間休んでくれ」と命じられる。2週間分の賃金が支給されなくなってしまうのです。

ここに、私たちがかねがね問題視している「非正規と正規との格差」があるのです。そもそも、会社は法律を守っているのか、と問いたいのです。

ただし、この有給の扱いは正規においても問題があります。昨年4月からのコロナウィルス感染拡大のはるか前から、たとえば、インフルエンザになった場合、会社の都合でいわば、業務命令に近い形で、有給で休ませることが多々ありました。本来、会社の都合で休むようにしておいて、その日を有給の扱いにすることは問題があります。その日は、「特別の有休」とすべきではないか、と私は思います。

これまで長きにわたって、有給の扱いは労使間の合意が十分にはないまま、あいまいに処理されていました。この問題が、昨年4月から一気に表面化したと言えます。有給のあいまいな扱いを、非正規にも同じようにするから問題がより一層に深刻化するのです。

Q 私も会社員(正規社員)の晩年の頃(2004~05年)に、インフルエンザになりました。上司から、強制的に有給を消化するように仕向けられました。「会社都合の強引な有休消化」はインフルエンザに限らず、有休消化率を上げようとしているのか、様々な職場で見られるようですね。

ところで、相談に来る労働者が勤務する職場には労働組合(企業内労組)がないのでしょうか。企業内労組は一体、何をしているのでしょう。

仲野:職場に労働組合があるとするならば、2020年4月から現在に至るまでに会社にどういう交渉をしていたのかは問われてもいいことではあると思います。

昨年4月以降、在宅勤務を中心としたテレワークが急速に進みました。いい面もあるのでしょうが、問題点も少なくありません。例えば、労働時間の管理はきちんとできているのか。長年の懸案であった残業時間の管理や削減があいまいなまま、なし崩し的に進んでいるのです。結果として成果主義やジョブ型の雇用のスタイルが浸透しています。

しかも財界が前々から考えていた働き方が、労使間の議論や合意形成がないまま、どんどんと進められようとしています。大企業では、一応は企業内労組との間に労使合意がされているのかもしれませんが、それは本当に「合意形成」と呼べるものなのでしょうか。多くの中小企業でその合意形成ができている、とは私は思えないのです。

続きは、次回で紹介します。

取材を終えて

在宅勤務を「新しい働き方」として歓迎する論調は、大多数のマスメディアにある。例えば、5大全国紙の報道はほぼすべてがその路線に見える。

だが、つい最近まで「残業時間が膨れあがっている」「残業時間の管理があいまいで、未払いが多い」といった問題があったはずだ。これらは、どうなったのだろうか。まさか、在宅勤務を始めたら一気に消えたなんてことはありえないはずだ。

実は、これらは「新しい働き方」として歓迎する世論やムード、空気が支配的な今、見えないようになっている問題ではないのか。このような影の部分をあえて見えるようにしていくのも、報道のあるべき姿なのだと思う。

全労連のホームページ
「新型コロナウィルスに関する労働相談Q&A」
http://www.zenroren.gr.jp/jp/corona.html

文/吉田典史

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